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私のやんごとなき王子様

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 一限目の授業は全く頭に入らなかった。演劇祭の担当の締め切りが明日だという事に加えて、今朝の亜里沙様の言葉と潤君の誘いが頭の中でぐるぐるとして、とても授業どころではない。おかげで数学の授業は何をしていたのかさっぱり記憶から抜け落ちている。

 こんな事じゃダメだよなぁ。
 心の中のつぶやきと同時に席を立つ。

「ん? どこ行くのー?」

 さなぎの問いかけに顔を洗ってくる、と答えて私は廊下へ出た。

 顔でも洗って気分を一新しなきゃ、次の授業も上の空になりそうだったのだ。
 廊下は窓が開け放たれていて、教室よりずっと爽やかな風が吹いていた。

「はーーーーっ」

 水場の淵に手を掛け、ため息とも深呼吸ともわからない息を、一つ大きく吐いた。
 締め切りは明日なのに、まだ決めれていない自分が本当に嫌になる。
 窓から校庭を覗くと生徒達は皆、嬉しそうに見えて仕方ない。
 当然だ。
 演劇祭を喜ばない生徒はこの学園にいやしない。

「はーーーーっ」

 今度は明らかなため息が口から洩れた。

「君、ちょっと」
「ひゃっ!」

 ため息を吐いていると、ふいに後ろから声をかけられたので思わず変な声が出てしまった。
 恥ずかしさに軽く赤面しながら振り向くと、そこには一人の顔立ちの綺麗な男子生徒が立っていた。

 彼のことはよく知っている。土屋奏(つちや そう)君、学年は私と同じ。
 土屋君は有名な画家の息子で、彼自身も美術部に所属している。おまけに性格にクセがあるものだから、ちょっとした有名人なのだ。

「何ですか?」

 ‘あの’土屋奏君に向かって尋ねると、彼は値踏みをするような眼で私にじろりと視線を這わせた。
 何だろう、すごくコワイ。

「君、演劇祭は何を担当するの?」

 急にそんな事を聞かれたものだから私は一瞬たじろいだ。

「えぇっ? わ、私はまだ……決まってないんですけど……」

 しどろもどろになりながらもバカ正直にそう答えると、土屋君は何だか嬉しそうに目を細めた。
 な……なんなの?

「なら大道具に決定だ」
「えぇ?!」

 いきなりの展開に思考が付いていかない。どうして急に? なんで私が?

「僕は背景を担当するんだ」
「は……はぁ」