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私のやんごとなき王子様

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 意味がわからなくて脳みその中で思考がぐるぐると渦巻いている私を、特に気にするでもなく土屋君は淡々と言葉を投げ続ける。

「僕は演劇祭で背景を描くんだ。それはそれは美しい白鳥の湖だよ。君が大道具に来たからといって、何も僕の手助けをしろという事じゃあない。僕の芸術に他人の手が入るなんて考えられないからね」
「は……はぁ」

 なっ、なんなのー?!

「ただ僕は描きたくもない絵を描く趣味はないんだ。つまり君は僕が描きたくない、僕の感性が疼く事のない『その他』を担当すればいいのさ」
「え……それって……?」

 戸惑う私を尻目に、土屋君はとても綺麗に(若干意地悪そうではあるけれども)微笑んだ。

「君がどの程度の絵を描けるのかは分かっているつもりだよ。君が授業で描いた作品は何点か目に入れてある。『その他』を任せるには十分な腕だ」
「は……はぁ」
「分かった? 君が担当するのは大道具。ふふっ、待ってるよ」

 そう言うと土屋君はくるりと踵を返し、去って行った。
 ……い……言いたい事だけ言って去っていくって。噂どおりの‘あの’土屋君だわ……。


 茫然と立ち尽くす私をチャイムの音が現実に引き戻した。

「ヤバッ!」

 早く教室に戻らないと、次の授業に遅れちゃう!
 私は慌てて教室へと駆け出した(廊下は走っちゃいけません!)。