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私のやんごとなき王子様

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「せんぱーーい! 小日向せんぱーーい!」


 ふいにはるか後方から自分を呼ぶ声を聞いてやっと意識が現実世界に戻ってくる。

 声のした方へと視線を向けると、そこには後輩の波江潤(なみえ じゅん)君がこちらへ向かってさわやかな笑顔のまま走ってきていた。

「おっ、誰かと思えば次期王子様じゃない。今日は朝からモテますなぁ」

 さなぎがからかうように私を小突く。

「もうっ、なに言ってるのよ」
「いいの、いいの! 私の事はお気になさらず! 先、教室行ってるね〜」

 勝手にそんなことを言って軽やかな足取りで階段を上って行ってしまう。
 まったくもう。

「先輩、おはようございます!」

 さなぎを目だけで見送っていると、既に私の横には潤君がいた。

「おはよう、潤君」

 私が返事をすると、彼は本当に嬉しそうに笑った。
 その笑顔の可愛さに思わず私の顔も綻ぶ。

 潤君は今年入学したばかりの一年生。けれどその整った容姿と人懐っこい愛らしさに風名君が卒業した後の、学園の次期王子様は彼になるだろうと早くももっぱらの評判なのだ。

「どうしたの? そんなに息を切らせて」

 潤君は私のことを『小日向先輩』と呼んで懐いてくれているけれど、なにも部活動が一緒だとかそういう訳ではない。私は彼が入学してきた時に学校の案内を務めただけなのだ。けれどなぜだかそれをきっかけに、こうしていつも屈託のない笑顔を彼は私に向けてくれる。

「実は……あのっ」

 いつもハキハキしている潤君にしては珍しく言いよどんだので、私は少しだけ不審に感じた。一体どうしたんだろう?

「あ、えっと……せっ、先輩は演劇祭って何を担当なさるんですか?」
「えぇ?!」

 びっくりした。まさか潤君にまでそんな事を聞かれるだなんて思っていなかったから。

「え……と私は……まだ……なの」
 
 先輩でありながら、まだ決めかねている自分がなんだか情けなくって、思わず声が小さくなった。

「そうなんですか?!」

 そんな私の答えを聞くと、潤君は子犬のようにキラキラと目を輝かせて私のほうへと一歩踏みよった。
 えーっと……これは……?

「実は僕、今度の演劇祭で風名先輩の従者役を務めるんです!」