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私のやんごとなき王子様

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 ワァァァァァッ――


 不意に校門のほうから歓声が上がった。

「あ、亜里沙様だ」

 さなぎの声が耳に届くと同時に、私の視線はとびきりの美少女を捕らえていた。
 黒塗りのリムジンから品良く降りてきた、その見目麗しい少女こそ『桜亜里沙(さくらありさ)』。
 この星越学園一の美少女であると同時に、芸能界で今もっとも注目を集めているアイドルだ。今度の演劇祭でもヒロインのオデット役を務めるのは、おそらく彼女だろう。

「ごきげんよう」

 我先にと校門に集まったとりまき達に、長く美しい髪を揺らしながら艶然と微笑むその姿は、まさに天使だった。
 彼女はそのまま歩みを進め、私の目の前までやってくると綺麗に微笑んだ。

「ごきげんよう、小日向さん」
「おっ、おはようございます! 亜里沙様っ」

 突然に学園のアイドルに声をかけられ、私は上ずってしまった。
 私なんかの苗字を覚えてくれていた事に、心臓がばくばくと早鐘を打っている。
 彼女のとりまきたちは私の顔を恨めしそうにねめつけている。正直コワイ。

「あなたの事は玲君から聞きますのよ、ごく稀に……ですけれど」
「え! 風名君から!?」

 私が驚いて声を上げると、彼女の綺麗な眉が一瞬ひそんだ……ような気がした。

「ええ。今、ドラマの現場でご一緒しているのですけれど、その合間にたまにお話してくださりますの、あなたの事」
「は……はぁ」

 はぁとしか言いようが無い。風名玲(かぜなれい)君というのは、この学園の生徒で私や亜里沙様と同じ高校3年生。
 ただ普通の生徒と違うのは亜里沙様と同じく芸能界にいて、しかもやはり彼もトップアイドルという事だ。
 この星越学園の姫が亜里沙様なら、風名君はまさに王子様。女生徒の憧れの的なのだ。
 今は亜里沙様と連続ドラマのダブル主演を務めていて、亜里沙様はその合間に風名君が私の話をしてるっていうけど……。

 私からしたら理由もさっぱり分からない。確かに私と風名君は3年間同じクラスで、男女関係無く誰にでも優しい風名君とは少なからず接点はあった。けれどそれだけ。本当にただのクラスメイトの一員で、しかも私のような何の取り柄も無い人間の事を風名君が話題に出す理由が見つからないのだけれど……。