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私のやんごとなき王子様

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「美羽ーーーっ」

 背後から呼び止められて、私はくるりと振り向いた。

「おっはよー!」

 こちらに向かって元気に手を振りながら走ってくるのは、私の親友の佐波山渚(さわやま なぎさ)――通称さなぎだ。

「おはよう」

 私も右手を上げて挨拶を交わす。
 さなぎのショートカットの髪がふわりと風に揺れた。

「はーっ。朝から走ったぁ」
「そんなに慌てなくても良かったのに」

 息を整えながら私の横を歩くさなぎに、微笑みながら言葉をかける。

「だって明後日の終業式が終わったら、いよいよ夏合宿じゃん! なんかわくわくしちゃって体に元気が溢れてるんだもん!」

 さなぎは本当に嬉しそうだ。

 夏合宿というのは、毎年演劇祭の準備期間中に理事長が所有するリゾート島で行われる集中合宿の事だ。
 けれどそこはこの名門校所有の島。それはもうすばらしくゴージャスなので、さなぎのテンションが上がってしまうのも分かるのだけれど……

「ねぇねぇ、美羽は演劇祭なにを担当するか、いーかげん決めたよね?」
「う……実はまだ……」
「えー! おっそ! 明後日だよ? 締切ー」
「うん」

 そう――私はこの学園一大イベントの演劇祭で自分が何を担当するかを、いまだ決めかねている。だから当然テンションだって沈みっぱなし。

 私たちが今回披露する演目は『白鳥の湖』。終業式翌日から始まる一週間の集中合宿で一気に形にしていく。
 学園一大イベントの割に準備期間が短いとも思うが、そこは著名な芸能人も多く輩出している星越学園風の流儀で、時間をかけて良い物を作れるのは当たり前、短時間で成果をあげられる非凡な才能を持つもの達の結晶、それこそがこの演劇祭最大のアピールポイントなのだ。

「なにかしたい事とかないの?」
「うーん……」

 したい事……。
 そして出来る事……。
 そのどちらも私にとってもは重要で、どうするべきなのかを考えると悩みの泥の中へと捉えられてしまう。
 私は自分が何をすれば一番みんなの為になるか、成功につながるかが掴めずにいた。