私のやんごとなき王子様
まあ、そんなに優しいわけはないって分かっていたけど、仮にも先生なんだからもう少し生徒を気遣ってくれても罰は当たらないと思うのは私だけ?
仕方なく薬を取りに近づくと先生は手を止めてちらりと私を見上げた。
性格にはかなり問題アリだけど、本当に顔はカッコいいんだよな。
先生のファンの女の子達はきっと鬼頭先生の本性を知らないんだ。可愛そうに。
なんて思いながら薬を口の中にほおり込んで一思いに飲み込むと、先生がふと笑った。
「どうせお前の事だから、演劇祭で何をするか決められずに悩みすぎて胃が痛くなったんだろ?」
「う……」
真壁先生に聞いたのだろうか。二人は同期で仲が良いのだ。
「誰かに言われなければ何も決められないとは、お前は幼児と同じだな」
「ちっ、違いますっ! どこを手伝えば最高の演劇祭になるか真剣に考えてたら、まとまらなくなっただけです! それにっ……」
「――それに?」
反論して声を荒げてしまった私は、昨日色んな人達に手伝いをしてくれと頼まれた事を思い出し、それを口走ろうとしたのを寸での所で止めた。
もしその事を言ったらまた馬鹿にされそうで怖かったのだ。
私だって学園で有名な男の子達から誘われたのは夢じゃないかって思ってるくらいなんだから、鬼頭先生に知られたら馬鹿にされるどころか、とうとう妄想までし始めたのか、って憐憫の目で見られるかもしれない。
で、結局、
「――えっと、何でもないです」
と、半ば降参気味にうな垂れてそう言うのが関の山だった。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、先生はペンを置いてゆっくり私に向き直った。
「どこの手伝いをするのが一番いいか、俺が教えてやろうか?」
「どうせ何もするなって言うんでしょ?」
「馬鹿かお前は。何もしないのは手伝いとは言わない。そんな事も分からないのか? まったく、高校生とは思えん会話力と理解力だな」
本当にこの人は人のあらを探すのが好きだな。絶対口から先に生まれたに違いない。もし機会があったら先生のお母さんに確かめたいくらいだ。
喉まで出掛かった文句をぐっと堪え、目をつぶって極力先生の顔を見ないようにした。
作品名:私のやんごとなき王子様 作家名:有馬音文