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私のやんごとなき王子様

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コンコン

「どうぞ」

 中から低くてよく通る声で返事が聞こえ、私はドアを開けた。

「失礼します……」

 開けたドアの向こうには鬼頭先生が一人で机に向かって仕事をしている姿があった。
 もしかしたら他に具合の悪い生徒がいるんじゃないかって期待したけど、残念ながら今日は皆健康らしい。ベッドはどこも無人で、真っ白なシーツが眩しいくらいだった。

「――小日向? どうした?」

 鬼頭先生は私の顔を確認するといつものちょっと人を馬鹿にしたような視線を寄越し、微かに口の端を上げた。
 そう、これ。この顔が苦手なのだ。
 どうやってこいつをからかってやろうか。っていうのを隠そうともしないその不敵な顔。
 私は入り口の所に立ったまま静かに言った。

「お腹痛いので胃薬ください」
「へえ、お前でもストレス感じる事があるんだな」

 ほらね、やっぱり私の事馬鹿にしてる。
 ちょっとムッとしながらも先生だから文句も言えず、私は口を尖らせながら続けた。

「……早く薬ください」
「分かった。どうでもいいが早くドアを閉めて利用者カードに学年、クラス、名前を書け」
「あ、はい」

 二人きりになりたくはなかったけれど、仕方ないので中に入って入り口の近くに置いてある保健室利用者カードに素早く記入する。
 速記じゃないかってくらいの早さで書いた。

 薬を棚から出してコップに水を注ぐ先生の後姿をじっと見つめる。
 同級生の男の子とは違う、大人の男の人の背中。
 背格好は同じ位でも、年上だというだけでなんだか背中から滲み出る雰囲気も同級生とはずいぶん違うような気がする。
 そして薬を持って来てくれるものだと思ってそこで待っていた私に、先生はそのまま自分の机に座って仕事を再開しながら、あごでその机の脇に置いた薬と水の入ったコップを示した。

「さっさと飲んで寝てろ」
「いえ、飲んだら教室に戻ります」