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私のやんごとなき王子様

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 三島君に釘を刺された私は、職員室まで日誌を届けに行ったさなぎに代わって一人で最後の授業で使用した化学実験道具のチェックをしていた。
 カチャカチャとビーカーの数を数えて棚に綺麗に並べていると、教室のドアが開く音が聞こえた。

「遅いよ、さなぎ。まだこんなに残ってるんだよ〜!」

 少し怒ったように言ったものの予想していた返事は返ってこなくて、私は膨れっ面を作って振り向いた。

「こんなに頑張ったんだから、帰りに大福おごってよ……って、あれ?」

 振り向いたそこにいたのはさなぎではなく、同じ3年の利根華月(とね かづき)君だった。
 利根君は驚いたような顔を一瞬して、すぐに綺麗に微笑む。

「ごめんね、佐和山さんじゃなくて」
「あっ、えっと……ごめんなさい。てっきりさなぎだと思って」

 私は恥ずかしさで手に持っていたビーカーを急いで棚にしまった。
 利根華月君。彼は実家が有名な華道の家元の跡取り息子で、この星越学園でも一、二を争う人気者だ。
 物静かな雰囲気が綺麗な顔立ちと合わさって、化学実験室がまるで高価な茶室に思えてくる。

「一人で片付け?」
「あ、うん。さな……えっと佐和山さんが職員室まで日誌届けに行ってて」
「手伝うよ」
「えっ!?」

 そう言うが早いか、利根君は流れるような動きで私の隣まで来るとフラスコを数え始めた。
 急な展開について行けない私は、利根君の白くて繊細そうな指と、長くて綺麗な睫毛を交互に眺めて気がついた。
 利根君は同じクラスじゃない。

「あわわっ! 利根君いいよ、クラス違うじゃない!」

 慌てる私に、利根君はピタリと動きを止めてこちらを向いて肩をすくめた。

「駄目だよ小日向さん。いくつだったか分からなくなったじゃないか」
「あっ、ごめん……じゃなくって!」
「クラスが違っても手伝いくらいしてもいいだろ?」
「そうだけど……」

 そうだけど、もし利根君のファンの子にこんな所見られたら大変なのに。
 気持ちは焦るけど、でも正直手伝ってくれるのは助かるかも。だってさなぎったらまだ帰って来ないし。

「全部で16個だったよ。次は顕微鏡?」
「あ、ありがとう。えっと次はこっちーーごめんね、利根君」
「どういたしまして」