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私のやんごとなき王子様

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「小日向さ、演劇祭の手伝いって何するか決めた?」

 えっ? またこの話? 本当に皆演劇祭の事で頭がいっぱいなんだなあ。と感心しながら答える。

「……ううん、まだなの」

 さっぱり決まらない自分の意思にうんざりしながら答えた。

「そっか……」

 風名君は袋の中からさっきおまけにもらったチョコレートを出してほおばると、人が途切れた階段で急に立ち止まった。

 私は何事かと風名君を振り返る。
 そういえば風名君と二人っきりでこんなにゆっくり話したのは初めてかもしれない。
 しばらく考えるような仕草をすると、風名君がいきなり私の手を握った。

 わっ!?

 驚きすぎてリアクションが取れない私に、風名君がすごく複雑な顔をしてぼそりと言った。

「小日向、あのさ、もし良かったら……その……俺の手伝いしてくれないか?」
「へ?」

 突然の事に私は思考が追いつかず、風名君が私の手を握っている事とか、自分の手伝いをしてくれないか。なんて言った事とか、全部が遠くの出来事みたいにぼんやりとそのカッコいい顔に見蕩れてしまっていた。

「小日向には、俺の相手役のお姫様をやって欲しいんだ――」

 そこで漸く私は言われている意味を理解して、慌てて首を横に振った。
 手は風名君にしっかり握られていて振りほどく事が出来ない。

「えええっ!? そそっ、そんなの無理だよっ! 私演技なんて出来ないしっ!!」
「大丈夫、小日向なら出来るよ! −−−だからさ、明後日の締め切りまで考えといて……じゃあっ!」

 恥ずかしそうに少しはにかんだ笑顔でそう言い残し、風名君は階段を駆け上って行ってしまった。
 残された私は、真っ赤になった顔でさっき風名君に握られた所為で熱くなった自分の手をしばらく見つめた。
 潤君といい、風名君といい、私に演技させるなんて絶対無謀だよ!

 それにしても……

「はあ……びっくりした……」

 信じられない事の連続で、私の脳みそは限界に近かった。