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私のやんごとなき王子様

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「ちょっと美羽〜。いい加減決めないと本当にヤバいよ?」
「分かってるよぉ……」

 土屋君に話しかけられるという結構ショッキングな体験をした次の休み時間、教室でさなぎに言われ私は力なく机に伏した。

 分かってる。早く決めなきゃ周りに迷惑がかかるって事くらい。だけど高校生活最後のこの演劇祭で、私だってしっかり手伝いがしたいのだから慎重にもなるというもの。
 いまだにどこの手伝いを知るか決められないのは、決して私が優柔不断だからじゃない……と思う。

「先生に怒られても知らないからねー。おっと、言ってる側から先生来た。また後でね」
「うん」

 そう言い残してさなぎは自分の席へと戻って行った。


「はあ……」

 ため息を吐いて私は机の中から教科書を出した。
 と、ふと視線を感じて顔を上げると、斜め前の席のクラスメート、風名玲君がこちらを見ていて、ニッコリと私に笑いかけた。

 えっ?
 この風名玲君は今朝の一件で亜里沙様が話していた、例の人気絶頂の現役アイドル。
 もちろんアイドルだからカッコいいのは言うまでもないのだけど、驚くべきは成績優秀でスポーツ万能。おまけに性格も良くってとっても優しいという事。
 学園中の女の子の3分の2は風名君が好きだという噂が流れるくらい、非の打ち所のない男の子。

 そんな風名君が私に向かって微笑んだものだから、私は驚いた。
 恥ずかしくなって慌てて俯いたけど、よくよく考えたら別に私に向かって笑顔をくれたのではないかもしれない。
 だって私の後ろには他の女の子が何人か座っているのだし、そもそも微笑みかけられる理由がない。
 確かに一年の時から三年間クラスが一緒だけれど、特別仲が良いとかそんなことはないし、第一風名君は誰にでも優しい。
 だけどやっぱり私と目が合ったような気がする。

 あれ、私、ちょっと自意識過剰? そ、そうだよね、だってまさか私なんかに、ね……。
 でも今朝の亜里沙様の言葉もある……ううん、でもまさかだよ。そんな事、あるわけない。
 自分で考えてちょっとへこむ。
 亜里沙様が私の事を風名君がたまに話す、だなんて言っていたから、変に意識しちゃったんだ。

 ――でも一体どんな話しをしているのだろう。すごく気になる。

「起立!」