ゆめくい
1. 八月某日
発砲音。絶叫。奇異の眼差し。赤い水溜り。――そして、死臭。そのどれもがあまりにも現実からかけ離れていて一層現実とは何だ? の疑問が湧き上がる。現実とはつまり現在視て、起こっている事実のことであるがそれにしてもやはり胡散臭い。いや、胡散臭くしているのは自分自身か。それともこの存在自体が胡散臭いのか。此処まで思考して結論に至った。どうでもいい、その一言に尽きる。生きるために必要なのは人間としての三大欲求であり、其処にほんの少しのスパイスを加える。ただ心臓を動かしているのは生きているとは言わない。それは、動いていると言うのだ。だから人は刺激を求める。ちょっとした、麻薬のような刺激を。
「な、んで……ッ」
焦げた栗色のコートを真っ赤に濡らしてただそれだけがわからないと言う顔で何度も何度も同じ事を繰り返す。まるで壊れた玩具だ。そんなものはすぐに捨てられることを知らないのか。いや、知っていても識りたいことがあるのだろう。何故、自分がこんなところで死ななければならないのか、とか。
「死ぬのに理由が必要かイ、ボウヤ? 生まれるのと同じさ、本当の理由なんて何処にも無い」
人は生きるために何かを殺めるイキモノなのだから。
「だからってなんで俺がッ……!」
「キミは誰かに恨まれた。ただそれだけだヨ。あとは、まあワタシがキミを殺すのに相応しい理由だと思っただけかネ」
それでこそ理不尽な世界に相応しいとさえ思う。恨みの連鎖は断ち切れない。ならば恨み続ければいい。殺し続ければいい。そして生き残った果てに気付けばイイ。それがどんなに愚かな行いだったことか! 地獄の釜で悲鳴すらも出なくなるほど焼かれて気付けばイイ。それがどれほど無様な恨みだったことか!
く、つ、り、と不意にこぼれた笑みは誰のものだったか。最期にベレッタの引鉄に指をかける。ジーザス。お祈りは要らないな。