私の主張
お金をください?〜鈴木目線〜
「鈴木ー!」
前田春が笑顔で駆けてきた。
でかいからよく目立つ。
俺はびくっと肩を震わせた。身長が高いのはずるいと思う。
それだけで皆に覚えて貰えるから。
だから俺は大概の背が高いやつが嫌いだ。
「うわぁ」
バンッと音をたてて前田春は転倒した。
でかいからやっぱり目立つ。
でも俺はやつのことは嫌いじゃない。
「くっそ!ここの床出っぱってる!」
出っぱってもいない床に悪態をつく残念な姿。
卑屈な俺はやつのこういうところが好きだ。
モテ男には一生なれない風格がでている。
俺は黙って前田春を立ち上がらせた。
腕を掴むと俺の腕の細さが際立って、思わず顔をしかめる。
「やー、すまん鈴木。じゃあ飯でも食うか?」
俺は適当に相槌をうった。
そんなにこにこしてられるのも今のうちなのになぁと思いながら。
食堂は割合空いていた。
俺はムニエルとご飯小を頼む。
あれ?っと後ろを向くと前田春はまだ席についていた。
手をふっている。
俺は人と椅子を避け前田春のもとへ向かった。
「頼まないの?」
前田春は悲しげに首をふった。
鞄からタッパーに入った気味の悪い物体を取り出す。
蓋を開けるとぎっしり詰まったモヤシがでてきた。
「いただきまーす…。」
気まずい沈黙が流れた。
俺はすっかり彼に対する少しばかりの敵対心が消え失せていた。
ただひたすら悪かった。
…でも仕方ない。
俺は死ぬほど部長が怖い。
そして死ぬほど夢ちゃんが好きだ。
その夢ちゃんは部長にメロメロだ。
…つまりは俺は部長の命令を遂行せねばならない。
「…で、サークルってどんなんなの?」
前田春はくたくたといつのかわからないモヤシをかじりながら聞いてきた。
俺はごめん、ごめんと思いながらすぅっと息を吸った。
「…最高なんだよそれが!」
…そして大嘘を並べ始める。
前田春は目を見開き、体をのり出す。
(あぁ、それにしても…)
なんだって部長はこいつに目をつけたんだ?