私の主張
お金をください?
僕の目の前には今、ひょろっとした男がいる。
そいつはいつになく雄弁だ。
…その男とはつまり、僕に金運を与えてくれる(はずの)人物、鈴木太郎である。
鈴木は体が細いうえ目も鼻も唇もほそい。
落ち着いた爽やかな青のシャツをさらりと着こなしている。
そんな彼と僕はまるで付き合い立てラブラブ他人なんて眼中にありませんあなたがいれば地球が回る愛してるよベイビーなカップルのように熱く見つめあっていた。
…と、いうか僕が一方的に見つめていた。
…なぜなら僕は鈴木の話にただ目を見開くことしかできなかったからだ。
やはりもつべきものは女じゃなく男の友人だと頷く。
…鈴木の説明はこんな感じだった。
(ちなみにこんなに快活な鈴木は久しぶりだった。僕が大学入学当初にトイレでトイレットペーパーを取ってもらった時以来だ。)
鈴木と僕は食堂でお昼を食べているところだった。
腹が減っては戦も出来ぬ。
腹が減っては金も稼げぬ。
…いや、金がないから腹が減るのか?
考えているうちによくわからなくなってきた。
…まぁとにかく鈴木は丁寧にムニエルを箸でくずしていた。
よっぽど腹が減っていたのかなかなか口をわらない。
僕が急かしてからしばし間をあけ、やっと口を開いた。
僕はモヤシ?(友人にもらったファミレスのパンセットに添えられてる)バター炒め?をもふもふとかじっている。
「…最高なんだよそれが!」
鈴木が身をのりだしイキイキと語りだした。
僕は彼の目の輝きに何かそこしれなさを感じた。
「…まぁ、活動内容はちょっと変わってんだけどさ…、名前も変わってんだけどさ…」
「名前なんか犬に食わしとけ!…もったいぶらずに教えてくれよー。」
胸が高鳴る。
鈴木はんんっと喉を鳴らした。
「…よいとも、教えてしんぜよう。我等が麗しきサークル、それとはつまり『おにぎりサークル』である!」
「…お、おに…?!」
なんだそれは!!!
「まぁ待て、そんな怪訝な顔をするな。…ようするにおにぎりサークルは、前も言ったけどボランティアサークルなんだよ。ほら、地域の夏祭りとか被災地とかでおにぎり配ってるボランティア団体をよくみかけるだろ?…まぁ中には単なるボランティアや地域住民とかもいるけど、実は全国津々浦々のおにぎりサークルも混じってるんだ。」
「全国津々浦々にあんのか!」
僕はまさかの発言に思わず声を荒げた。…鈴木はいたって真面目な顔付きだ。
「あぁ。…もちろん受け入れ側は知らない。単なるボランティアサークルだと思ってるとこもある。でも実はちょっと普通のボランティアとは違うんだなぁ。」
鈴木は演技じみた熱弁でふふんと笑った。
「違うって…何が?」
僕の不信な顔をみて、鈴木はにやりと笑う。
なにかすごい秘密がありそうだ。
「…おにぎりしか作らない。」
…
「そんだけ?」
僕はがくっと拍子抜けした。
思わずモヤシをとりおとす。
「いいからよく聞けよ!…おにぎりしか作らない。なぜならそれは裏で戦いが繰り広げられてるからだ。戦いにはフェアな戦いが求められる。もちろん白米の塩おにぎり限定だ。」
「…んん?なんだかよくわかんなくなってきたぞ…。」
僕は頭をかきむしった。
おにぎりで戦うってなんなんだ!!
…目の前の鈴木は余裕綽々の表情で、なんだか腹がたつ。
「ルールは簡単。より多くさばけた方が勝ち。早く、美味く、笑顔で作られることが求められる。…これがなかなか大変なんだけど。被災地の場合はそんなことやってらんないけど幹部は静岡県内大概のおにぎりを必要とする催しを把握してるんだ。だから毎月一回確実に戦いは開かれる。」
「はっはぁ…。」
ぼくらが知らないとこでそんな壮大?なことが行われていたとは…。
僕はここでひとつの疑問がわいた。
「…ん?全国にサークルがあるのに静岡でしか大会は開かれないのか?ていうかなんでそんなサークル存在するんだ?」
鈴木は少しムッとして答える。
「知らないよそんなこと。部長に聞けばわかるんじゃないか?…あと大会だけど各地で行われてんだよ。サークルが存在する大学のある県ならどこでも。だって同じサークル内で戦うんだから。いわなかったか?」
「忘れた!…ていうかほんとになんだそれ!」
意味あんのか?!
「サークル内でいくつか、…大概が6?7人のチームに別れて戦うんだ。米代と賞金は参加費と上のポケットマネーで賄われる。最終的には全国の強豪チームで戦うんだけど。まぁ説明はこんなとこかな。…わかったか?」
鈴木はふーと鼻息を鳴らしムニエルを食べるのを再開した。
僕はぽけらーっと座っていた。
…正直よく分からない。
よく分からない…けど米は食いたい。