私の主張
…叫んでもどうにもならない。
誰も助けてくれない。
無情な世の中に僕はただむせび泣いた。
周りの風景がやけに色褪せて見える。
実際ぼろいから色褪せてるんだけど…。
あぁ不公平だ。
お姫様にはいつだって王子様が助けに来るのに、王子様にはお姫様は助けに来ない…。
僕はぐだぐだとイモムシの様にうねりながら携帯をつかんだ。
携帯を解約する前の最後のメール、「金モトム。バイトモトム。今日中ニ返事モトム。」を打つために。
本当になんてこった。
やっぱり女の子といるとろくなことがない。
駄目だ。
もう駄目だ。
第一僕は彼女の名前もしらなかった。
よくそんなんで金貸したな。自分でもよくわからない。
ただあの時は確かに彼女を救うことだけが僕の宿命のような気がしたんだ。
…あぁなんでこんなことに…
僕が五度めに鼻をかんだ頃、ようやく携帯がぴょろぴょろメールを受け付け始めた。
電話はムーミン、メールはぴょろぴょろ音が僕のお気に入り。
ぴょろぴょろ
ぴょろぴょろ
ぴょろぴょろ
(誰か一人くらい電話くれてもいいんではないか。薄情なやつらめっ。)
僕は半分感謝し半分悪態をつきながらも携帯をがしっと掴んだ。
そしてむさぼるようにして画面を見つめた。
<宝くじとかいいと思うぞ。>
僕の運の悪さ知ってるだろ。次。
<わり、今金欠。今月彼女の誕生日でさ。>
女の子…幻…。
<頑張れ>
頑張る。次っ。
<オレオレ詐欺にでもかかっただろー(笑)>
(笑)わないで。
<俺のバイトくる?カマバーだけど給料はいいぞ。お前なら素質がある。>
…次。
<ねむ。>
僕も。
…なんか皆あてにならんぞ。どうしてだ。次は?!
<幸運の壺買う?>
欲しい、でもその金がない…おいまて次で最後だぞ?!
<俺のサークル儲かるぜ。>
…。
(…サークル…。)
サークルで儲かるって。
なんだか宗教臭いなぁ。
…でも一番ましなのはこれしかないし…。
第一今の僕に選択の余地はない。
「…な、に、そ、れっと。」
僕は早速返事をした。
ぴょろぴょろ
(お、来たな。)
メールの主は鈴木太郎。
名前の通り地味な顔をしたポッキーのように細々な男だ。
普段は気弱なのに、誰かに頼られた時だけ異様なやる気を発揮するスーパーボーイになる謎の人物である。
…だから今回も実はそれなりに期待していたのだ。
(えーと…)
僕は半分怪しみながらもメールを開いた。
<いやさ、俺のサークル名前はちょっと変わってるんだけどまぁボランティアサークルみたいな感じなんだよ。サークル内でチーム作って競いあうんだけどそれが最終的にボランティアになるというか。…で、そのサークルの主催者が金持ちでさ、一番だったチームに賞金くれるんだ。ひと月に1試合で賞金が1人3万なんだけど。ちなみに参加費は一試合1人1000円かかるんだけど…。ま、興味あったら明日大学で詳しく話すからさ。>
…。
…ん…?
(…わかったようなよくわからんような…。)
要するに結局どんな競いあいがあるんだ?
それがボランティアに繋がるってのもよくわからない。
(…おそうじリレーとか…?)
じゃあなんで参加費いるんだ?
よくわからない。
…よくわからないけど、せにはらは変えられん。
僕は空になったフライパンを掴み明日への小さな希望に燃えた。
…それが恐るべき闇の始まりとも知らずに。
ぎゃー。