私の主張
一言で言おう。
むさくるしい。
もうひとついこう。
暑苦しい。
…会場は10時30分ともあって既にかなり盛り上がった雰囲気になっていた。
体育系の大学のため結構本格的に体育祭をやるようだ。
どでかい体育館と外に面した運動場を貸し切って行っていた。
あちらこちらに救護班や水分補給のためのテントがはってある。
筋肉な男たちや筋肉な女たちがわぁわぁとなにやら叫んでいる。
人が多すぎて何の種目が進行しているのかは把握出来ない。
「…あついぜ…」
モヤシっ子の僕は会場の熱気にやられゆらりと揺れた。
部長はそんなか弱い僕にゴスッと突っ込みという名の暴力をふるい低く言いはなつ。
「痛いっ」
「ただでさえ邪魔な男が揺れてまで場所をとるな。行くぞ。」
僕は部長を思いきり恨めしげににらんでやる。
心のなかで。
こわいから。
「もう相手チームは集まってる。もたもたするなよ春。」
鈴木が僕を誘導するようにずんずんと歩いていく。
細いから人波をすり抜けるのが上手いのだ。
一方僕はでかいため迷子にこそはならないもののよたよたと人にぶつかりまくっていた。
「はやいっはやいっ」
「春くんて話すとばかみたいだねー。」
一瞬夢ちゃんの声で酷い暴言が聞こえた気がした。
僕は痙攣しながら夢ちゃんを見るも夢ちゃんはいつものようにニコニコと微笑みながら部長の横を歩いていた。
どうやら暑さが生んだ幻聴だったようだ。
部員たちはずんずんとすすんでいく。
入ったところと反対側の通りにつくと屋台のようなものがぽつぽつあることに気付いた。
いくつかの屋台は既に人がいてミーティングのようなことをしている。
彼等は皆和気あいあいとしていたが、部長が通ると途端にサッと青い顔になった。
つまりまるで王様がお忍びで町の祭りに来たものの実は町人は全員その正体に気付いていて王様の手前祭りに集中してますよー楽しいですよーアハハな雰囲気を装っているものの内心はびくびくしまくっているかのような空気になってしまったのだ。
…部長は空いていたひとつの白い屋台の前につくと足を止めた。
「ここが我々のテントだ。」
「へえー」
僕は我ながら間抜けな声で応えた。
すると既に他のテントにいた人々が一斉にギョッとした顔になった。
そしてすぐにあいつはバカだろうかとか命知らずのバカだろうとかバーカバーカと言った悪口を言いまくっている目で僕を見つめ始めた。
僕は何でこんなことになったんだろうと思いながら涙をこらえつつ部長に向き直る。
「うっうっバカでごめんなさい…」
「そんなことは前から知っている。ミーティング始めるぞ。」
周りの反応に反して部長はあっさりと僕の(理由不明の)謝罪を流した。
僕にはいつも通りの対応に見えたが、何故か周りは一層ざわめいていた。
「わけわからんなぁ。僕はどうすりゃいいんだろ。」
「鈴木くん、はい椅子。春くんも椅子どうぞぉ。」
「わぁっありがとう夢ちゃんっ」
僕はとびあがりながら折り畳み式の簡素な椅子を受け取った。
そして狭いテントの空きスペースで他のチームがしていたようにぐるりと輪になった。
「さぁ、あと30分もすれば米が詰まった炊飯器が支給される。知っての通り今回は主催者側のOB・OGにより準備されていた。よって我々の仕事はおにぎりを握り渡すことだけになっている。…ちなみにバカのために言っておくが後片付けもボランティアには含まれるが試合には含まれない。」
僕はラッキー仕事減ったと笑ったが鈴木と夢ちゃんは何故か暗い表情になっていた。
鈴木はぽつりと息を吐きだす。
「まずいですね…。」
「えっ何で?」
鈴木は僕の存在を今思い出したみたいな顔をした。
「うちのチームは全国トップレベルだ。握るのはもちろん上手い。それに接客も。…だがもうひとつ重要な要素がある。米だ。」
「…ん?」
僕は接客がうまいという情報に動揺しておかしな声で返事をしてしまった。
鈴木は気にせずに話を続ける。
「俺たちは米を炊くのもプロ並に上手い。その3点を統合して最高ランクのチームになれる。3つ全てともなると難しいけど、3つのうちいずれかには秀でているチームなら結構あるんだ。だから、その1つである米炊きの段階が全チーム統一されてしまった今回は実質的に強敵が増えることになってしまう。」
…言い終えると鈴木は深くため息をついた。
一方の僕は彼等のあまりの真剣さに若干ひいていた。
そう、バカだったのだ。