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私の主張

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地獄の初試合


爽やかな風が吹く。
僕は金田一探偵みたくぼさぼさの髪で金田一探偵の半分の量の脳味噌が詰まった頭をボリボリと掻いた。
お日様はさんさんと僕の後頭部を紫外線で焼こうとしている。
頭皮に日焼け止めは塗れないよな、やっぱり。
お坊さんとかはぺたぺた塗っているのだろうか?

そんなことを思いつつ眩しい坂の先を目を細めて睨んだ。
そこには蜃気楼の様にぼんやりとした人間の輪郭が見える。
僕はその昔通っていた市営プールのすぐ外に売っていたかき氷を思い出していた。
それからポテトも。

…これから大変になるだろうことはよくわかっていたが、なにぶん暑すぎるのだ。
それにわかっていたところでどうにもならないだろう。
なんてったって敵は怪物だもの。
…そうとも、おにぎりという名のわけのわからない怪物だもの。

「…腹減ったな…」

僕のお腹からは高らかに音が鳴り響いた。
おにぎりもいいけど今はあんぱんが食べたい気分だった。
プールの帰り道にはパン屋もあったのだ。

そうこうしているうちにも白い影はゆらゆらと僕を追い立てる様に近付いてくる。

僕はふと、このまま逃げ出したらどうなるだろうかなというかなり無謀なことを思いついた。
逃げ足は速いほうなのだ。

「…」

うむと頷き、僕はそれを早速実行してみた。
そもそもやつは僕を詐偽に遭わせたようなものなのだ。
ちょっとくらい困らせてやっても責められはしまい。

僕はもうスピードでコンクリを蹴った。
突如逃げ出した僕に気付き、やつ…鈴木も慌てて走り出す。
僕は笑いながら逃げ続け、再び後ろを振り返った。
つかまえてみなさーいとか言うつもりだったのである。
ところがどっこいそこにいたはずの鈴木は鈴木ではなく、恐ろしいスピードで僕を追い掛けるおにぎりになっていた。
僕は恐怖のあまりもう一度前を向き、そしてまた後ろを向き、はっきりと確信した後「鈴木!鈴木!」と叫んだ。
恐怖映像の残像を再生すると既に自分で追い掛けるのを諦めた鈴木は部長の後ろでぜぇぜぇ息を整えていたことが判明した。
裏切りものめ!またしても!
僕は泣きながら本気で逃げた。
今ならライオンに追い掛けられているシマウマに深く感情移入出来そうだ。

「ひぃっ」

部長はずんずん近付いてくる。
そのあまりにも軽やかな走りっぷりはどう考えても元陸上部である。
元リンボーダンス部ないしは帰宅部の僕にとってはあまりにもひどいこの格差。
格差社会だ!

ヒュンッと部長はラストスパートを駆け僕の肩をギシッと掴んだ。
いや、メリッと掴んだ。

「うわぁぁぁっ」

僕は泣きながら止まった。
なんてひどい。
さすが筋肉マン。

「…面倒なことを」

部長は僕をぐっとさらにきつく掴んだ。

「させるな。」

その瞬間僕はひっくり反っていた。
何やら技をかけられたらしい。
やはりプロに身長は関係ないのだなぁと僕は道路の真ん中でしくしく泣いていた。
タンコブが出来たらどうしてくれるのだ。
いやそれよりもまず救心が必要だ。

「夢」

「えっ?」

僕が顔を上げるといつのまにやら日傘をさした夢ちゃんが立っていた。
ギンガムチェックの黄色のワンピース。

「はいっ」

夢ちゃんは語尾にハートマークを付けて応えた。
本当に部長が好きらしい。
全く理解できない。…し、何だかもやもやする。
最近…というかあの恐怖の日から…僕はおかしい。
夢ちゃんを見ると時々肺のあたりが苦しくなるのだ。
ますます女苦手度に磨きがかかったということだろうか?

悩む僕に構わず部長は無情にも命令する。

「この無駄にでかい邪魔な男を捕まえておけ。」

「は…」

「いやっもう逃げないからいいですっ」

僕は夢ちゃんが再びハートマーク付きで応える前に慌てて制止した。
女の子に触られると僕は蕁麻疹が出るのだ。

おしりと背中をぱふぱふと軽く払い立ち上がる。鈴木は今頃になってやっとのろのろと追い付いた。

「くだらないことで体力を使わせないでくれないか?今日が何の日か知らないんじゃないだろうな?」

裏切り者のはずの鈴木はなぜか僕が悪者かの様に睨みつけてきた。
そんなこと言われても困るのである。
なぜなら僕はつい1時間前に突然呼び出されたからである。
僕は「知らん!」と潔く答えた。

作品名:私の主張 作家名:川口暁