私の主張
僕は涙をふきふき階段を降りる。
いっこくも早く怪物から逃げなくては。
(…いや、…でも…大丈夫なのか?)
いざそうやって決意すると、今度は己の中に潜む勇猛果敢な人格部分数%がその足を引き止め始めた。
―…もしかして自分は今とんでもない間違いを犯そうとしているのではないか?
…果たして部長をあのまま放置しておいてよいのか。
あの筋肉で何をされるかわかったもんじゃない。
でもかといって僕がいたところでなんの意味もない気がするけど…。
それにしてもあのままではさすがに不味いんでないか。
(いやいやっ、でも戻ったら死ぬかもしれない。)
残りの90数%の僕がそう囁く。
逃げろ!
己の非力を恨み逃げろ!
…そうやって僕がもんもんとさびだらけの傾いた階段で悩んでいると突然上から高笑いが聞こえてきた。複数名の。
もちろん僕の部屋からだ。
一人の声の主は明確だ。不自然な機械音、確実に部長だ。
しかしあとの数名はわからない。
男も女も混じっている気がする。
この短時間の間に僕の部屋で一体何が起こったのか。
ものすごく嫌な予感が僕をつらぬく。
…僕は意を決して(そのわりにはのろのろと)かけあがった。
階段は足を踏み入れた先から崩れ落ちそうないたみようだ。
指がぶるぶると震える。
嫌な予感に悲鳴をあげそうになりながら僕はドアを開けた。
そこにいたのは見覚えのある男女3人+性別不明の怪物だった。つまりは…
「…」
部長。
鈴木。
夢ちゃん。
…そしてなぜか隣人。
「見ろ、夢。このポエム。一体こいつはいくつポエム書いてるんだ。暇人か。」
「ぷっくすくす…」
「まさか隣の学生がこんな詞を書く輩とは!ひどい話だ。」
「あ。春。おかえり」
鈴木が僕を見てよっと手をあげた。
僕は地面にへたりこんだ。
その間にも4人は人のダンボールをあさり続ける。
「なんだこの写真。」
隣人がすっとんきょうな声をあげた。
「こいつリンボーダンス部だったのか!中学時代」
「嘘だろ!」
鈴木が好奇心に目を光らせ写真を取り上げる。
おにぎり部のやつに言われたくない。
…というか中学時代はまったくの黒歴史なのだ。
なぜ写真なんて見付かったのだろう。
記録に残りそうなものは全て処分したはずなのに。
僕はもはや奴らを止めるのを諦めていた。
脳味噌がそう悟っていた。
無理だ。
パワフル過ぎる。…というかなんでただの隣人にまでこんなことされねばいかんのだ。
僕が何をした。
「リンボーダンス部なんて存在するんだね!春くん。」
夢ちゃんが僕を見上げてにこっと笑った。
なんだかもうどうでもよくなった。
…そうやってやっと僕が腹をくくったのが、というか諦めたのが、というよりも夢ちゃんに誘惑されたのがわかったのか今度は部長が僕を見上げて言った。
「前田春、明日から開始だ。」
…こうして僕の入部は決定したのである。