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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-2(2)>

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ダリア2を取り囲む動きを見せながらビームを放ち、
迫いすがってくる”三角錐”たち。
そんな動きをされては、前へ出るのは容易ではない。
 後ろへとくい下がる動きをみせたダリア2を狙って、
K・キマイラの後方から太いビームの光軸がきらめいた。
後ろに控えていた、敵ガンナーからの砲撃。
 狙いは精確だった。
こちらの真軸を捕らえており、このまま行けば
直撃するのは間違いなかった。
 「ッの、ふんじばら---ッ!」
火事場の馬鹿力とでも言おうか。
ほぼ全方位からせまるRAMSのビームを紙一重でかわし、
絡みつく糸のような機動を見せていたダリア2は、
そんな局面にありながら見事な背面宙返りを繰り出して
敵ガンナーの射撃を、紙一重でかわして見せた。
 シュライクもやられてばかりでは悔しい。
回避と同時にバレルロール機動を取りつつ、
ビームライフルの応射で反撃を試みる。
 亜光速で直進するビームだが、圧倒的な速度で機動する
K・キマイラを捉えるには至らない。
後方に控えていたフェディック機<ダリア3>も掩護に加わり、
ビームライフルを撃ち放った。
 敵の未来予測位置を狙い撃つ、偏差射撃を得意とする
フェディックの射撃であったが、K・キマイラの常軌を逸する速度と、
変則的なマニューバには意味を成さない。
 更に照準を絞った射撃をダリア3が再度行うも、当たらない。
どうしても、当たる気がしない。

 最新の主力汎用機であるガル・メイスは優良な
性能を持ってはいるが、整備や運用面で融通が利き、
取り回しやすいお手軽さがウリの汎用機ならばではの話。
 敵の新型は、誰にでも乗り回せるような代物ではなく、
車で例えれば、F1級のモンスターマシンと言える。
 あの新型達が、ガル・メイスなどとは、
比較にならないスペックを有していることは
機動力やパワーを見てもわかる。
 おまけに、乗っているパイロットの腕もたつと来たものだ。
とてもではないがガル・メイスの性能では太刀打ちできそうにはない。
 キルレシオは大げさに見積もって、20:0。
もちろん、こちらが0。
 理論値では、相手の1機にこちらの20機が落とされる。
それほどのスペック差だろう。
 しかし、それは現在抱える問題とはまた違う話。
いま懸念すべきは、主力の一角を担うライオン・ハートが
この場でこじ付けにされていることだった。
 敵戦力を駆逐する突出した戦闘力を持つライオン・ハートを
封じ込まれては、今次作戦の目的を果たせない。
このままでは、敵側に体よく時間稼ぎをされた挙句、
アルミラージュの逃走を許してしまうだろう。
 数機の突出した戦闘力を持つ機体で、
局地限定戦局を覆せるのがAAという兵器だ。
機体性能で、局地戦略を一変させることが
可能な潜在力がこの兵器にはある。
 ただし、相対する相手がこちらと同程度の脅威力を
有しているのであれば、その力は意味を成さない。
そうなれば、状態は膠着する。
今がそのいい例だ。

(まずいよな、これは)
現場の指揮を取る隊長をこのままの
状態にしておくのは好ましくない。
ラックの掩護をしようにも、”羽根つき”が
執拗に邪魔をしてくる。
(誘い込もうとして、
釣り餌にかかってしまったのはこちらだったのか…?)
得意であるはずの格闘戦を挑むも、旗色の芳しくない
ライオン・ハートの姿に、シュライクは心中に焦りを感じずにはいられなかった。

           *****           

 ビームトンファーを左腕のガーターで受け流したK・ジャッカルは、
右手をライオン・ハートの顔部へと突き伸ばした。
ライオン・ハートはそれを右手で払いのけようとして来たが、
無駄な抵抗でしかない。
K・ジャッカルは赤子の手を捻るように易々と、
その腕を捕らえ捻りあげた。
 (さぁ、その獅子を象った彫像を握り砕いてやる----!)
掌があと僅かでのライオン・ハートの顔部に触れようという寸前、
鈍い音が響いた。
 K・ジャッカルの頭部にライオン・ハートの左拳が穿たれていた。
踏ん張りの効かない態勢から繰り出された掌打は、
K・ジャッカルの頭部を僅かに揺らしただけだった。
 ダメージが通っていないことを察知したライオン・ハートが
慌てて拳を引っ込めようと動いた。
だが、K・ジャッカルの右手、もといヴァルバスの
反応速度のほうがそれを上回っていた。
再びライオン・ハートの顔部を狙って、左手を伸ばす。
 (今度こそ、捉えた!)
金属のこすれ合う音が鳴り響いた。
 届いたかに思えたK・ジャッカルの左手は、
標的を捉えてはいなかった。
なんと、ライオン・ハートの左の掌に遮られていた。
 両機とも四つに組み合う姿勢となり、その場に足を止めた。
 合わさる鋼鉄の掌。
互いのマニピュレーターが、数トンの強力な握力に
ミシミシと軋む音を上げる。
 『AAでとッ掴み合いか、非合理的だな』
「力比べはお嫌いか?」
ラック・キスキンスの抗議もよそに、
ヴァルバスは陶酔と昂揚を感じていた。
 圧倒的ではないか。
膂力で敵をねじ伏せるというのは、
シンプルに力の差を証明できるというものだ。
 AAのフラッグシップきどりでいたLionシリーズの伝説は、
K・ジャッカルによって終止符を打たれる。
 それを成すのが自分自身だというのが痛快でたまらないという、
優越感をないまぜにしたサディズム然とした感情が
ヴァルバスの心を支配していた。
 『互いにマトになるといってるんだよ!』
「なに!?」
接触回線越しに聞こえた相手の怒声と同時に、
視界がまっさかさまに反転した。
 組み合った態勢のまま宙返りをしたライオン・ハートが
巴投げの要領で、K・ジャッカルを投げ飛ばしたのだ。
 機体各所に内臓されたリフレクションホイールが、出力を調整して
姿勢をリカバリーするのに努めた。
 姿勢の制御を取り戻し、ライオン・ハートを再び視界に
据えたヴァルバスは、思わず口中で舌打ちをした。
 一息つく間もなく、耳に入ってきたのは、
ラック・キスキンスの節操のない”口撃”だった。
『ヴァルバス・アルミドル少佐だったな。親父の”ひさし”に
篭っているお坊ちゃんよ、アンタにかかずらわっている暇はない』
「…お坊ちゃん?俺をお坊ちゃんだというか」
 以前一度、3年前の国際合同演習で
ラック・キスキンスとは挨拶を交わしたことがある。
その時にこちらの素性を知っての物言いだとしても、これは許せない。
 俺を”七光り”呼ばわりするか、この男は。
今は、親父の下について仕事をしているが、
これは一時の恥を忍んでのこと。
 将来は、USVを動かす立場の身になろうともいう志を持つ自分を、
親の威光でのし上がってきたみたいに、お坊ちゃんという。
ヴァルバスにとって、そうした物言いこそが一番許せないものだった。

『おおっと、若大将。動じるんじゃぁないぞ。
一時の感情に踊らされて、作戦を”おじゃん”にするのか?』
こちらの心中を見透かしたような台詞。
 ラックの言葉は、挑発と皮肉が入り混じっていたが、得心できる事実を突いていた。
 偏見と観念に囚われず、公明正大を以って部隊を指揮する。
それが将というものだ。