小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとつの恋のカタチ

INDEX|8ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

 からかうように心配する二人を尻目に、美沙はあまりの苦しさに頷き、すべてを二人に打ち明けた。
「へえ。あの年下君か。最初に会った時から、美沙にその気はあると思ったよ」
 話を聞いた冴子が言う。冴子は先日、高島を見ているので、顔も覚えている。
「へえ。どう、カッコイイ? 頭良さそう? スポーツ出来そう?」
 奈美が尋ねる。
「頭は良さそうかな。背はまだ小さいけど、顔は可愛かったよ」
 冴子が答える。
「あのねえ、あんたたち……」
 二人の反応に呆れて、美沙が言う。
「美沙はどうなのよ。まんざらでもないんでしょ? だったら……ああ、でも好きな人がいるんだっけ……」
 奈美が言う。
「あ……ううん。好きな人は、もういないんだ……」
 美沙が答える。まさか、奈美の彼氏を好きだったとは、今は告白など出来ない。
「え? 諦めちゃったの?」
「う、うん、まあね……」
 悲しく微笑む美沙に、奈美と冴子は顔を見合わせた。
「じゃあ、新しい恋に進まなきゃね。ずっと見ててくれたんでしょ。その子」
「でも、年下だよ? 全然知らない子だし……」
 美沙が言う。
「なにそれ、偏見? 年なんて関係ないじゃない」
「そうそう。恋愛なんて、知り合ってからするケースも多いでしょ。美沙はそんなにうぶでもなさそうだし」
 奈美と冴子が、説得するように、しかし軽くそう言った。しかし、美沙の気持ちは晴れていない。
「とにかく、今日は彼が図書室にいる日なんでしょ? 返しに行こうよ、その本」
「嫌だよ!」
 二人の言葉に、慌てて美沙が拒否する。
「なんでよ。また延滞するつもり?」
「そうじゃないけど……」
「前進あるのみ。とりあえず、会ってあげなよ」
 真剣ながらも、美沙が深刻にならないよう、わざとからかうように言う奈美と冴子に、美沙が大きく首を振った。
「嫌だ! 悪いけど、この本返して来てくれない? それか、明日にでも返しに行く……」
 美沙の言葉に、奈美が心配そうに口を開く。
「会ってあげないの? 答えてあげないつもり?」
「答えるも答えないも、私にそんな義理ないもん!」
 俯く美沙から、冴子が本を取り上げた。
「そんなに言うなら、私が返しに行ってあげる。まあ、確かに無理することないよ。フリーの身で告られたからって、付き合わなきゃならないことは全然ないし。返事は? 私からしてあげてもいいけど」
 そんな冴子に、美沙は首を振る。
「じゃあ、行こう。奈美」
「う、うん」
 好奇心も手伝って、奈美と冴子は美沙を置いて、図書室へと向かっていった。

「こういうのってワクワクするよね。悩んでる美沙には悪いけどさ」
 少し苦笑して、奈美が言う。
「まあ、人の恋路だからね……でも、美沙は答えてあげないつもりなのかな……」
 冷めた様子で、毅然としながら冴子は廊下を歩いている。
「え?」
「この本だって、借りたその日に読んだのよ? それなのに、返却日ギリギリまで返せなくて……さっきだって、あんなムキになっちゃって。そういうものかな……」
「うーん……まあ確かに、あんなにムキになるのは美沙らしくないけど、私も知らない子から告白されたら、なんて言ったらいいのかわからないかも……」
 そんなことを話しながら、二人は図書室のドアを開けた。
 中は相変わらず、ほとんど人がいない。狭いながらも綺麗な図書室の受付には、逸早くこちらを向いた高島の姿があった。
「あ……」
 冴子の顔を覚えていた高島が、静かに微笑んで軽く会釈した。冴子も会釈しながら、受付へと向かっていく。
「これ、頼まれて……」
 本を差し出しながら、冴子が言った。
 高島は、少し悲しそうに微笑み、その本を受け取る。
「ああ……はい、確かに。返却ありがとうございました」
 高島にそう言われ、奈美と冴子は静かに背を向ける。
「あの……」
 そんな二人に、高島が声を掛けた。
「あの、二見さんに伝えてもらえますか……?」
 おもむろに、高島がそう言った。
 二人は顔を見合わせる。
「え?」
「……たぶん、二見さんが僕の手紙を見たから、お二人が来たんですよね? それが答えなら、それでいいんです。だけど、僕が居るから気まずくて図書室に来れないなら、僕は出来るだけここには来ないようにします。委員だから、火曜と金曜は来なくちゃいけないけど……それ以外は利用しませんから……だから……そう伝えてください」
 少し俯き加減にそう話す高島に、二人も少し俯いた。
「……私たちが来たことが答えじゃないよ。だけど、決めかねてるんだと思う……だって美沙は、あなたのことを何も知らないから」
 冴子が正直にそう言う。
「……そうですね。僕も、急だとは思ってたんですけど……知っておいてもらいたかったんです。手紙でも……」
「もう少し、待ってあげて」
 奈美の言葉に、高島は頷いた。
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、またね……」
 二人は、図書室を後にした。

「いい子じゃない。今時珍しいよ、あんな子」
 教室に帰ってから、奈美と冴子が美沙にそう言った。
「そんなこと言ったって……」
「……まあ、悩むだけ悩むんだね。じゃあうちら、部活行くから」
 そう言って、美沙を残して二人は去っていく。冷たい仕打ちにも思えたが、これ以上のことは、美沙自身が決めることだと思った。
 残された美沙は一人、とぼとぼと家へ帰って行った。自分で本を返しに行けなかった罪悪感に駆られる。しかし、美沙は未だ何も考えられず、前にも後ろにも進めない状況に陥っていた。

 数日後。土曜日。放課後に、美沙は図書室へと向かっていった。知らず知らずのうちに、高島の影を探してしまう。土曜日なのでいないはずだが、ホッとすると同時に少し残念な、複雑な気持ちに駆られた。
 美沙は気を取り直して、本を探し始める。
「あ、これ読んでなかった。そういえば、あの本また読もうかな……」
 久しぶりの図書室は、悩み事が吹き飛んだように時間を忘れられ、美沙は本を探す。いくつか選んだところで、椅子に座ってパラパラと本をめくり始めた。そして何冊か見極めると、貸出カードを引き抜く。
 すると美沙の目に、信じられない光景があった。ほとんどのカードには、高島健太郎の名前が書かれている。
「嘘……」
 前に美沙が借りたことのある本のほとんどには、高島の名前が書かれている。また、借りていない本さえ、その名前がある。
「二見さん……」
 そこに声を掛けたのは、高島だった。
「た、高島君……」
「すみません。声掛けないようにしようとも思ったんですけど……僕、これからここの掃除があって、ずっとここに居ることになってしまうので……」
 自分の存在に断りを入れるように、高島が本当にすまなそうに言ったので、美沙は静かに微笑んだ。
「たくさん、本読んでるんだね……」
 美沙の言葉に、高島は微笑んで頷く。
「ああ、はい……はじめは、二見さんがどんな本読んでるんだろうって……興味本位で読み始めたんですけど、だんだん二見さんが読んでるのは面白い本だって、僕と趣味が合うんだってわかってきて、その他にも、名作や新刊とかは読むようにして……あ、すみません。なんか、ストーカーっぽいですよね……」