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ひとつの恋のカタチ

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 帰り支度をしながら、冴子が尋ねる。奈美はすでに部活へ行っている。
「うん。なんか最近、あんまり本読みたくなくなってきちゃったんだ。それに、今は読みたい本もあんまりないし……」
 美沙が答える。ここしばらくは、人知れず失恋のショックもあり、好きな本を読む気にもなれなかった。
「へえ。何もないならいいけど……」
「うん、平気。早く部活行きなよ。今しか出来ないんだし」
 空元気に戻って、美沙は冴子にそう言った。
 冴子は水泳部に所属しており、夏のこの時期しか主に活動出来ないのだ。
「うん……じゃあ、行くね」
「うん。頑張ってね」
 美沙に見送られ、冴子は教室を出て行こうとした。すると、教室の入口からこちらを見ている男子生徒が見える。明らかに二人のほうを見ているが、美沙にも冴子にも見覚えはない。
「あの。二見さん、いますか?」
 意を決したように、男子生徒が、美沙を見つめながら言った。
「私……ですけど?」
 怪訝な顔をしながら、美沙は男子生徒に近付いていく。側にはそのまま、冴子がいる。
「あの……僕、二年の図書委員の高島っていいます。これ、お願いします」
 そう言って、高島と名乗った男子生徒が差し出したのは、図書室の図書貸出期限超過の知らせの紙だった。
「すでに先週辺りに伝わっているはずですが、返ってない図書あるんで、すぐに返却するようお願いします」
 業務連絡口調で、無表情に高島が言った。
「あ、忘れてた!」
 思い出したように、美沙が慌てて言う。
 確かに先週、担任から同じ紙を受け取っていたが、それさえ忘れていた。今日は図書委員直々の催促というわけだ。
「ごめんなさい。忘れてた……明日にでも、すぐに返すから」
 美沙の言葉に、初めて高島が微笑んだ。
「お願いします。あと、いくつか新刊出てるんですけど、僕、キープしてあるんです。もし良かったら、借りに来てください。僕、明日は図書室にいますんで。じゃあ……」
 そう言うと、高島は去っていった。
「へえ。図書委員も大変だね。私、小学校で借りた図書、未だに返してないのあるかも……」
 冴子が言う。
「あんた、最低ね……ああ、私はそういうのはしないようにしてたのに!」
 悔やんで、美沙が言う。
「まあ、美沙にしては珍しい失敗だね。早く返しちゃいなよ。じゃあ私、部活行くね」
「うん。頑張ってね」
 美沙は冴子を見送ると、家へと帰っていった。

 次の日の放課後。美沙は急いで、図書室へと駆け寄った。昨日の高島に会うのは少し気が重かったが、これ以上返さないわけにもいかない。
 図書室へ行くと、受付には高島がいた。美沙の顔を見ると、高島は優しく笑う。
「あの。ごめんなさい……これ」
 バツが悪そうに、美沙は借りていた本を差し出す。
「いえ。それより、もう本は読まないんですか?」
 高島が尋ねる。
「え?」
「前は毎日来てたのに、最近来ないから、少し心配してたんです。返却期限破るのだって、初めてだし……」
 高島の言葉に、美沙が静かに苦笑した。自分のことをこれだけ知っている高島の顔を覚えていない自分も、不甲斐ないと思った。
「あはは……知ってるんだ、私のこと……ごめんね。私、あなたのこと覚えてなくて……」
「いえ。二見さんが、いつも夢中で本を探してたりしてるの見てましたから。それよりこれ、どうですか?」
 そう言って、高島が、新しい図書を差し出す。
「二見さん、いつも新刊は一番に借りに来てたでしょう? 今回は来なかったんで、他の人に借りられる前に、僕が借りておいたんです。もし良ければ、今僕が返しますんで、借りていかれたらどうですか?」
 そんな高島に、美沙は驚いた。
「あ、ありがとう。よく見てくれてるんだね……」
 美沙は、そう言うのが精一杯だった。
 確かに、いつも新刊を一番に借りるのが美沙のスタイルである。多分、図書委員の間でも有名になっているのだろう。
「じゃあ、これ借りていきます」
「はい。今度は期限通りにお願いしますね」
 高島のその言葉に、美沙は赤くなった。
「はい。必ず返します……」
 美沙はそう言って、新刊の本を持ち、足早に家へと帰っていった。

 家に帰ると、美沙は借りてきた本に夢中になっていた。夕飯も食べずに、最後まで読み切る。
「ああ、意外な展開だったなあ。これ、もう一回読み直さなきゃ」
 美沙はそう言って、あとがきのページを開く。するとそこには、一枚の紙が挟まれていた。
 無意識に紙を開くと、そこには綺麗な字がある。
“二見様”
 冒頭にそんな字があったので、美沙は驚いて差出人の名前を探す。一番下に書かれていたのは、「高島」の文字であった。
「高島……あの子からの手紙?」
 逸る気持ちを抑えて、美沙は手紙を読み始める。
“二見様。突然、こんな形で手紙を送ることをお許しください。僕は、二年一組の高島健太郎という者です。僕は一年の時に図書委員になって二見さんのことを知り、それ以来、ずっと気になっていました”
 その文を見て、美沙は真っ赤になった。
“二年に上がってからも図書委員になり、活動こそありませんが、二見さんと同じ読書部にも所属しています。何度か貸出の時に会話を交わしたこともありますが、きっと二見さんは、僕のことを覚えてはいないと思います。それでも、僕はそれでも構いませんでした。ですが最近、二見さんが図書室に来ないので、とても心配しています”
「……」
 美沙は、食い入るように手紙を見つめる。
“支離滅裂な手紙ですみません。ただ、もう図書室には来ないのかと思うと、これを書かずにはいられませんでした。よかったら、また図書室に本を借りに来てください。僕は火曜と金曜に委員で受付をしています。そしてもしよかったら、僕と付き合ってください”
「ええー!!!」
 飛び上がるほど驚いて、美沙は叫んだ。
 突然、知らない年下の男の子からの告白。今時珍しい、丁寧な手紙の告白。自分のことをずっと見てくれていたという男の子に、美沙は舞い上がった。だがその反面、美沙は大きく悩むことになる。
「嬉しいな。だけど、年下か……しかも、全然知らない子……」
 美沙は、机の上の集合写真に写る三田を見つめた。
「告白……」
 美沙は目を閉じた。
 自分が出来なかった三田への告白。それどころか、仲の良い友達にも打ち明けられなかった想い。それがどれだけ悲しくて苦しいのか、美沙は知っている。そして、どれだけ勇気がなければ告白など出来ないことなのかも、美沙は知っていた。
 きっと高島は、人知れずずっと自分のことを見てくれていたのだろう。そう思うと、やはりその気持ちは嬉しかった。

 数日後。火曜日。高島のいるはずの図書室に、美沙は行くことが出来なかった。今はまだ、顔を合わせられない。突然の告白。また生まれて初めての告白に、どう対処していいのかも分からなかった。
 けれど、借りていた本の期限がまた迫っている。
「どうしたの? 美沙」
 いつもと違う様子の美沙に、冴子が声を掛ける。
「最近、様子がおかしいよね」
 側にいた奈美も言う。
「そ、そんなことないよ……」
 そう言う美沙だが、思い悩んでいることは明白だ。
「なに? うちらにも言えない悩みなの?」
「さては、恋?」