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ひとつの恋のカタチ

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3、美沙の場合




「三田と付き合い始めたんだ……」
 仲良し三人グループの一人、佐々木奈美がそう打ち明けてから十数時間。
 友達に恋人をつくることで先を越されたことよりも、ショックの大きい中学三年生の少女が一人。同じグループの、二見美沙だ。
 美沙は自宅で、同じく仲良しグループの一人、小林冴子と電話をしていた。
「もう、本当にびっくりしたね。奈美ってば、なんだかんだでモテるんだから」
 笑いながら、美沙が言う。
『うん。まあ、でも良かったじゃん。あの二人、お似合いだし。それより、美沙も好きな人いるんでしょう? これを機に、美沙も頑張れば?』
 冴子の言葉に、美沙が俯いた。
「私は……いいんだ。好きって言っても、そんなに好きじゃないから……新しい恋でも、頑張っちゃおうかなあ」
 笑ってそう言う美沙の顔は、心からの笑顔ではない。
『最後まで打ち明けないんだね、美沙。まあいいけど……』
 美沙に好きな人がいるということは、奈美も冴子も知っていたが、その相手が誰なのかまでは、美沙は断固として言おうとはしなかった。
「冴子は? 冴子もそういう話、聞かないね」
『私は、今は受験で頭がいっぱいだもん』
 冴子の言葉に、美沙は更に心が重くなる。
「受験か……どうしようかなあ……」
『まあ、焦らず決めたほうがいいよ。まだ時間はあるじゃん』
「そうだね……」
 美沙はそのまま、しばらく冴子と話していた。
 しばらくして、冴子との電話を終え、美沙はベッドに寝そべった。
 ベッドから見える机の上には、二年生の時に撮られたクラスの集合写真がある。美沙の斜め横には、美沙が想いを寄せている男子が映っている。奈美と付き合い出したという、三田貴広だ。その隣には、当時から同じクラスである奈美もいる。
「報われない三角関係になっちゃったな……」
 静かに、美沙がそう言った。
 まさか突然、二人が付き合うとは思ってもみなかったが、美沙にはこうなる予感がしていた。三田のことを好きだからゆえ、三田が想いを寄せているのが奈美だということを、美沙は一年も前から気付いていたのである。
 それがあって、美沙は自分の好きな人が三田だということを、誰にも告げることは出来なかった。

 一年前。冴子だけは別のクラスだったが、当時から美沙と奈美は仲が良かった。
「美沙。早く」
 昼食の時間、奈美が机をくっつけながら、美沙を呼んだ。
「ごめん、ごめん」
 そう言って美沙は席に座る。それと同時に、一人の男子が二人に近付いて来た。三田である。
 その頃、美沙はまだ、三田とろくに会話もしたことがなかった。
「佐々木。ちょっと金貸してくんない?」
 三田が、奈美に向かってそう言った。奈美は口を曲げる。
「は? なんで私があんたに……」
「頼むって! 友達みんな金なくてさ……今日、部費払うって、すっかり忘れてたんだ。部長が忘れるなんて、カッコ悪いだろ? おまえ、同じバスケ部なんだしさ。もちろんすぐ返すし、頼む!」
 申し訳なさそうに、三田がそう言う。
 奈美と三田は、男女で分けられているものの、同じバスケットボール部に所属し、三田は部長である。二人は幼稚園の頃からの幼馴染みで、クラスメイトとしても仲が良い。
「本当。部長なのに最低」
 奈美が言う。
「そう言うなって。マジで困ってんだよ」
 三田の言葉に、美沙が同情して苦笑する。
「貸してあげなよ、奈美」
「……いくら?」
 美沙の言葉に、渋々、奈美が尋ねた。
「五千円」
 三田が言った。
「そんなに持ってないよ」
 そう言いながら、奈美は財布を漁る。
「じゃあ、いくらでもいいよ。本当は一万円なんだけど、友達からかき集めて、あと五千円なんだ……」
「二千円しかない」
 奈美が、財布を見て言う。
「じゃあ私、三千円貸してあげる」
 そう言って、美沙が三千円を三田に差し出した。
「おお、助かる! 二見、ありがとうな。佐々木も……これで部長のメンツが保たれるよ。明日には絶対返すから」
 三田はそう言って、去っていった。
「本当。部長として最低かも」
 奈美がため息をつきながら、そう言った。そんな奈美に、美沙は苦笑する。
「でも、仲良いね。なかなかお金貸してなんて言えないでしょ。よっぽど困ってたんだって」
「幼稚園から知ってるからね……でも、同じクラスにでもならない限り、そんなにしゃべらないよ。部活だって、同じバスケ部と言いながら、男女は別だしね。たまに、帰りが一緒になったりする程度」
「まあ、そうかもね……」
 その時、美沙はまだ、三田を意識して見てはいなかった。

 数日後。ホームルームが終わるなり、美沙のもとに三田が駆け寄った。
「二見。遅くなって、マジごめん! これ、借りてた三千円」
 三田が、三千円を差し出しながら頭を下げて言った。
「ああ、いいよ、いいよ。覚えててくれただけで。はい、確かに」
 笑いながら、美沙が言う。美沙はそのまま、財布の小銭部分に三千円を突っ込むと、奈美のもとへと向かっていった。
「奈美。お金、無事返ってきたね」
 美沙が言う。
「良かったわ。これから部活?」
「うん。新しい本を借りたら帰るけどね」
「面白い? 読書部って」
 奈美が尋ねる。
 美沙は、読書部に所属している。読書部といっても、部として活動することはほとんどない。けれど美沙は、毎日のように図書室へと通っている。
「面白いよ。新刊も早く読めるし。それに、図書室って好きなんだよね」
「へえ。私は汗かくほうが好きかな。じゃあ、部活行ってくるね」
「うん。頑張ってね」
 美沙の言葉を受け、奈美は部活へと向かっていく。それを見送ると、美沙も図書室へと向かっていった。
 図書室は、いつも静かで人もあまりいない。美沙は借りていた本を返すと、次の本を探し始める。そして新しく本を借りると、家路へと帰っていくのが日課だった。

 夕方。家に帰った美沙は、財布を開いた。
「本屋寄るの忘れてた。お金あるよね……」
 美沙がそう言いながら財布を確認すると、中には三田から返してもらった三千円が、捻じ曲げられるように入っている。
「そうだ。急いで入れたんだっけ」
 美沙は、しわくちゃになった三千円札を取り出した。すると、折り曲げられた札の間に、白い紙が入っている。
「ん?」
 白い紙を広げると、中には汚い字のメッセージが書かれていた。
“マジで助かりました。ありがとう。三田”
 三田からの、お礼の手紙である。
「律儀な……」
 美沙は笑いながら、その三田からの紙を見つめた。
 普段はスポーツマンでガツガツした性格だと思っていたが、こういう三田の一面を知った事で、美沙は突然、三田に近付いた気がした。
「三田、貴広か……」

 一年後。それからずっと、三田のことが気になっていた美沙だったが、奈美と三田が付き合い始めたことで、美沙はショックながらも、当然のことだと割り切ろうと思った。それは、同じクラスだった一年間、三田はことあるごとに奈美に話し掛け、少なからず三田の心中には気付いていたからである。
「もう、本読む気力もないや……」
 美沙はそのまま、眠りについた。

 数週間後。放課後。
「最近、図書室行かないんじゃない?」