ひとつの恋のカタチ
「じゃあ、安高のがいいんじゃない? 確か、バスケ部強かったよね」
「そうだよね。それに安高は近いから、うちの中学から行く率も高いし。高校行っても、続けるんでしょ? バスケ」
興味津々といった様子で、冴子と奈美が尋ねる。
そんな二人に、奈美は苦笑しながら口を開いた。
「うーん……まだ、決めかねてるんだ……」
週末――。バスケットボールの大会が、近くの学校で行われた。男女共に行われ、三年生にとっては最後の大会となる。
男子バスケットボール部には、もちろん三田の姿もあったが、三田は奈美の顔を見ようともしない。先日の告白が夢ではないかと思うくらい、いつも通りの三田であった。
そんな中で、早速試合が行われた。会場では、もちろん男子と女子は別々のコートなので、互いに意識している暇もない。
奈美も最後の試合を掛けて、試合に参戦していった。
数時間後。奈美のいる女子バスケットボール部は、三回戦で敗退した。
三年生の中では、悔しくて泣いている選手もいる。そんな同志を慰めながら、奈美は隣のコートを見つめた。
隣のコートでは、同校の男子バスケットボール部が依然、試合を続けている。気付けば、決勝戦である。
「男子バスケ、応援しに行こう」
部員達に促され、奈美も男子バスケ部の応援に駆けつけた。三田の真剣な眼差しが、格好良いほどに見える。
「五点負けてる? もう時間ないじゃん。頑張れ!」
女子達が懸命に応援する中、奈美は食い入るように試合を見つめていた。
そんな時、一瞬、奈美の目が三田と合った。
「三田!」
そんな声とともに、三田のもとにボールがやってくる。三田はその場から、ゴール目掛けてシュートを放った。
ボールは綺麗な弧を描くとともに、声援が湧き上がる。
「キャー! さすが三田部長。スリーポイントシュート! 二点差、いけるよ!」
女子達の応援にも、熱が入る。
試合は白熱するとともに、空しくも試合終了の笛が鳴った。
男子バスケットボール部も、惜しくも優勝は出来なかった。
落ち込み気味の電車を降りて、奈美は一人、家路へと歩き出した。
引退試合に花を添えられなかったのも残念だったが、三田が優勝出来なかったことも、なぜか悲しく感じられる。
「佐々木……」
奈美はそこで、後ろから声を掛けられた。三田だ。
「三田……」
気まずい空気が、二人を包む。
「……残念だったな。お互い、優勝出来なくて……」
静かに笑いながら、三田が言った。
「う、うん……」
「俺も……カッコ悪いな。優勝して、佐々木と付き合う気満々だったのにさ」
「……」
「まだ、決められないかもしれないけど……答え、聞いてもいい?」
三田の言葉に、奈美は小さく頷いた。
しかし、何も考えられなかった。自分がどうしたいのかも分からず、言葉も出て来ない。
そんな奈美に、三田が苦笑する。
「やっぱ、急だったか。じゃあ、いいや。またの機会に……ごめんな。急に変なこと言ってさ」
そう言って、三田は引きつりそうな笑顔を寂しそうに変え、奈美に背を向けた。
「三田!」
去りかけた三田に、奈美が駆け寄って声を上げた。無意識でもあった。
「三田。私で、良かったら……いいよ」
奈美の言葉に、三田は目を丸くした。
「え、マジで?」
なるようになると思った。奈美も、三田の性格は分かっているつもりだ。スポーツマンで誠実で優しい。なにより、たった今笑っていたはずの三田の悲しそうな顔が、奈美の胸を締めつける。そして奈美も、離れていく三田を見たくなかった。
奈美の答えが出た瞬間であった。
「優勝は出来なかったけど、スリーポイントシュートは、カッコ良かったよ」
そう言った奈美に、三田は白い歯をむき出しにして笑う。
「やったー!」
次の日。学校へ行った奈美は、美沙と冴子に、三田と付き合い始めたことを報告した。
「うっそー! なによ、急に。びっくりした!」
普段は冷静な冴子も、驚いて声を上げる。
「う、うん。こっちも急だったんだけどさ。三田ならいいかなって……」
奈美が、少し照れながらそう言う。
「そうなんだ。三田と……びっくりしすぎて声出なくなっちゃったよ! でも、おめでとう、奈美。よかったね。ああ、置いてかれちゃったなあ」
美沙も言った。
「もう、美沙ったら」
「いや、本当に。よかったよかった」
いつものように大声で笑いながら、三人はお祝いムード一色になった。
それから奈美は、三田と同じ高校へ進学する。
同級生。幼馴染みの友達から、恋人に変わる瞬間……ひとつの恋のカタチ。