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ひとつの恋のカタチ

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 鷹緒の曖昧な返事に、広樹は苦笑する。
「……やっぱりおまえ、モテるだろ。教えてもらいたいもんだね、モテる男の極意を」
 そう言った広樹に、鷹緒も苦笑した。
 広樹は鷹緒の一面を知り、鷹緒へ人間としての興味を持ち始めていた。
「……そこそこ背が高くて、そこそこ頭が良くて、そこそこ普通に生きてりゃ、それなりにモテんじゃない? おまけに親が有名なら尚更……」
 やがてそう言った鷹緒に、広樹は吹き出すように笑う。
「おまえも相当捻くれてるな」
「悪かったな。いろいろ複雑ですので」
 二人は笑った。もうすでに、打ち解け合っているようだった。

 数時間眠った広樹と鷹緒は、真夜中に家を出ていった。スタジオに行くと、すでにスタッフたちが続々と集まっている。その中に、聡子もいた。
 集まったスタッフたちは、数台の車に分かれて乗り込む。広樹と鷹緒も、ワゴン車の最後部へと乗り込んだ。
「おはよう、広樹君、諸星君。隣いい?」
 そこに、後から乗り込んできたのは、聡子である。
「聡子さん。どうぞ、どうぞ。おはようございます……ですかね?」
「あはは。だって、寝起きの顔してるわよ」
 聡子に言われ、広樹は紅くなる。
 広樹は鷹緒の方に寄り、聡子を窓側へ招き入れた。ワゴン車の最後列には、広樹が鷹緒と聡子に挟まれる形となった。そのまま車は、夜の街を走り出す。
 車が走り出すと、広樹の気持ちを知っている鷹緒は、チャンスとばかりに広樹の肘を突いて促し、広樹たちには目も向けず、頬杖をついて流れる景色を見つめた。
 広樹は聡子と二人きりの感覚に陥り、少し緊張した。だが長い移動距離を考えても、たくさんの話が出来るチャンスである。しかし広樹は、緊張して何を話せばいいのかもわからなくなる。
 沈黙が続く中で、ふと広樹が隣を見ると、鷹緒はそのまま眠ってしまっていた。
「広樹君……」
 事実上、二人だけの世界で先に沈黙を破ったのは、聡子であった。
「は、はい……」
「……私ね、もうすぐ仕事辞めるんだ」
 突然の聡子の言葉に、広樹は驚いて聡子を見つめた。
「……えっ……?」
 広樹の驚きように、少しの間眠っていた鷹緒も目を覚ました。しかし、それに構っていられず、広樹は聡子に訴えかける。
「どうしてですか? そんな、急に……」
「……結婚するの。もう、お腹に赤ちゃんもいてね……」
 それを聞いて、広樹は顔面蒼白になった。
 聡子のことは、密かに憧れていただけで、何も知らなかったのだと思い知らされる。ましてや恋人がいたことすらも知らず、広樹の気持ちは、ここで完全に叶わなくなった。
「そう、なんですか……おめでとうございます」
 引きつった笑顔で、広樹が言う。しかしそれ以上、広樹は何も言えなくなっていた。
 その日の撮影は、久々の良い天気に反して、広樹は魂が抜けたようであった。上司に注意をされても、何も考えることが出来なかった。

 十数年後。
(……そんな想いを胸にしまって、恋愛とは無縁の鬼社長がいる。それが僕。学生時代に三崎社長が渡米したため、三崎スタジオの経営を任されたことをきっかけに、独立してタレント事務所を立ち上げた。従業員の中には、十数年間腐れ縁で続いてきた友達、諸星鷹緒もいる。これだけ長く一緒にいられたのは、悔しいけれどあいつの才能と、なにより僕の心の広さだろう……)
 広樹はタレント事務所の社長をしており、日々のスケジュールに追われていた。
「おい。聞いてんのか、ヒロ」
 その時、ふと、ぼうっとしていた広樹が、そんな声に現実へと引き戻される。
「ん? ああ、もちろんだよ。でも、驚いて声も出ない。急に前触れもなく、結婚だなんて……せめて僕には、先に言うべきなんじゃないのか?」
 事務所の社長室で、広樹は目の前の鷹緒に向かってそう言った。
「俺だって、急だよ」
 そう言う鷹緒は、近々結婚が決まっていた。相手は鷹緒の親戚で、広樹の事務所の専属モデルである、小澤沙織という二十歳の女性だ。鷹緒と年は十歳以上離れているが、二人が愛し合っていることは、広樹もよくわかっている。
 しかし、鷹緒からその報告を受けたのは、昨日居酒屋で開かれた鷹緒の恋人・沙織の誕生日会であったため、未だ広樹は驚きを隠せない。
「とにかく、今抱えてる仕事詰めるから、今度の週末、一日休ませてもらえないかな?」
 鷹緒の言葉に、広樹は溜め息をつきながら頷く。
「ああ。いいよ、いいよ。おまえの働きぶりはわかってるし、反対する理由はない。でも、思い切ったな」
「……あいつが、どうしてもってね。あいつの親も大賛成だし。不安はあるけど、うまくやっていくよ……」
 二人は静かに微笑んだ。
「でも、一日でいいのか? 挨拶回りだろ」
 広樹が尋ねる。
 鷹緒は今週末に、一日休みを希望している。今では売れっ子のカメラマンである鷹緒に休みなどほとんどないが、結婚準備のためとあらば休みをあげないわけにはいかない。なにより鷹緒は、仕事に対して真面目すぎるほど日頃からよく働いている。
「そう休めないことはわかってるよ。俺も仕事溜めるの嫌だし。それに挨拶回りって言っても、伯母さんの所だけだよ」
 そう言った鷹緒に、広樹は懐かしそうな目を向けた。
「伯母さんか。僕からもよろしく言っておいてくれよ。おまえの伯母さんには、ずいぶん世話になったからな」
 鷹緒の伯母さんは、高校時代に鷹緒を引き取った人物で、鷹緒と結婚する予定の沙織の祖母であり、広樹自身も十代の頃から世話になっている。
「わかった。でも、一番気が重い相手だけどな」
「あはは。まあ、おまえの母親代わりだもんな。しかも、相手は沙織ちゃんだし」
「もういいよ。とにかく家族サービスと報告と、式場も見ないといけないし。一日でなんとかやるから」
 バツが悪そうに、鷹緒が遮って言う。
「式場か。盛大にやるんだろ?」
「いや。身内だけでやるつもりだよ」
「なんだよ、僕も呼んでくれよ。おまえのことは、新婦より知ってるんだからな。溜め込んできたものを暴露してやってもいいんだぞ」
「ハハハ。暴露するようなものがあれば、どうぞご自由に」
 二人は笑った。
「まあ頑張れよ。休みはやるから、早く仕事にかかれ」
「はい、社長。ありがとうございます」
 鷹緒はそう言うと、社長室を出て行った。

 週末の昼休み。広樹が経営する事務所のモデル部署で、女性事務員の二人が、なにやらざわついている。
 そこに、副社長の石川理恵が、外回りの仕事から戻ってきた。
「どうしたの? 二人とも。そわそわしちゃって」
 女性事務員の二人に、理恵が首を傾げながら声をかける。
「理恵さん。社長って、付き合ってる人とかいるんですか?」
 突然の言葉に、理恵は瞬きをした。
「え、ヒロさん?」
「何回アプローチかけても、全然駄目なんですよ。この間も飲みに誘ったら、じゃあみんなも誘おうとか言っちゃって……私って、そんなに魅力ないですか?」
 泣きそうなまでの事務員の一人に、理恵が苦笑する。
「なに? あなた、ヒロさんのこと……」
「もうずっと好きなんですよ。社内恋愛はどうかとも思うけど、真剣なんです。諦められないんです。でも全然気付いてもらえなくて……それって本命がいるからってことですかね?」