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ひとつの恋のカタチ

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 その時、遠くから演説のような声が聞こえてきた。見ると人だかりが出来ており、街宣車の上には政治家が立っている。
 鷹緒がふと立ち止まったので、広樹もその横に立った。
「ああ、選挙が近いのか……」
 そう言う広樹の横で、鷹緒はじっとその光景を見つめている。広樹もそれに倣って人だかりの方向を見ると、政治家の幟がはためいているのが見える。『もろぼしせいじ』と書かれているその幟を見て、広樹は鷹緒を見つめた。
「……もしかして、親戚か何か?」
 鷹緒と同じ苗字の候補者と知って、広樹が尋ねる。すると、鷹緒が突然歩き出した。
「おい、鷹緒?」
「……親父」
 背を向けた鷹緒からそんな声が聞こえ、広樹は驚いた。
「えっ? おい待てよ、鷹緒……」
「鷹緒君?」
 そこに、女性のそんな声が聞こえ、鷹緒と広樹は立ち止まった。目の前には、赤ちゃんを抱いた若い女性が立っている。
「やっぱり鷹緒君。久しぶりね」
 笑顔でそう言う女性の言葉に、明らかに戸惑っている鷹緒は、バツが悪そうに立ち止まっている。
「演説、聞いていって?」
「……急いでるんで……」
 鷹緒はそう言うと、女性の横をすり抜けていった。
「鷹緒君! いつでも来てね!」
 女性の言葉を背中で受けながら、広樹は鷹緒の後を追いかける。
「おい、よかったのかよ、あの人……」
 広樹がそう声をかけた時、鷹緒が一軒の家のドアを開けた。高級住宅街の一角に立つ、日本家屋の大きな家であった。
「ただいま……」
 鷹緒に続いて、広樹も中へと入っていく。
「おかえりなさい。まあ、いらっしゃい。どうぞ上がってちょうだい」
 走って出迎えたのは、優しそうな五十代くらいの女性である。広樹のことも優しく出迎えてくれた。
「あ、突然お邪魔します! 木村広樹といいます。お世話になります」
 広樹はそう言って、勧められるがまま家の奥へと入っていった。
 案内された居間は広く、広樹はそこで夕食を勧められ、大きな風呂へも入り、二階の鷹緒の部屋へと案内された。すでに部屋には、ベッドの他に布団が敷かれている。
「ああ、至れり尽くせりで。ありがとうな。しかし、優しいお母さんだな。家も風呂もデカいし、おまえの家すげえな」
 風呂上がりの広樹が、髪を乾かしながら言う。
「母親じゃないよ……あれは伯母さん」
 ベッドに寝そべりながら、鷹緒が言った。
 鷹緒の一言に、広樹はさっき見た政治家のことを思い出し、鷹緒の複雑な事情に感付く。
「なんか……複雑な事情がありそうだな……」
 ごく普通の家庭に生まれた広樹には、鷹緒にどんな事情があるのか想像もつかず、鷹緒を見つめたまま、返事を待った。
「……何?」
 そんな広樹に、鷹緒が尋ねる。
「え? いや。さっきの政治家……マジでお父さんなの?」
「……べつに、嘘言ったってしょうがないじゃん」
「そうだけどさ……あれ、衆議院議員だろ? 僕でも知ってる」
 広樹の言葉に、鷹緒は深い溜め息をついた。広樹は疑問を顔に出したまま、首を傾げることしか出来ない。
「……諸星政司。妻が病死して一年足らずで若い女と結婚するような、世間じゃ偽善者面の悪徳政治家だよ」
 静かに、鷹緒がそう言った。
「じゃあ、さっきの女の人は……おまえの義理のお母さん?」
 広樹は、鷹緒が抱えている事情を少し理解していた。
 政治家の父を持ち、母親は病死して若い義理の母がいる。義理の母の手に抱かれた赤ん坊は、おそらく鷹緒の義理の兄弟なのだろう。そして、何らかの事情で伯母の家に預けられているようだ。なんとなく、鷹緒が独特の雰囲気を持っているのがわかった気がした。
 鷹緒の事情を悟り、広樹はもう何も聞くことが出来なくなっていた。
「……悪い」
「……俺も風呂入ってくるよ。布団敷いといたから、先寝てていいし。好きに使って」
 鷹緒はそう言うと、部屋を出ていった。
 広樹は早速布団に寝そべるが、まだ寝られる雰囲気ではない。軽く部屋を見渡した後、側に置いてあった鷹緒の学校の教科書を何気なく開いた。自分の高校でやっているレベルとは違う。
「もうこんなところまで進んでんだ……」
 そのまま教科書などを読み漁っていると、しばらくして鷹緒が戻ってきた。
「なんだ、まだ起きてたのかよ」
 そう言う鷹緒は、タオルで髪を乾かしながら、かけていた眼鏡を取った。濡れた髪は無造作に掻き上げられていて、同性の広樹さえもドキッとするほどの色気がある。
「……何?」
 広樹の視線に気付いて、鷹緒が怪訝な顔をする。
「おまえ……モテるだろ?」
 唐突に、鷹緒が外した眼鏡をかけながら、呆れるように広樹が言った。
 鷹緒の出現に対抗意識を燃やしていたが、諦めがつくほどに、自分とは違う部類だと悟る。
「はあ?」
「あれ、あんまり度ないじゃん。もしかして伊達かよ? モテ過ぎて変装ですか、鷹緒サン。さっきから、何度も携帯鳴ってましたよ」
 からかうように広樹が言ったので、鷹緒も苦笑した。
「どうとでも言えよ。でもそれがないと、一番後ろの席から黒板の字が見づらいんだよ」
「嘘つけ。伊達眼鏡だろ。そんな顔なら、眼鏡しなけりゃもっとモテるだろうに……」
「なんだよ、おまえ。男に興味でもあんの?」
 悪戯な瞳で、今度は鷹緒が広樹を見つめる。
「馬鹿野郎。誰がそんな……」
「そうだよなあ。おまえが好きなのは、聡子さんだもんな?」
 鷹緒にズバリを言われ、広樹は飛び上がるほど驚いた。
「な、なんで知って……」
「バレバレなんだよ、わかりやすい……言っておくけど、俺に変な対抗意識とか燃やされても、無駄だから。面倒臭いことには興味ない。かといって、おまえに協力するつもりもないけどな」
 そう言って、鷹緒はベッドに座ると、折り畳んだ携帯電話を開く。
「……いつ気付いた?」
 やがて広樹が、自分の気持ちがバレてしまっていたことに驚きながら、鷹緒に尋ねる。
「いつってことはないよ。なんとなく……見てればわかる」
 鷹緒は携帯電話見つめながら、ベッドに寝そべって答えた。
「……おまえだって、わかるだろう? あの人、綺麗だし、仕事出来るし、優しいし……」
 開き直ったように、広樹は聡子の魅力について、鷹緒に訴えかけるように話し始める。それに反して、鷹緒の表情は変わらないままだ。
「ふうん」
「おまえなあ。あの人の魅力がわからないわけ?」
「べつに、よく知らないし……」
「そりゃあ僕だってそんなに知らないよ。でも、前に家まで送ったことがあってさ。まだ実家に住んでるんだけど、弟と妹がいて。その時、妹さんにも会ったけど、妹さんも聡子さんに似ててかわいいんだ」
「へえ……」
「それで、送ってくれたお礼にって言って、家でコーヒーご馳走になったんだけどさ。お母さんも優しい人で。家族みんないい人ばっかでさ、あの時は優しい聡子さんの人間性がここで作られたんだなって実感したよ」
 熱弁を振るう広樹に、鷹緒はあくびをした。
「……まあ、俺はあんまり興味ないや」
 まったく興味を示さない鷹緒に、広樹は少しショックだった。恋のライバルにはなりたくないが、聡子の魅力を知ってほしいと思う。
「なあ……おまえ、彼女いる?」
 広樹が尋ねた。
「んー、いるといえばいるけど……」