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ひとつの恋のカタチ

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「じゃあ、そこに立って、好きなポーズして」
 三崎の言葉に、理恵は真っ赤になりながらも、腹を決めてポーズを取り始める。
 スタジオには、三崎と鷹緒、広樹と茜の四人の観客がいる。十分間の撮影で、運が良ければ、また鷹緒に一歩近付ける。無心になりながらも、理恵は必死になっていた。
 理恵の脳裏には、今まで穴が開くほど見てきた、鷹緒のモデルとしての表情があった。時に挑戦的であり、寂しげであり、何か深いものを感じる鷹緒の表情に、いつも釘付けになる。そんな鷹緒の顔を思い出しながら、理恵はカメラテストを受けていた。
「よし、十分だ。これで終わり」
 しばらくして、三崎が微笑みながら言った。
 あまりの緊張に不完全燃焼といった感じで、理恵が不安気な顔をする。そんな理恵に、三崎が近付いた。
「君、よっぽど鷹緒が好きなんだね。あいつを撮ってるみたいだったよ」
「え?」
 三崎の言葉に驚いたのは、理恵と鷹緒であった。
「まあ、現像してから決めるから、答えは後日でいいかな」
 そう言った三崎に、理恵は頷くだけで精一杯だ。
「よし、じゃあみんなでメシ食いに行こう」
「やった。鷹緒さんも?」
 茜が鷹緒の腕を掴んで言う。
「え、いや、俺は……」
「たまには付き合えよ。おまえのファンだって女の子が二人もいるんだ。ファンは大事にしろよ」
 乗り気でない鷹緒に向かって、三崎が言う。
「あれ。鷹緒さん、その傷どうしたの?」
 その時、茜が鷹緒の頬の引っかき傷を見て尋ねた。
「いや、ちょっと……」
「へえ。おまえも隅には置けないね。僕も若い頃は、そういう傷をよくつけてたもんだよ。彼女と喧嘩でもしたか」
 三崎が、からかうように言う。
「ええ! 本当なの、鷹緒さん。そういえば、傷のところにマニキュアついてる!」
 ふくれっ面をしながら、茜が過剰反応する。
「ん、まあ……」
 苦笑しながらバツが悪そうに答えた鷹緒に、遠くから見ていた理恵も傷付いていた。
「まあ、いいことだ。なんでも若いうちに経験しておけよ。じゃあ行こう。理恵ちゃんも行けるよな?」
 理恵の肩を抱いて、三崎が尋ねてきた。
「私も? いいんですか?」
「もちろんだとも。これも何かの縁だ。よし、みんなで行くぞ」
 豪快に笑いながら、三崎は店を出て行った。それに続いて、理恵たちもついていくのだった。

 近くの小料理屋に向かった一同は、三崎と茜、広樹と鷹緒と理恵が並ぶ形で座った。理恵は、鷹緒の隣で少し緊張している。
 そんな中で、一同は食事を始めた。気さくな三崎親子を初めとし、理恵も溶け込むように会話を弾ませることが出来たが、肝心の鷹緒とは、ほとんどしゃべることが出来なかった。

 数時間後。すっかり遅くなった一同は、小料理屋を出ていった。
「ごちそうさまでした」
 一同が、奢ってくれた三崎に言う。
「どういたしまして。じゃあな。理恵ちゃんは、どっちかがちゃんと駅まで送り届けろよ。送り狼にはなるなよ」
「ハハハ。はい」
 三崎の言葉に広樹が答えると、三崎親子は去っていった。
「じゃあ、鷹緒。理恵ちゃん、おまえが送っていってくれよ」
 振り向きざまに、広樹が言った。
「え、俺? でも、俺んちすぐそこ……」
「いいじゃん。いつも三崎さんが言ってるだろ。ファンサービスは大事だって。じゃあな」
 広樹は気を利かせるようにそう言うと、足早に去っていった。理恵は、広樹の気遣いが素直に嬉しかった。
 去っていく広樹を尻目に、鷹緒が理恵に振り向いた。
「……家、何処?」
 諦め半分で、少し歩き始めながら鷹緒が尋ねる。理恵は、憧れの鷹緒と二人きりというシチュエーションに嬉しさを噛み締めながら、鷹緒について歩いてゆく。
「事務所の近くです。先日、単身で越してきたばかりで……」
「え、一人暮らし?」
 驚いたように、鷹緒が尋ねる。
「はい」
「高校は?」
「あ……辞めたんです」
「へえ……そう」
 それ以上は何も話さず、二人は少し沈黙になった。それを破って、理恵が話し始める。
「あ……私、ドンくさくて友達も少なくて、いつもいじめられてたんです……そんな時、BOYS&GIRLSの諸星さんを見つけたんです。それで、釘付けになって……」
 理恵の話を聞きながら、無言のまま、鷹緒は歩き続けていた。
「……こんなこと初めてだったんですよ。一目惚れみたいな感じ……それで、何もしないままじゃ、ただのファンだって思って……私、やりたいことも見つからなかったけど、高校生活に満足してなかったんです。だから、思い切って高校辞めて……」
 堰を切ったように、理恵は話を続ける。
「後には引けない状況で、新しく生まれ変わろうと思ったんです。諸星さんの後を追いかけて、モデルになろうって……迷惑かもしれないけど、いじめられて光も見えなかった時に、私は諸星さんに助けられたんです。憧れてました……」
 告白のような台詞だった。理恵は、鷹緒の横顔を見つめた。鷹緒の掛けている眼鏡が、鈍く光っている。
「……会ってみて、がっかりしたろ?」
 しばらくして、苦笑しながら鷹緒が言った。
「え? いえ!」
 理恵が大きく否定する。
「……俺、会ったこともないのに好きとか言われるの、嫌なんだ……」
 突然、鷹緒がそう言ったので、理恵は傷付くような感覚を覚えた。
「あ……あの、すみません」
「……なんか今日思ったんだけど、俺って自分から告白したことも、別れたこともないなって思って……まして一目惚れとか、理解出来ない」
 呟くように言った鷹緒に、理恵は鷹緒の頬の傷を目にした。
「……その傷、彼女が?」
「んー……なんにしても、昔からあんまり恋愛とかに興味なかったかも。ファン心理とかもよくわからないんだよな。どうせ新しいものを好きになったら、それで終わりの関係だろ?」
 鷹緒の言葉に、理恵は鷹緒の考えを少し理解していた。
「そんなことないです。そういうファンだけじゃないと思う……それに、一時期だけでも自分のことを好きになってくれたって事実だけで、元気が出るんじゃないのかな……私は少なくともそうです。こんな私でも、もうファンレターくれる人がいるんです。嬉しかったです」
 そう言った理恵に、鷹緒も理恵の考えを理解した。
 無表情に似た鷹緒の顔が、思わずほころぶ。そんな鷹緒の笑顔を見て、理恵は心から嬉しくなった。
「笑った!」
「うるせー……でもちょっと、そうかもって思った」
 鷹緒の素直な一面を見ることが出来て、理恵も満面の笑みを見せる。その時、駅が見えてきた。
「あ……今日はありがとうございました」
 別れるのが惜しかったが、素直に理恵は礼を言った。
「いいえ」
 鷹緒も少し打ち解けてきたようで、真っ直ぐに理恵を見つめて答える。
「もし、これから仕事とかで会うことがあったら、またよろしくお願いします!」
 溌剌と言いながら、理恵はお辞儀をする。そんな理恵に、鷹緒も静かに微笑んだ。
「こちらこそ……気をつけて帰れよ」
「はい。じゃあ、おやすみなさい」
 理恵は改札へと向かっていく。
 少し鷹緒に近付けたこと、鷹緒の一面が見られたことに、大満足である。また憧れに一歩近付いた気がした。