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ひとつの恋のカタチ

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 そう言って、鷹緒が大きな封筒を差し出した。
「ああ、急ぎのやつだね。わざわざありがとう。三崎さんはどう?」
「相変わらずですよ。じゃあ、スタジオ戻らなきゃならないんで」
「そうか。ありがとう」
 事務員の言葉に背を向け、鷹緒は理恵を見ようともせず、去って行った。
「ま……待って!」
 理恵はやっと我に返ると、鷹緒の後を追い掛けた。
「待ってください!」
 事務所の廊下で、理恵は鷹緒を呼び止めた。
「待ってください。あの……」
 面識のない理恵に、鷹緒は何も言わず、不思議そうに理恵を見つめている。
「あの、諸星鷹緒さんですよね?」
 やっとの思いで、理恵が尋ねた。
「……え?」
 鷹緒が聞き返す。
「私、石川理恵です。先月から所属モデルになりました。よろしくお願いします」
「ああ、どうも……」
 溌剌とした理恵の言葉に反し、鷹緒はそっけない様子で、軽くお辞儀をする。
 理恵は負けじと言葉を続けた。
「あの。BOYS&GIRLSの専属モデルやられてますよね。毎号買ってます、ファンなんです! よろしくお願いします!」
 必死な様子の理恵の言葉に、鷹緒が小さく苦笑した。しかしその顔は、理恵の心に刻まれるように、素の諸星鷹緒という気がした。
「ありがとう……」
 鷹緒はぶっきらぼうにそう言うと、事務所を後にしていった。理恵はそのまま、事務所へと戻っていく。
「そうか。石川さん、諸星君のファンだったんだよね」
 戻って来た理恵に、事務員が言った。
「そうですよ。覚えててくださいよ。やっと会えたのに……」
 理恵が、少し膨れっ面で答える。
「そうか。ごめん、ごめん」
「でも諸星さん、あんまりここへ来ないんですね。私は毎日のように来てるのに、今日初めて会ったんですよ」
「ああ、彼は三崎さん直属の部下だからね。専属モデルではあるけれど、ちょっと特殊な扱いなんだよ」
 事務員が言った。
「三崎さんって……カメラマンの?」
「そう。うちの事務所は、三崎さんと提携しているんだけど、諸星君はもともと三崎さんのカメラマン助手でね。でも、あのルックスだし、撮られる側の勉強として、三崎さんの雑誌でモデルとしても活躍しているわけだよ」
「へえ。そんな複雑な事情が……」
「まあ、彼に会いたければ、三崎さんに撮ってもらえるようなモデルにならないとね」
「ハイ、頑張ります!」
 気合を入れて、理恵が言った。

 数日後。理恵はとある写真スタジオへと向かっていった。三崎晴男が経営する写真スタジオだ。街で見かける写真屋のように、店の前には一般人の写真が飾られている。
 理恵は意を決して、中へと入っていった。ミーハー心でこの世界にまで入った理恵は、逸る気持ちを抑え切れず、どうしても早く鷹緒に近付きたかった。
「すみません……」
 中に入ると、綺麗な受付はあるが、誰もいない。少しして出て来たのは、理恵と年が近そうな少年であった。
「いらっしゃいませ」
 少年が言った。
「あ、あの……諸星鷹緒さん、いらっしゃいますか?」
 意を決して、理恵が尋ねた。
「え?」
「どうしても会いたいんです。あ、私、POMプロダクションの専属モデルで、石川っていいます。この間も、諸星さんにはお会いして……」
 その時、眼鏡を掛けた制服姿の少年が入ってきた。諸星鷹緒である。
「鷹緒」
「ヒロ。珍しいじゃん。受付ボーイ?」
 少年に対し、鷹緒が気さくにそう声を掛けた。
「しょうがないだろ。今、誰もいないんだ……って、その顔どうしたんだ?」
 ヒロと呼ばれた少年が、鷹緒の顔を見て言った。鷹緒の片方の頬は赤く染まり、引っかき傷がある。
「ちょっと、ね」
「モデルが台無しじゃん」
「ほっとけ。モデルじゃねえし」
 鷹緒はそう言うと、さっさと奥へと入っていってしまったので、理恵は話し掛けるタイミングを失っていた。
「……話し掛けられなかったみたいだね」
「あの……あなたは、諸星さんと仲が良いんですか?」
 少年の言葉に、理恵が尋ねる。
「いや。べつに、同じバイト仲間ってだけだよ。ああ、紹介が遅れました。僕は三崎スタジオの広報・事務系バイトをしてる木村広樹です。みんなからはヒロって呼ばれてる。よろしくね」
 広樹と名乗った少年が、優しい笑顔そう言った。
「あ、私は石川理恵です……諸星さんのファンで、POMプロに入ったんだけど……」
 理恵がそう言った時、三崎が入ってきた。
「三崎さん、遅いっすよ。ちょっと出掛けるって言って、いつまで出掛けてるんですか」
 すかさず広樹が言う。
「ごめんごめん。あれ、君は……」
 三崎が、理恵を見て言った。面識はあるが、何処で会ったかまではわからない様子である。
「あ、POMプロダクションの石川理恵です」
「ああ、鷹緒ファンの子ね。覚えてるよ。その後どう?」
 気さくに三崎が話しかける。
「はい、何誌か出させて頂いていて、毎日モデルの勉強中です」
「そうか。ここにいるってことは、早速行動開始ってところかな?」
 見透かすように、三崎が言った。
「ああ、はい……」
「よし。じゃあ、ついておいで」
「え?」
 三崎の言葉に、理恵が怪訝な顔をする。
「今から十分間のカメラテストしよう。もしその十分で、僕が君を使いたいと思わせれば、僕の雑誌で使ってあげるよ」
「三崎さんの雑誌って……」
「そうだな……まずはBOYS&GIRLSってのは、どう?」
 BOYS&GIRLSという雑誌は、鷹緒も出ている、理恵の憧れの雑誌の一つである。
「お、お願いします!」
 意気込んで理恵が言った。
「よし。じゃあこっちにおいで。ヒロ、店閉めていいよ」
「え? でも、まだ……」
 三崎の言葉に、広樹が言う。
「店主がいいって言ってるんだ。今日は従業員も客も少ないし。もう終わり」
「はいはい。了解です」
 苦笑しながらも、広樹は早速、店じまいの準備を始めた。

 店の奥には、広いスペースのスタジオがあった。中では鷹緒が一人、機材を整理している。
「鷹緒。撮影の準備して」
「はい」
 三崎の言葉に、鷹緒は慣れた様子で機材を並べてゆく。
「紹介しておくよ。POMプロの新人モデル、石川理恵ちゃん」
 三崎が、理恵を鷹緒に紹介した。
「ああ、どうも……」
 相変わらずそっけなく、鷹緒が言った。あまりのそっけなさに、理恵は戸惑うばかりである。
「こんばんわー」
 そこに元気よく入ってきたのは、一人の少女と広樹である。少女は中学生と見られるが、背が高く、すでに少なからずの色気もあるように見える。
「茜。来たのか」
「今日は仕事、早く終わるって言ってたから。見学してっていいですか?」
 三崎の言葉に、少女が答えた。
「どうぞ。すぐに終わるから。終わったらメシでも食いに行こう」
「うん。それが狙い。あ、鷹緒さーん!」
 少女が鷹緒に手を振った。鷹緒は苦笑すると、ペコリとお辞儀をする。
 理恵が見ている限り、少女は見た目にも、三崎の娘だろうと思った。事実、少女は十三歳になる三崎の一人娘・三崎茜であった。
 それからすぐに撮影が始まった。憧れの鷹緒もいる中、大御所といわれる三崎にカメラテストをしてもらうのもプレッシャーがある。緊張してガチガチになりながらも、理恵はカメラの前に立った。