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ひとつの恋のカタチ

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「マジで? やっと辞めたんだ、あいつ。うざい、うざい。もっと早く辞めろっての」
 その時、そんな声が聞こえた。優香たちのグループである。
「……うざいのは、あんたたちなんだけど」
 その時、優香に向けてそう言ったのは、他でもなく真里であった。
「は?」
 優香たちが、驚いて真里を見る。そしてすぐに、敵対心剥き出しで真里を睨んだ。
「なに言ってんの? あいつ、男にばっか色目使って、ムカつくったら……」
「そんなの逆恨みじゃない! 石川さんがスタイル良くて可愛いから、嫉妬してるだけでしょ。なんでそんなくだらない苛めで、石川さんが学校辞めなくちゃならないのよ!」
 勢い余って、真里が叫ぶ。
「なに、コイツ。うちらが原因で辞めたわけじゃないでしょ。うちらが嫌なら、あんたも辞めれば?」
「それはないんじゃない? うちらも浅沼さんの意見に同感だよ。石川さんは良い子だったよ。それなのに、名瀬さんたちが話すことさえ圧力掛けて……何様のつもり?」
 他の女子たちが集まり、真里を援護してくれた。突如として、真里には大勢の仲間が出来ていた。
「もうやめろよ」
 突然、そう言って制止したのは、中山である。
「もういいだろ。クラスでいがみ合いは迷惑だよ。それに、クラスメイトが学校辞めたんだ。名瀬たちのそういう態度は感心出来ない」
 いわば男子のリーダー的存在である中山は、頭も良いため、女子の間でも人気であり、少なからずの影響力を持っている。
 その一言で、クラスは一気に静かになった。そこへ担任が入って来たので、一同は何事もなかったかのように席へ着く。
 その時、真里は机の中にある何かに気付いた。見ると、手紙が入っている。真里は急いで、封筒を開けた。
『浅沼さんへ。突然ごめんね。私は昨日、浅沼さんと会った日に、学校を辞めました。原因は色々あるけど、私も新しい人生をスタートさせるというところでしょうか』
 手紙は石川からのものに間違いなかった。真里と会った次の日に、わざわざ学校へ来て、これを入れていったのだろう。
 真里は手紙の続きに見入った。
『これは少し前から決めていたことです。私は高校に入っても友達もあんまり出来ず、学校も楽しくないし夢もないし、どうしたらいいのか行き詰っていました。でも、やりたいことが出来ました。もちろん親は学校を辞めることに大反対で、勘当されそうな勢い。だけど私、最後に浅沼さんに会えてよかった。勇気もらえました』
「石川さん……」
 読んでいる真里の目に、涙が滲む。手紙の文字が涙に揺れる。
『私は中学の頃から苛めみたいなものを受けて来たけど、あんまり気にしてはいないです。無視されたりは日常茶飯事だし、少数だけだから……でも中学校の延長みたいで、いい加減嫌になったのも事実です。そんな中で、私は退学に踏み切ることにしました。これは逃げになるかもしれないけど、きっと浅沼さんみたいに強くなって、頑張っていくつもりです。突然で本当にごめんね。私も頑張るから、浅沼さんも頑張ってね』
 石川の言葉が詰まった手紙に、真里は涙を流した。本当に短い付き合いだった。でも、間違いなく友達であった。
 自分によって勇気をもらえたと言ってくれた石川。そんな石川に、真里もまた勇気をもらえた気がした。
 空いた後ろの石川の席を感じながら、真里は自分ももっと強くならなければと思った。

 放課後。真里はバイト先へと向かっていった。頑張ると心の中で石川に誓ったものの、やはり田村総平に会うのは気が引ける。
 真里は、バイト先のファミリーレストランの前で立ち往生していた。
「浅沼?」
 そんな真里に声を掛けたのは、クラスメイトの中山である。
「中山君……」
「どうしたの? そんなところで」
 首を傾げて、中山が真里を見つめて言う。
「あ、ううん。なんでもないんだ……中山君は?」
「帰ったら塾なんだ。石川、辞めちゃって残念だったね……」
「……うん」
 中山の言葉に、真里も頷く。
「さっきの、格好良かったよ」
 しんみりしたところで、中山が言った。
「え?」
「名瀬たちに、ビシッと言ったの」
 そう言われ、真里は赤くなる。
「ちょっと言い過ぎちゃったかな……」
「そんなことないよ。名瀬たちのグループには、男子も警戒してた。女子の間で苛めみたいなの起こってるのわかってたし……ありがとう。そんな役買ってくれて」
 そんな中山に、真里が笑った。
「どうして、中山君がそんなこと言うの?」
「だって俺、一応クラス委員だし?」
 二人は笑う。しかし、すぐに真顔になった。
「……私も石川さんみたいに、自分の道を見つけたい。強くなりたい。苛めだって許したくないし、自分の弱さにも負けたくない」
「うん」
「……これからバイトなんだ。でもやっぱり、少し気が重くて……」
 真里が、目の前のファミリーレストランを見つめて言った。
「……まだその人のこと、好きなの?」
「ううん。でも、やっぱり怖いんだ。また傷付けられるんじゃないかって思うと……」
 苦笑してそう言う真里に、静かに中山が口を開く。
「……じゃあ、俺と付き合わない?」
 中山が言った。突然の言葉で真意がわからず、真里は驚く。
「えっ……?」
「この間、石川がいたこともあるだろうけど、いろいろ打ち明けてくれて嬉しかった。それに今日の浅沼見て、見習うべき点がたくさんあるって思った。俺も浅沼や石川みたいに強くなりたいし、浅沼のこと、もっと知りたいと思ったんだ……」
 俯き加減でそう言う中山の顔は、とても真剣である。
 真里にとっては、生まれて初めての告白だった。どうしていいのかわからない。
「で、でも私……今と昔は全然違うし、今も自信なくて……」
「昔のことはいいよ。これからのことを考えてくれれば、それでいいよ」
 そう言った中山に、真里は涙が出るほど嬉しかった
「信じられない……私、ずっと中山君のこと憧れてた。だけど自信なんてないし、クラスの女子からも人気あるし、もう自分から告白なんて出来なくて……」
 真里の言葉に、中山も嬉しそうに微笑む。
「じゃあ、いいの?」
 中山の言葉に、真里は嬉し涙を堪えて微笑み、頷いた。
「よかった……バイト、大丈夫?」
「うん。頑張る」
 強さを見せて、真里が言う。
 頑張ろうとする真里に、中山も微笑んだ。
「じゃあ……また明日、学校で」
「うん。ありがとう……」
 真里に見送られ、中山は去っていった。
 信じられないといった様子で、真里はバイトへと向かっていった。もう、バイト先へ向かう躊躇などない。
 ロッカールームには、すでに来ていた田村がいた。
 真里を見るなり、田村が立ち上がる。真里は威嚇されたように立ち止まった。
「浅沼。あの……」
 田村はそう言いかけ、そして意を決したように、頭を下げた。
「ごめん! 俺、ずっと謝りたいって思ってたんだ!」
 突然の田村の言葉に、真里は驚きながらも、田村を見つめる。