小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとつの恋のカタチ

INDEX|12ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

5、亜由美の場合




 学校が終わると、真っ先にアルバイト先のファミリーレストランへ向かう。そんな日常を繰り返しているのは、この物語の主人公・竹脇亜由美だ。
 高校一年生の亜由美は、進学と同時にアルバイトを始めた。そこで巡り合ったのが、二十三歳のフリーター、森誠司である。亜由美の恋の相手だ。
「おはようございます!」
 元気な挨拶で、亜由美はファミリーレストランのロッカールームへと入っていく。
「おはよう。今日も元気だね」
 そうしていつも出迎えてくれるのが、森であった。
 森は長年の経験があり、アルバイトながらもチーフを任され、スポーツマンのように爽やかな笑顔がいつでも印象的である。
 亜由美と森は、入り時間がよく合うため、話す機会も多かった。
「亜由美ちゃん。来月からメニューが変わるらしいんだ。そこにあるから、見ておいてくれってさ」
「ええ! また覚えなきゃいけないんだ……」
 森の言葉に、素早く支度を終えた亜由美が言う。
 亜由美はさりげなく森の目の前に座ると、新メニューを広げた。
「美味しそう。おなか空いてきちゃった」
「あはは。学校終わって駆けつけてるんだろ? そりゃあおなか空くよね。ああ、僕、パン持ってるから、よかったらどうぞ」
 そう言いながら、森はバックから菓子パンを差し出した。
「え、でも、いいんですか?」
「うん。昼食べようと思ってた残り。たくさん買って余ったものだから大丈夫だよ。これでよかったら」
「ありがとうございます。いただきます!」
 亜由美はそう言って、菓子パンを開ける。
 だが、森の視線を感じ、亜由美はパンを差し出した。
「……食べます?」
「ハハハ。じゃあ、ちょっとだけ。人が食べてるの見ると、食べたくなるよね」
「あはは。わかります」
 こんな他愛もない時間を、亜由美は幸せに感じていた。

 バイトを終えると、亜由美はゆっくりと帰り支度を始める。森のほうが遅くまでバイトしているため、帰りは一緒ではない。そのため、出来るだけ会う機会を増やそうと、亜由美はいつもゆっくり支度をしていた。
「おつかれさまです」
 そこにやって来たのは、同じ年のバイト仲間、浅沼真里だ。いつもお洒落に決めている真里は、学校は違うものの、同じ年でバイトの時間も合うことが多いため、亜由美とも仲が良い。
「真里ちゃん、おつかれさま。聞いた? 新メニューの話」
 亜由美が尋ねる。
「ああ、来月から変わるみたいだね。こっちの苦労も知らないで……」
「あはは。本当にね」
「そういえば、森さんのこと聞いた?」
「えっ?」
 真里の言葉に、亜由美は首を傾げる。
「森さん、ここ辞めちゃうんだって」
 それを聞いて、亜由美は目を丸くした。
「えっ……ど、どういうこと?」
「なんかさっき、裏で店長と話してるの聞いて……」
「き、聞いてない!」
 顔面蒼白といった表情で、亜由美は思わず店内へと飛び出していった。
「森さん!」
 亜由美が、厨房にいる森を呼ぶ。
「亜由美ちゃん?」
 怪訝な顔をして、森が顔を出した。
「本当ですか? ここ辞めちゃうって!」
 それを聞いて、森は苦笑した。
「情報早いなあ。誰から聞いたの?」
「……本当、なんですか。なんで……?」
「うん……いい加減、遊んでるわけにもいかないし。大学出てフラフラしてたけど、そろそろ就職しなくちゃいけなくてね。実家帰って、後継ぐつもり」
 森が言った。
 亜由美は訴えかけるような瞳で、森を見つめる。
「実家って……?」
「名古屋の飲食店。まあ、前から継ぐつもりだったから、経営学とかも勉強してたんだけど、しばらくダラダラしてたら、さすがに親にも怒られてね……最近、親父の具合も良くないみたいだし……帰ろうと思って」
「名古屋……」
「詳しいことは今度話すよ。僕も店長に話したばっかりだしね。それより、もう暗いから気をつけて帰りなよ」
 森はそう言うと、笑って手を振り、仕事の続きを始めた。
 亜由美は胸が引き裂かれるような思いがした。いつからかわからないが、気付けば森のことを好きになっていた。一緒にいられれば幸せだった。だが、それすらも叶わなくなってしまう。そう思うと悲しくて、どうしたらいいのかわからない。
「亜由美ちゃん……」
 帰り道、真里が心配そうに声を掛けた。
「あ、ごめん、真里ちゃん。ぼうっとしちゃって……」
 心ここにあらずといった亜由美に、真里は微笑みながら首を振った。
「いいよ。でも亜由美ちゃん、森さんのことが好きだったんだね……」
「……うん……」
 亜由美は正直に頷く。
「気付いたら好きだったんだ……べつに恋人じゃなくても、一緒にいられれば楽しかった。でも、バイト辞めちゃうなんて……」
「……すぐいなくなっちゃうってわけじゃないんだから、よく考えてみたら?」
 落ち込む亜由美に真里が明るく元気づける。
 だが、亜由美は溜息をついて真里を見つめた。
「……いいな。真里ちゃんみたいに可愛ければ、私だって告白する勇気が持てるのに」
 そう言った亜由美に、真里は笑う。
「なに言ってるの! 亜由美ちゃんは可愛いじゃん。自分でわかってないだけだよ」
「……そうかな……」
「そうだよ。それにね、私、高校デビューなんだ」
 突然、真里がそう言った。
「え?」
「中学の時は今よりもっと太ってて、お洒落でもなくて……それで苛められることも多かったから、高校入ったら新しい自分になってやるって思って。だから、もし今の私が可愛いなら、変身したからかなあ。確かにあの頃とは、見方も考え方も全然違うもん。別の自分になったみたい」
「へえ、高校デビュー……そうは見えないね」
「だから亜由美ちゃんも、自信持ちなよ。可愛さなんて気持ちの持ちよう! 森さんだって、すぐに行っちゃうわけじゃないんだし、時間はあるよ」
 真里の言葉に、亜由美は元気づけられたような気がした。
「そうだね。よく考えてみる。ありがとう、真里ちゃん」
「ううん。じゃあ、またね」
 分かれ道に差し掛かり、二人は別れて家へと帰っていった。

 家に帰った亜由美は、携帯電話を見つめていた。フォトフォルダには、バイト仲間で集まった時の写真が何枚かある。そこで、森とツーショットで撮ってもらった写真もあった。
 亜由美はその写真を見て、意を決して森へメールを送ることにした。すでに森もバイトを終えているはずである。
「おつかれさまです。バイト辞めるって聞いて、本当にびっくりしちゃいましたよ! いつ行っちゃうんですか? 森さんいなくなると寂しいですよー!」
 軽い感じでそう打ち込み、何度も何度も見直した。
「寂しい……だと、好きなのバレちゃうかな?」
 独り言を言いながら、亜由美は考え込む。
「ああ、もういいや。送っちゃえ!」
 ボタンを押して送信する。すぐに送ったことを後悔するも、もう遅い。
「送っちゃった……」
 胸が締めつけられる思いで、亜由美はベッドに横たわった。思えば思うほど募る、森への想い。
 亜由美がバイトを始めたばかりの時、すでにベテランだった森は、失敗しても一度も怒らずに、丁寧に仕事を教えてくれた。そんな森に、亜由美はどんどん惹かれていったのだった。
 その時、メールの着信音が鳴る。
「ハイハイハイハイ!」