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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-2(1)>

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あれを奪われるわけにはいかん。あの機体には…」
『失礼ですが、技師長』
 あとを続けようとするギアの言葉を、ヘイズは強い口調でさえぎった。
『そちらの事情と、アルヴェードの重要性は認識しています。
だが、それはあくまで戦術レベルでのこと。
我が隊の戦力増強と、戦闘データの採取と次期主力機開発の投資対象として
みればアルヴェードは魅力的です。それだけの価値はあります。
しかし、眼前の問題を捨て置くわけにはいかないのですよ。
今、アルミラージュを制圧できれば、今後の戦局を有利に導くことができる。
もしかしたら、戦争を行わずに済むかもしれない。
一機の試作機と、戦争によって失われる多くの人命と費用。
天秤に掛けるまでもないのは明白でしょう』

(そんなこと、言われんでもわかっておるわ)
 命令優先が軍人のあるべき姿。
軍人である以上、上からの命令は遵守するべきものだ。
レオたちが気にかからないと言えば嘘になるが、身内が気にかかるなどと、
私情に囚われたことなど言ってはいないだろうに。
だというのに、ヘイズ・バンクレーというこの男。
国防総省から出向してきた、事務次官候補のこいつときたら。
 出世コースに乗っているこの男は、手柄と実績作りに
心血を注いでいて、現場の人間の現実を汲み取ろうともしない。
兵士なぞ所詮、作戦を実行する為の要素の一つくらいにしか
思っていないのだろう。
典型的なエリートに有りがちな選民主義思想の人間ということか。
 困ったものだ、勉強が出来るだけの頭の硬いエリートと言う奴は。
なまじ物覚えがいいだけに、プライドが邪魔して間違いがあっても
自己の認識を修正することを知らんのだ。
物覚えだけが取り柄の”百舌頭”が。

『ところで、アルヴェードが奪取されていない所をみると、
機体にはいま誰が?』
「孫のレオ・キスキンス一等兵と、軍からメーカーに
テストパイロットとして出向してきたリフォ・アイリールという
下士官じゃ。たった一機で、例の所属不明の敵(アンノウン)と交戦しておる」
『…まさか』
 ほんの一瞬、今まで鉄面皮だったヘイズの表情に変化を感じた。
些細な変化だった。
ほんの一瞬の、些細な変化。
ギアは、それを見逃していなかった。
「なにか?」
『…いいえ。ところで…いや、戦況が変わりました。
ぽっと出てきた敵の新型が派手に立ち回っているお蔭で、
編成を組み直す必要が出てきたようです。
敵もこの機に乗じて撤退の素振りを見せています。
戦闘もそろそろ終盤でしょう。
そちらに援護を回せそうです。すいません、先程は失礼を言いました』
 自身の過ちを省みない堅物だと思っていたが、
謝る潔さを併せ持っていたとは以外だった。
多少はヘイズの認識を改めたものの、なにかうす気味悪いものを感じる。
 ヘイズに対する不信感は払拭できず、
なにか裏があるものだと思わざるを得ない。
先ほどの表情の些細な変化といい、気にかかる所だが、
今はそんなことをしているほど時間に余裕があるわけではない。
ここは、援軍を引き出せた所で手打ちとしておこう。
話は後でいくらでも聞ける。

『すまないな、技師長。嫌な役を君の孫に押し付けてしまったようで』
横合いから二人の通信に割って入ってきたのは、
第6連隊ノーチラスの総指揮をとる、艦長のネモ・バルクラム少将だった。
「は…。いいえ、あれもそうした訓練を受けてきた身です。
本人も覚悟があってのこと。
しかし、敵陣の中たった一機ではあまりにも酷です。
それに、あの機体は我々にとって戦力になる以上の
重要な意味をを持つ機体です。閣下、なにとぞ」
『…了解した。バンクレー副長、援護部隊の編成を急ぐぞ』
『アイサー。では、手近な小隊をピックアップして
5分以内に現地に向かわせます。
申し訳ないが、もうしばらく彼らには辛抱してもらいたい。
では交信終了』
「うむ、感謝する副長。交信終了」
援軍の手配を引き出せたものの、レオ達のこと、
これからの色々なことを考えると憂鬱な気分になった。
自分は、とんでもないことを孫に押し付けてしまった
のではないのかと。
そう思うと溜息をつかずにはいられなかった。
「…・」
---やはり、腹に据えかねるものがある。
 心の底からふつふつと怒りがこみ上げて来た。
おもわず、怒りをぶつけるように、ギアは握り拳を
パイロットシートの手すりに思い切り叩き付けていた。
今現在、レオ達が置かれている理不尽な状況にではない。
 あの時のヘイズの違和感。 
ある一つのキーワードに、明らかに反応していた。
その顔に、底の知れない打算と計算が
”アク”のように浮いて出て見えた。
自身の利得のために人を利用しようとする、
”邪悪”さをあの男から感じたからだった。
(…何を考えている、ヘイズ・バンクレー?
…悪い予感がするわい。二人とも、すまんのう。
今しばらく、待っていておくれよ)
 あのヘイズの態度の変わりよう、なにか気にかかる。
ギアは、焦りと不安を一緒くたに抱えた気持ちで、操縦桿を握り締めた。

                 *****                 

(グアマ天文台標準時0906)

 輸送機が飛び去った姿を見て、リフォが「よかった」と安堵の言葉を漏らした。
時間稼ぎには成功したが、まだ安心は出来ない。
島に来る前の戦闘で確認できたテナガザルは少なくとも7機はいた。
それで全部というわけでもないだろう。
伏兵が潜んでいる可能性もある。
 なにより連中は未だ工廠内に潜伏中で、このアルヴェードを諦めていない。
油断は禁物だ。
派手にぞろ揃ってこちら追いかけてこないのは、目立つことを避けるためだろうか。
それとも、なにか事情があるのか。
 レオは輸送機の安全を確保する意味も兼ねて、
周辺の警戒を行うため、観測機器のコンソールを操作した。
周囲360度の映像が、コックピット内にポップした6つのウィンドウに表示された。
映像ウィンドウの一つには、ギアが操縦する輸送機の姿も見て取れた。
 3時から9時方向の監視をリフォにまかせ、レオは輸送機と
10時から2時方向に注意を払って注視した。
そのとき、コックピット内に警告音が鳴り響いた。
「対物センサーに感あり6時方向」
リフォが敵機の襲来を告げた。
「映像回すね」
サブシート側で解析した映像を、メインシートへと転送した。

 映像には黒い豆のような物体が2つ。
カメラの望遠倍率を上げて確認してみる。
テナガザルだ、しかも今度は3機、小隊規模。
 豆粒ほどだった敵機の姿が、その輪郭を顕にしつつ、
こちらへ真っ直ぐ向かってきている。
敵の増援だ。
あちらはまだこちらの追撃を諦めてはいなかった。
 先ほどは、相手も油断していたようで、早々に一機撃破することに成功した。
おかげで一対一の状況を作ることに成功し勝ちを得ることができたが、
今度は逐一連携を取ってくる小隊規模の相手との戦い。
簡単にやらせてはもらえないだろう。最悪の場合は----
 緊張で、ぶるぶると胃の底が震えだした。
見えない不確実性に対し、不安が募る。
怖い。たまらなく、怖い。
でも、---それでも。