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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-2(1)>

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必殺の機会をギリギリまで待ち耐えた者にこそ勝利が与えられる。
これぞまさしく、空における決闘の様式。
 距離200。二機のARはほぼ同時に、手にした得物を振りぬいた。
間合いは手にした武装が、互いの相手に届く距離。
 衝突。飛び散るビーム粒子の飛沫。煌く、プラズマの閃光。
そして、空に映える二対の白銀の尾。
 両機の軌道が交錯し、すれ違った。
互いに健在。繰り出した剣戟は、お互い必殺の一撃とはならなかった。
 すれ違い様、躯体を翻したアルヴェードのメインカメラは
即座に敵機の姿を補足していた。
ドーパミンが放出され、多少はクールダウンした頭でレオは策をめぐらす。
(実力は拮抗している。なら、考え方次第でやりようはある)

 敵機を上方に見据え並走していたアルヴェードは減速をかけた。
リフレクション・ホイールの発するベクトルを反転させ、
後方17時方向へと急上昇。
同時に、計6発のホーミングレーザーを、一拍ずつの間隔を置いて発射した。
 光の帯は、放物線状の軌道を描き、目標へと延びていく。
一発ずつ軌道が異なるレーザー光は、時に絡みつくような機動を見せ、
時に散開しながら、複雑な湾曲線を描きつつ目標へと飛来していった。
 テナガザルの変則的で奇抜な機動を前に、レーザーはその用をなさなかった。
撃てどもことごとくかわされ、的を射るには至らない。
これでいいのかと言えば、”これでいい”。
”これがいい”のだ。

 テナガザルが、回避行動の中で速度を緩めた所を見逃さず、レオは追撃に転じた。
ビームブレイドの発振器を覆うカバー部分がスライドし、ライフルに形を変えた。
 レオは、FCSが導く弾道予測補正を頼りに敵機へと狙いを定めた。
ライフルの銃口から、縮退寸前にまで収束された荷電粒子の矢が放たれる。
 命中すれば、エーテルプレートが耐久負荷限界を起こし
消失すると同時に、装甲を溶解させ構造物を貫通する電子の粒子線だが、
当たらなければ実害はない。
 テナガザルは背後を取られているにも関わらず、人を小馬鹿にしたような
奇抜な機動で、ひらひらと光弾の矢を避け続けていた。
それでも構わず、レオはトリガーを引き続ける。
 敵機と並走しつつ、アルヴェードは上昇機動を取った。
その最中、二発三発と立て続けにビームライフルを撃ち放つ。
放たれたビームを機体を左右に振り乱し、またも回避するテナガザル。
『そんな腕では、当たらないぞ』とでも言いたげな動きだ。

 テナガザルが、やっと反撃に転じようとビームガンを構えた。
所が、アルヴェードはテナガザルの視界の外に消えていた。
テナガザルが、直上の反応に気がついた時にはすでに遅く、
その躯体はビームの熱線に貫かれていた。

 テナガザルが回避行動をとっている間隙に、レオの狙いは達成されていた。
全ては、”本命”の一撃を見舞うための布石。
アルヴェードは、敵が回避に気を取られている間に、
相手の真上をとる位置に移動していた。

 後方へ上昇した後、ブースターを全速全開にしたアルヴェードは、
テナガザルを上空で大きく追い抜くと、
リフレクションホイールの駆動を一斉にカットした。
ホイールから発生していた浮力が失われ、人型の機体がぐるりと180度回転し、
コックピットの視点が上下逆さにひっくり返る。
 アルヴェードの躯体が重力に引かれ、急速に落下を開始した。
手足を折り畳んで落下態勢をとり、ベクトルに任せるままに急降下。
降下開始と同時にリフレクションホイールを再起動。
重力加速度と合わせて、躯体が超加速を得た。
気流を切り裂き落下していくその姿は、まるで白い彗星のよう。
 レオは、敵機との相対高度軸が合う瞬間を待った。
タイミング合わせ、100…50…25…。今。
 即座にスロットルダウンを掛け、速度を減殺。
同時に上下逆さまになっていた機体姿勢をニュートラルに。
 一気呵成のうちにそれらの操作を行った数秒の後、アルヴェードは
降下をしつつ、テナガザルの前方へと躍り出る形となった。
そのすれ違い様に、掲げ持ったビームライフルを発射した。
 接射に近い形で放たれたビームは、テナガザルの
エーテルプレートを簡単に散らした。
ビームは胸部装甲を溶かし、その奥にあるメインジェネレーターを貫いた。
 ジェネレーターを損傷したテナガザルは、ずんぐりとした上半身を
風船のように膨らませるとぼわんと爆ぜ、空の塵と化した。

 「敵機からゲート歪曲場発生を確認、パイロット脱出。
オールクリア。範囲内の敵機全滅を確認」
状況報告をするリフォの声を聞いて、レオの体からすっと緊張が抜けた。
それでも、戦闘の興奮は冷め止まらなかった。
 普段ではあり得ない量のアドレナリンとドーパミンに頭が痛む。
焦点が定まらない。
心臓と胃がきゅうと締め付けられるような感覚が抜けない。
 前後不覚に陥るのをこらえながらもレオは、サブパイロット席のリフォを見遣った。
どうやら、先刻からの戦闘が尾を引いているのか、額には脂汗が滲んでおり
少々疲労の色が伺える。
先程の無茶な機動で、傷口が開いてしまったのだろうか。
「リフォ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。まかせてよ」
そう気丈に振舞って見せたリフォだったが、明らかに憔悴していた。
彼女を早く休ませたいが、状況はまだそれを許してはくれない。
「ギアさん、無事に輸送機まで行けたのかな」
レオたちがアルヴェードで打って出たあと、
ギアは一人別行動をとり輸送機へと向かっていた。
自分が負傷しているにも関わらずリフォは、ギアの身を案じていた。
「大丈夫さ、じいちゃんの事だし。…ほら噂をすればなんとやらってね」
レオは、コックピットのカメラを遠視モードに切り替えた。
ポップされた映像ウィンドウにはレオとギアが乗ってきた輸送機が
島から離陸し、飛び立つ姿が確認できた。

            ******

(グアマ天文台標準時0904)

 二人には、ノーチラスへ帰ってこの状況を伝えてほしいと頼まれたのだが、
二人を放って帰るのも後ろめたさが残る。
かといって、この状況で自分には手伝えることはない。
残っても、お荷物になるのが関の山だ。
ここはやはり、二人に言われたとおりノーチラスへ帰投するのが懸命だ。
結局は、そう判断するしかなかった。
 輸送機で島を離陸した後、ギアは母艦であるノーチラスと連絡を取っていた。
「先ほどの要請だが、状況はどうなっておる副長!?」
先刻、島に上陸する前に打診した援軍要請が受諾されていないことに
ギアは焦りから苛立っていた。
もう一度、こちらで起こっている状況を、順を追って話し、
事態の緊急性を説明したのだが、
通信を取り次いだノーチラス副艦長、ヘイズ・バンクレー中佐から
帰ってきた返答は愕然とするものだった。
『現在、艦長と協議中です。申し訳ないが、今の状況では厳しい。
もう暫く待っていただきたい』
「なにを言っているか。説明しただろう、敵は少なくとも
AR3個小隊近くの戦力なのだぞ。
所属不明の敵部隊は、工廠を襲い、警備に当たっていたPMC(民間軍事会社)
のAR1個中隊を全滅させた挙句、今現在、アルヴェードと交戦している。