恋の掟は春の空
叔父とおかーさんと。直美と俺と。
「あ、昨日はどうも。で、その部屋の事でなんですが・・」
「あー昨日送らせたFAXでいいから、そこに住所と名前を書いて送ってくれればいいから、細かい契約はこっちに来てからでいいから・・」
相変わらず、いそがしいのか、どうなのかは分からなかったけれど、早口だった。
「はぃ。それはわかりました。で、今、その部屋を借りる友達の家からなんですけど、おかーさんが挨拶を、叔父さんにって・・それで電話してるんですけど・・」
さすがに、彼女って言うのは、おかーさんの前だし、ましてや叔父にはとっても言えなかった。
「あらー。彼女の家にいるの。やるねー。で、おかーさんが電話にでちゃうわけ・・いやーどうしよう。緊張しちゃうなぁ。劉ちゃんの彼女のおかーさんでしょ・・」
やっぱり、危ない展開になってきていた。
「あのう、代わりますけど、だいじょうぶですか・・」
「大丈夫にきまってるでしょうが、挨拶すりゃいいんでしょ。いつも甥っ子が、お世話になってますって・・」
言いながら、また、いつものように、でっかい声で叔父は笑っていた。
「では、代わりますね」
電話をおかーさんに渡すと、やっぱり、叔父の声は受話器からもれていたようで、すこしおかーさんは笑っていた。
「この度は、無理なお願いで本当にありがとうございました。藤木と申します。娘が大学なのもので、お部屋をお借りいたします。よろしくお願いいたします」
「いいえぇ。こちらこそ、劉ちゃんには、いつもよくしていただいてますから・・」
「そうですねー2年ぐらいになるんでしょうか・・・
「いえ、まだ、結婚は・・」「えぇ、こちらは、もう、それでもかまわないんですけどねぇえ」
直美がこっちを見て小声で「結婚だって・」って言ってきた。
「いえ、いえ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「お家賃の事なんですが、昨日いただいた金額でよろしいんでしょうか・・
そうですかぁ・・申し訳けありません・」
「え、もっと広いお部屋で劉ちゃんと一緒にですか・・そうですかぁ・・一緒でも、私はいいんですけど、劉ちゃんちに悪いですから・・それは、はぃ・・」
叔父が変な事を言いやがったと思った。
「それでは、東京に引越しにいきますので、その時にまた、ご挨拶させていただきますので、よろしくお願いいたします。え、娘ですか・・ちょっとお持ちくださいね」
わぁー来ちゃったと思った。
「直美、ご挨拶してちょうだい」
おかーさんは、少し笑いながら直美に子機を渡した。
直美は「へぇ!」って驚きながらしゃべりだしていた。
「えぇ・・・それは・・えぇ・・はぃ・・では・・いぇ・・そんな事はないんですけど・・はぃ・・いぇ・・では劉ちゃんに言っておきます・・はぃ
よろしくお願いいたします。失礼いたします。あ。はぃ、劉ちゃんに代わりますね」
何を叔父は言っているのか分からなかったけれど、冷や汗ものだった。
「代わりました」
「うーん。なんかいい子だな。楽しみだなぁ会えるの。ま、じゃぁ、引越しのときに先に会社寄ってくれるかな、日曜だろ今度の・・俺は会社にいないけど分かるようにしておくから鍵もね。じゃ、出かけるからな・・ちゃんときちんと挨拶しといたか心配するな劉ちゃん。ほいじゃあぁ」
返事もしない間に電話は切れていた。あいも変わらずだった。
「楽しい人ねぇ 叔父さん」
おかーさんが笑って話しかけてきた。
「なんか、すいません。性格なもので・・」
恥ずかしかったので、頭を下げていた、なにを言ったんだろうか叔父は。
「おもしろい人だねぇえ」
直美にまで言われていた。
「あのう、引越しなんですけど、日曜日にトラック出しますから一緒でいいですか・・親戚の車出しますから・」
朝に叔父の高志さんから、OKが出ていた。
「そこまで、してもらっちゃっていいかしら」
「えぇ、車が大きくなるだけですから、一緒が楽でいいでしょ、引越し手伝いできますし、俺も」
「その日で、いいよね」
直美はもう決めているようだった。
「じゃぁ。おかーさん、荷物積んでから直美さんの荷物取りに来ます。それでいいですか」
「お願いしていいかしら、何からなにまでごめんなさいね。おかーさんによろしく言っておいてね」
「いいえ、お袋が言い出したことですから、気にしないでください」
それから、荷物はどれぐらいになるんだろう・・とか、FAXの地図を見ながら、どのへんなんだろう、ここって・・言いながら3人で話をした。東京の叔父の話はなるべく出ないように祈っていた。
「お昼食べていきなさい、劉ちゃん」」っておかーさんに言われたけれど、それはどうかなぁーって思ったので帰ることにした。
おかーさんに挨拶をして直美と二人庭にでて、バイクに腰を落として、ちょっと聞いてみた
「叔父さん、なんか変な事言わなかった・直美に・・」
「え、うーん。広いマンションで二人で住めるように、これから親に内緒で手配してあげようか・今から・ってさ」
やっぱり、叔父だった。
「それとねー、叔父さんが、二人の素敵な結婚式の教会の手配も僕がしますね、ですって・・」
言いながらもう笑いそうな直美だった。
まったく、どうにもこうにもの叔父だった。笑い顔を作るので精一杯だった。思い当たる教会があったからなおさらだった。