恋の掟は春の空
想いの言葉
風呂場から出ると、ちょうど直美はドライヤーが終わったらしかった。
「消しちゃおうっと・・」
言いながら部屋の電気を消されていた。
「わぁ、見えないってば・・」
言い終わらないうちにベッドに付いていたほんとに小さな電気を直美はつけていた。
「早く、ここ・・」
言いながらベッドの布団の片隅を直美は手にしていた。
頭の髪の毛をバスタオルでゴシゴシ拭きながら彼女の横に滑り込んだ。入り込むと同時にタオルはどこかに直美にとられてほうり投げられていた。
ベッドの小さな電気も消されていた。
「今日も 素敵だったよ、劉。」
ベッドの小さな電気を消しながら直美に言われていた。
「今日も かわいいかったよ、直美」
少しだけ 照れて言っていた。
「あったりまえじゃん。けっこう もてるんだから、私・・劉もだけど・・」
「俺は もててないと 思うんだけど・・」
「それって 劉が、ただ、どんかんなんだけ・・劉のことを好きな人私いっぱい知ってるもん・・」
「あ、俺も 直美の事好きなやつ、いっぱい知ってるぞ・・」
言い合って笑っていた。
「寒くない・・大丈夫・・」
「うん。平気・・劉って暖っかいんだね・・」
毛布に包まるには、ほんとうに抱き合ってないと、だった。
しばらくすると、静かな寝息が聞こえていた。
起きちゃうかもしれなかったけど、直美のおでこにキスをしていた。ほんとに軽くだったけど。
それから、ずっと直美の寝息を静かに静かに聞いていた。眠かったけど、少しも眠れなかった。
薄暗い中で 直美の顔を見ているとなんだか うれしかった。不思議でしかたなかった。
高校生にあがって、初めて見て どうにも好きになった女の子が腕の中で間違いなく寝息を立てていた。
何回か、どうしてこの子が好きなのか考えた事があったけど、どうにも理由が浮かばなかった。なぜだか、どうにも 好きなだけだった。そして それはとっても自然な感じだった。
小さく、ほんとうに小さく唇をうごかして、ほんとうに小さな小さな声でささやいていた。
直美と自分とに・・
「愛してるよ、大好きだよ・・」
「なぜだか、わかんないけど、すごーく 好きだよ」
「どうしてだろうね・・でも 大好きだよ」
「初めて顔を見た時から なぜだか、直美のすべてが好きだったよ」
「おかしいね・・」
「中学生のときに、俺を見て 好きになったって 言ったけど・・」
「直美が なんで 俺を好きなのか、今でも不思議・・・」
「それって すごーく いつも 不思議に思ってる・・」
「聞いたことないけど なんでなんだろう・・・」
「やさしく なんか した事ないし・・」
「デートだってちゃんと した事ないのに・・」
「いつも けっこう ほったらかしだったよ・・」
「それでも、俺を好きなの・・・」
目を閉じて、ちいさくちいさく 寝ている彼女にささやいていた。
「うんとね・・あのねっ・・・」
小さな小さな声だった。
ドキドキした。
「ごめん 起こしちゃったね・・」
「うん、ずっと聞いてた・・・はずかしいってば・・」
直美の瞳がうっすらと光っていた。
「直美もなんだか わからないんだけど 理由なんかなくて、大好きなの」
「いつも 直美はね 心の中で思ってることがあるの・・」
「初めて言うね。はずかしいから1回だけね・・」
「劉のことを いつも こう思ってるの・・」
「理由はないの・・・」
「正直そう思ってるの・・」
「でもね 本当の事だから・・いつも直美が思ってることだから・・」
「言うよ・・・」
「I'm so proud of you」
言い終わると静かな唇を閉じて、握っていた手をしっかりとまた握ってきた。
手で直美の頬をやさしくなでた。
その意味に応えらえるような 男にならないとって、もうすぐ19歳になる俺は思っていた。とっても大変なことのようにそれは思えた。
腕の中の宝物に愛を誓っていた。
とっても大きな愛と、愛の素敵な重みを感じていた。
春の素敵な夜が動いていた。
『 恋の掟は春の空 完 』
あとがき
お付き合いありがとうございました。
おもったより長く付き合わせてしまいました。ごめんなさい。
では、ほんとうに ありがとうございました。