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VARIANTAS ACT 16 心のありか

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「…仮に、そのような事実が有ったとして、少佐はそれを実証出来ますか? これもあくまで仮の話ですが、真相なるものが存在するとして、それを公表することによって中央軍に甚だしい不利益が生じるとしたら…。軍閥の犯罪を見過ごし、ましてや何らかの癒着があったとして、そのような秘匿すべき事実を大衆に晒すとすれば、一体誰がそれを望みますか?」
「嘗めるんじゃないぞ、アングリフ。治安局を潰したい人間などそれこそ五万といる。その気になれば貴様など…!」
 突き刺すような視線を向けるヴィドックに、アングリフはゆっくりつぶやいた。
「私は部下達に、『武器を持ち、立ち塞がる者があらばこれを撃て』と命じてきた。…ASAFは門番だ。武器を持って来る者を彼らは容赦しない」
「貴様…、我々と戦争をする気か!」
「それはお前次第だ、ヴィドック」
「後悔するぞ…!」
 いきり立ったヴィドックが、会議室を出ていく。それを見たアングリフは、しばらくしてから面白そうに笑いだした。
「怒った、怒った。昔から何も変わってない」
 ヨハンが不思議そうに問う。
「怒らせるのが目的で?」
「ああ。あいつはあんなふうになると見境が無くなる。それで大コケする」
「…それでは?」
「うん、実はお願いが有ってね…」


「少尉!!」
 会議室を出て、廊下を足早に歩くヴィドックが、苛立った声で部下を呼び付ける。その声に答えて、一歩後ろを共に歩いていた浅黒い肌の大柄な男が自分の横に来ると、彼は唸るような低い声で言った。
「状況Cー3の準備をしろ」
 それを聞いた部下の男が細い目を大きく見開き、驚いた声で復唱する。
「“Cー3”…!? それは我々の本来の任務ではないはずです!」
 ヴィドックは答えて言った。
「奴は戦争をすると言った。我々は喧嘩を売られたのだ! 売られた喧嘩は買ってやる。そして必ず勝つ!」



***************




 夜、エイトは、どっかりとソファーに腰掛けると、風呂上がりのビールを一気に流し込こみながら、テレビのリモコンを操作した。
 深夜のくだらない番組を矢継ぎ早に変えながら、ビールをもう一口含む。
 ――それでは今日の天気…
 ――あなたに最高のステイタスを…
 ――今日はスタジオにコメンテーターの…
 ――この番組はご覧のスポンサーの提供で…
 ――未だ捜査は続けられており…
 途中、いくつかのニュース番組が目に留まった。
 これでも治安を維持する職務に就いている人間である。ましてやそれが、自分自身に関係するニュースなら尚更。
 治安局にGIGNが噛んでくることは以前にもあった。しかし、今回のように実際に部隊を動かすような事は、ただの一度もない。
 窓の外に目をやれば、街の夜景の上をGIGNのスカウト機が何機も飛んでいる。
「今回は本気…てか?」
 突然、部屋のチャイムが鳴った。
 インターホンの画面でドアの前を確認する。誰もいない。
 無視しようとしたその時、今度はドアをノックする音がし始めた。眉間にシワを寄せ、ソファーの下から拳銃を取り出す。セーフティーに指をかけ、構えながら玄関に向かう。
 ドアノブに手をかける。一気に開け、拳銃の銃口を先に突き出す。突然、拳銃が掴まれ、右手首を捻られる。それと同時に猛烈なタックルを受け、エイトは玄関の中に押し込められた。
「ぐう…!」
 仰向けに倒れ込むエイト。その上に覆いかぶさる不審人物。反撃に出ようと、左手に握り拳を作る。
 しかし奇妙な事に、エイトの胸元には柔らかな感触が有った。
「ジーナ…!?」
 狼狽するエイト。
「何やってんだ一体!」
 ジーナは、声を張り上げるエイトをとろけた目で睨むと、不機嫌そうな声で答えた。
「何よ、私が遊びに来ちゃいけない訳?」
「遊びにってお前…」
 きつい酒の臭いがした。
「なんだお前、随分呑んでるな…?」
「はーい、呑んでまーす」
 明らかな空元気。
「…とりあえず退こうか」
「いーやーだー」
「俺が起きれないんだけど」
「抱っこして」
「自分で立てよ」
「してくれなきゃどかない」
 エイトは深くため息をついた。
「あーもー、めんどくせぇ奴!」
 エイトは一気に彼女を抱き抱え、持ち上げる。
 軽い。女性であることを再認識させられるほど。つい意識してしまう。
「…で、どうすりゃいい?」
「寝る」
「寝るな! おい!」
 制止の声も空しく、彼の腕の中で、ジーナは寝る体制に入っていた。
「おぉぉい!」
 まずい。この空気は非常にまずい。自分の腕の中で、あのジーナが無防備に眠っている。
 アルコールで上気した頬。スレンダーな体。開け放たれたシャツから覗く胸元。
 普段なら見せないような魅惑的な姿に、エイトの頭は沸騰寸前であった。
「(待て待て待て。落ち着くんだ、俺! こういう時は、頭の中にカードを並べるんだ…。1、寝かす。2、起こす。3、ヤる。…3は論外としてだな…)」
「んん…」
「(頑張れ俺! 耐えろ、耐えるんだ!)」
 理性という薄氷を踏みながら、エイトはジーナをリビングまで運んでいき、そうとも知らずに眠る彼女をソファーに下ろす。
 エイトは耐えた。自分に勝ったのだ。
「おい、ジーナ。起きろよ…」
「………」
「風邪ひくぞー」
「ん…」
「クソ、人の気も知らねぇで…」
 うなだれるエイト。
「ホントにヤっちまうぞ…」
 つい無意識に出てしまった言葉。しかしその言葉を、ジーナはちゃんと聞いていた。
「やってみなさいよ…」
「……!!」
 エイトの全身から冷や汗噴き出る。
「ジ、ジーナ! い、いや今のはつい口が滑っちまって…」
「いいよ、しても」
「は…?」
 思いがけない言葉に、エイトはしばらく思考がロストした。頭の中が真っ白に。雪が降っている。完全にホワイトアウトだ。そんな彼を、ジーナは胸倉を掴んで引き寄せ、睨み付ける。
「やらないかって言ってんの」
「ちょ、ちょっと待…」
 彼女は、狼狽するエイトの言葉を遮るように強引にキスした。アルコールの臭いがエイトの口の中に広がり、彼女の舌先が彼の唇を撫でる。しかしその瞬間、エイトは彼女の肩を強く掴んで引き離した。彼が心配そうな顔で宥める。
「おい! なんだどうしたんだよ、お前少しおかしいぞ!? 今水持って来てやるから」
 立とうとするエイトに、ジーナが縋り付く。
「おい…」
「私ね…、好きな人が居たの…」
「ジーナ…?」
「でもね…、その人は私の事なんか見てなくて、戦いの事ばかり考えてる人だった…。それでも私はよかったの…。遠くても一緒に居られればそれでよかったの…。でも結局駄目だったの。なにもかも駄目だったのよ! 想うだけじゃ、何も始まらない! ずっと一人ぼっちなだけ! だからもう…、だれでもいいから…、私を一人にしないでよ…」
 エイトは、彼女の頬を銀線が走るのを見て、縋り付かれたまま静かに話し始めた。