VARIANTAS ACT 16 心のありか
が、その時突然、カラドの操る機体の右手がティックのボディーを掴んだ。
カラドはスラスターペダルを一杯に踏み込む。
機体背面のスラスターが推力を開放する。
そのまま一直線。
ティックを掴んだまま、高速で走りだす機体。
機体は営舎の外壁にぶつかり、ティックを掴んだ右腕は、その外壁に深々とめり込んでいた。
「捕まえたぞ…、ファントム!貴様を殺して、“亡霊”の名は私が受け継ぐ!」
軋むような音を上げる彼のボディー。
カラドが、ティックを掴む機体のマニピュレーターを更に握り込んだその時だった。
「故に汝らは感謝せよ…。未だ人である事を、感謝せよ…」
ぽつりと呟くティック。
突然、彼を締め込むマニピュレーターの動きが止まる。
「こ、こいつ…!」
悲鳴を上げるアクチュエーター。
次の瞬間、マニピュレーターの関節が歪み、折れた。
ちぎれ飛ぶ“指”。
機体マニピュレーターの束縛を解いた彼は、機体の腕を一気に駆け上がる。
「やらせはせんぞォォ!」
カラドは咄嗟に、右腕をパージした。
落ちる右腕。
ティックは、その右腕を蹴り、空中から更にジャンプする。
迫る左腕。
彼を掴もうとする左マニピュレーターは、寸の所で虚しく空を切った。
機体コクピットに取り付くティック。
彼は右手の超振動破砕機を起動させ、先程アーマグの10mm徹甲弾が開けた穴に、手刀を刺し入れる。
「くそ! 離れろ! 離れろ亡霊!」
叫びながら、彼はティックを振り落とそうと必死に機体をもがく。
だがティックの手刀は、そんな彼の声を掻き消すかのように深々と刺さっていく。
火花を散らす装甲。
彼の手刀は10mm徹甲弾の穿った穴を刔り、更に傷口を広げていく。
そしてティックの右手は、コクピットの装甲を大きく切り裂き、最終装甲板を削り取る。
「悪魔め! 悪魔めぇぇ!」
ティックの右手が、最終装甲板と胸部フレームを突き破り、コクピットの中へ侵入してくる。
絶叫するカラド。
その彼の右腕に、ティックの右手が触れた。
「があああぁぁあッ!」
まるでミキサーの中に手を差し入れたかのような状態。
彼の右腕は瞬時の内に細切れになり、骨がミクロレベルまで粉砕される。
沸騰する血液。
彼の右腕は、血を噴き出しながら破裂。
もはや人の痛覚レベルを通り越した激痛。
急激な出血。
意識の遠退く彼の機体は、仰向けに倒れた。
コクピット内のカラドに向かって、ティックはアーマグを構えた。
戦闘のダメージ。
オーバーロード。
アーマグは、あと一発撃てるだけの力しか残っていなかった。
「ファ…ト…ム…」
カラドが途切れ途切れの声でティックに言う。
「貴様…には…死者の…亡…霊が、とりついている…。その…亡霊は…貴様を…呪い続ける…。私も…な…」
カラドは、口から血を吐き出しながら笑う。
ティックは言った。
「私はお前が羨ましい。人間のまま…、死ねるのだから…」
ティックはアーマグの引き金を引いた。
弾丸はカラドの額を貫き、シートにめり込む。
機体から降りるティック。
彼は壊れたアーマグを捨て、そのまま地面に倒れた。
作品名:VARIANTAS ACT 16 心のありか 作家名:機動電介