VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人
炸裂するグレネード。
特殊な化学合成炸薬が発する強烈な閃光と電撃は、兵士達の動きを、一瞬鈍らせる。
「今!」
曲がり角から踊り出るジーナ。
彼女はアサルトカービンを連射しながら走っていく。
それに気付いて銃を向ける兵士達。
次の瞬間、ガント達の銃弾が、彼らに降り注いだ。
「撃ちまくれ、エイト、ジム!」
「言われなくてもフルオートだぜ!」
彼女を援護して銃を連射するガント達。
エイトのショットガンから発射される一粒弾が、兵士の頭を打ち砕く。
ガントは、アサルトカービンを撃ちながら、背中に背負ったグレネードマシンガンを抜き、構えた。
「ジーナ!」
「……!」
ガントの声に応え、姿勢を低くするジーナ。
次の瞬間、ガントのグレネードマシンガンが火を噴いた。
「うおおおおお!」
彼の咆哮と共に、まるで機関砲のように唸る砲口。
排出される巨大な薬莢。
打ち出されたグレネードは兵士の目の前で炸裂。
数人の兵士が、スーツもろとも砕け散った。
それでも、残った数人が依然攻撃を仕掛けてくる。
銃を連射するジーナ。
「どけぇぇ!!」
************
一人の兵士が、絞り出すようなうめき声を上げて崩れ落ちた。
血を流し、地面で痙攣する兵士を見下ろすティック。
彼の持つマハトの銃口から、硝煙が立ち上っている。
突然、無数の弾丸が通路の壁を突き抜けた。
亀裂が走り脆くなった壁を打ち砕いて現れる大男。
男の身長と体格は、ティックより遥かに大きい。
「見つけたぞォ! 侵入者めェ! 我が城に忍びこんだ事を地獄で悔やむがいいッ!」
男はそう言って、ティックにその巨大な銃を向けた。
微動だにしないティック。
男はその姿を見て、高らかに笑い出した。
「がははははァ! 動けないかァ!? 無理も無いッ! 見よこの美しい肉体ッ! 遺伝子操作と薬物によって極限まで強化した筋肉ッ! 骨格ッ! 神経系ッ! 見よッ! この武装ォ! 本来戦闘装甲車に搭載する筈の30mm機関砲を取り外し手持ち化ァ! 砲弾は30mm炸裂破甲弾を使用ォ! 破壊出来ない物は無いッ! どうだ、恐ろしかろうッ! 逃げ出したかろうッ! だが逃がしはしないッ! お前はここで屍となるのだァ!」
自慢の筋肉と武器を自慢する大男。
その男に、ティックが言う。
「すまん、聞いていなかった」
男の顔が、怒りの為にみるみる真っ赤になっていく。
男はティックに向けて機関砲を撃った。
「砕け散れェ!!」
唸りを上げる機関砲。
砲弾が炸裂し、硝煙がティックの姿を覆い隠す。
「散れッ! 砕けろッ! 木っ端となって散華せよッ!」
次の瞬間、煙の中からティックの身体が飛び出した。
「むおッ!」
思わず声を上げる大男。
ティックは、男の持つ機関砲の砲身の上に立っていた。
「なるほど…。確かにパワーはあるようだ」
男が機関砲を振り回す。
「降りなさいッ! 降りなさいッ! 降りなさいッ! その汚い足を、私のハニーから退けなさいッ!」
ティックは、機関砲を足場にしてジャンプ。
空中でボディーを半回転させ、天井を蹴る。
「私のハニーになんてッ!?」
次の瞬間、彼の拳が男の頬を捉えた。
弾ける頬の肉。
彼の顔面の肉はえぐり取られ、砕けたあごの骨と歯と歯茎から血が噴き出している。
「ひぃぎゃあああ! は、はんでごどうぉ!(な、何て事を!)」
地面をのたうちまわり男。
ティックは、男の襟首を左手で掴んで持ち上げ、右手を彼の頭に当てた。
「なぎをずるぎだ!?(何をする気だ!?)」
ティックは答えた。
「骨格の強度を確かめてやろう」
月の瞬間、彼の右手に内蔵された超振動プレートが目を覚ました。
「うぐぅあああ!?」
振動数を徐々に上げていくティック。
男の頭全体が振動し始め、耳と目と口から血が流れ出始めた。
弾ける眼球。
頭の皮膚全体に亀裂が走りだし、その感触が熟れたトマトのように軟らかくなっていく。
突然、男の頭が割れた水風船のように爆ぜた。
飛び散る男の頭部。
ティックのアーマーコートは、男の返り血で真っ赤に染まっている。
その時、ジーナ達からの通信が入った。
「こちら02、目標を確保した。撤収する」
敵兵を排除し、捕われた捜査官を保護したジーナ達。
それを聞いた彼は、ジーナ達に答えた。
「了解…。合流地点へ向かう」
突然彼の脳裏に、鮮明なビジョンが蘇った。
自分が最前線で戦っている光景…
自分と同じ姿の兵士達。
砕け散る機動装甲。
燃え上がる機体。
それから這いずり出る、火だるまになった敵兵。
人であった事は確かなのに、もはや原型を留めていない肉塊。
銃声、銃声、銃声!
硝煙、硝煙、硝煙!
死体、死体、死体!
破壊、破壊、破壊!
何も生み出さず、何も護らない。
誰も、何も、自分さえも。
詩が聞こえる…
聞き慣れた、自分達の行軍歌が…
踊れ、踊れ、踊り狂え
我等は亡霊
滅びの子
踊り、踊り、踊り狂う
彼等は亡霊
滅びの子
火と硫黄の燃える湖から、生まれ出、滅びの申し子
しかし心せよ
亡霊を装いて戯れなれば汝…
彼のボディーが突然、甲高い高周波音を発し始めた。
次の瞬間、彼の脚部装甲の一部が展開し、高圧のプラズマジェットを噴射し始める。
その推力を受け、通路を高速で移動するティック。
彼は心の中で呟いた。
そこに居るのか…?
同胞達…
************
[A棟6階・第八通路]
「侵入を許した?」
カラドは、自分の後ろに付いて歩く部下達に、静かな声で問い質した。
「はい…。敵は約4名。侵入時には光学迷彩を使用し、警備兵を含む24名を殺害。例のスパイを奪取し、現在逃亡を謀っています」
「奴は?」
「つい先ほど、追撃に向かいました。兵を下げろと言っていましたが…」
「何を生意気な…」
彼はオペレーションルームの扉を開けた。
「緊急発令! 混成機甲部隊出撃! 5分でやれ!」
************
[同時刻、B棟2階・1番通路]
「大丈夫ですか?ボリス捜査官」
エイトが、自分の肩につかまっている傷だらけの男を労るように支えながら、そう尋ねた。
男は答えた。
「ああ、大丈夫だ。ただ肋骨を少しやられているようだ」
エイトは答える。
「頑張ってください。もう少しで脱出できます!」
ジーナが無線で言った。
「こちら突入班! 待機班聞こえるか?」
「こちら待機班、聞こえるぞ」
「怪我人がいる! 収容と脱出の準備を!」
「了解! 脱出信号はすでに打ってある。もうすぐ迎えが…」
唐突に切れる無線。
彼女は何度もコールする。
「待機班どうした?待機班!」
突然、先頭を歩いていたガントの足が止まった。
彼が呟いた。
「01…?」
彼等の前に立つ巨人のような兵士。
その姿はティックと瓜二つ。
しかし、ただ一人そこに立つその兵士はただならぬ殺気を発している。
「違うぞ…、なんか…、ヤバイ!!」
作品名:VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人 作家名:機動電介