小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人

INDEX|7ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

Captur 3



 妙に優しい、懐かしい感覚。
 この感覚は何だろう…
 いつか感じたこの感覚は。
 ここからでも感じる彼の気配。
 あなたは、私を“感じ”ますか…?


[“アストレイ”営舎B棟南側外壁部、通用口]

「月が見えるな…」
 空を見上げたガントが、ぽつりと呟いた。
 先程から聞こえるサイレンの音。
 その音は、月に向かって吠る狼の遠吠えのように、暗い空に、広く、深く、響き渡っている。
「珍しく雲が晴れてやがる。満月は嫌いだ…」
 ぼやくエイトに、ジムが問う。
「なんで嫌いなんです?満月…」
 エイトは答えた。
「幽霊出そうじゃん?」
 思わず脱力するガントとジム。
「お前なぁ…」
 ガントが口を開いた矢先、同時に降下した01からの通信が入った。
「こちら01…、降下完了。同地点の敵を排除した」
 無線にジーナが答える。
「02、了解。こちらも無事降下した。オペレーションオーダーに従い、これより施設への侵入を開始する」
「…了解」
 切れる無線。
 全員の緊張が一気に高まる。
 光学迷彩を起動。
 隊員の一人が、通用口の扉に爆薬を取り付けた。
「装着完了」
 扉の左右に別れて退避する隊員達。
 次の瞬間、取り付けた爆薬が炸裂し、重い鉄の扉が吹き飛んだ。
 それと一緒に催涙ガス弾も投げ込む。
「突入!」
 立ち込める催涙ガス。
 施設の中へなだれ込むジーナ達。
 中は吹き抜けていて広く、ちょうどホテルか何かのエントランスのように階段とデッキが有った。
 敵を捕捉。
 一階左奥に一人。二階のデッキに二人の警備兵。
 彼らは何が起こったのか分からず、ただ催涙ガスにむせている。
 その警備兵達を即座に射殺。
 サイレンサーの乾いた音が冷めた空気に囁き、打ちっぱなしのコンクリートに血飛沫が飛び散った。
「ああ、クソッ!」
 エイトが叫んだ。
「渡されたマップデータと間取りが違う! 改装されてやがる!」
 彼の言う通り、エントランスの一階奥にあった通路が塞がれていて、地下に通じる道が閉ざされていた。
「2階から大回りだな、こりゃ…」
 吐き捨てるように呟くガントに、ジーナが言う。
「ここで引き下がったら何しに来たのか分からないわ」
 2班に別れる彼等。
 脱出時の援護と緊急時の応急対応の為に、4人がこのままエントランスに残り、後の4人が救出へ向かう。
 救出へは、ジーナ、ガント、エイト、ジムの4人が向かう。
「行こう。気付かれる前に、少しでも早く」
 頷く3人。
 彼女達は階段を昇り、デッキを渡って室内へ入って行く。
 先頭に立つガント。
 ジーナは、MAPSの視覚に上書きされる彼のシルエットを目で追いながら、銃のグリップを握り締めた。


 それは一方的な殺戮だった。
 夜中の強襲。
 彼らが持つ10mmアサルトカービンは、人体を確実に破壊出来るように軟頭で低初速のエクスプローダー弾を使い、銃声はサイレンサーで消去。
 薬莢はカートキャッチャーの中に落ちる。
 光学迷彩による姿の消去。
 完璧なカムフラージュ。
 反撃をする隙も与えず、確実に相手を殺害する彼らの技術。
 通った道程に並ぶのは、人だった肉の塊。
 死体の道。
「この先2ブロック、エレベーターシャフト」
 ガントが、曲がり角の影から顔を覗かせながら言った。
「敵影は無し。シャフトを降るぞ」
 安全を確認してから、3人にGOサインを出す彼。
 彼はエレベーターのゲートをMAPSのパワーでこじ開け、3人をシャフトの中へ招き入れる。
「気をつけろ、底まで200mはある」
「いいわ、ガント。先に行きなさい」
 通路に向かって銃を構えるジーナに、ガントが言う。
「大丈夫か?」
「何が?」
 聞き返す彼女の声。
 彼女の声のトーンはいつも通りで、任務中とは思えないほど落ち着いている。
 安心?
 俺達に対する信頼感ではなく、他の誰かから来る大きな安心感。
 お前はそれを感じているのか?
「ガント!早く来い!」
 ガントを急かすエイト。
 ガントの姿が、暗いエレベーターシャフトの中に吸い込まれていく。
 ワイヤーを使ってエレベーターシャフトの中を降りていく3人。
 それに続いてジーナも、シャフトの中を降下していく。
「目標は地下3階B‐3ブロック倉庫! まずい、まずい、まずい!」
 バイザーに映し出される情報を見てエイトは思わず声を上げた。
「MAPSを装着した兵士が5人…、いや6、7、8! 倉庫に向かってるぞ!」
 ジムが答える。
「処刑する気だ…」
「慌てやがって…、狼どもが…!」
「みんな急いで!」
 シャフト内を急速降下していく四機のMAPS。
 倉庫へ急ぐ兵士達は、エレベーターの正面から延びる通路を、ちょうど反対側から走って来ている。
「くそ、あのスパイの野郎…! 仲間を呼び寄せやがった! 俺達皆殺しにされるぞ!」
 兵士の一人が、上擦った声で叫んだ。
「だから今そのスパイをぶっ殺しに行くんだろ!? せめてそいつだけでも八つ裂きにしてやらなぁ!?」
 今喋っていた兵士のスーツに銃弾が降り注いだ。
 弾かれる銃弾。
 8人は、通路を挟んで左右の曲がり角に隠れた。
「くそ!奴らこんな所まで来てやがる!応援を呼べ!」
「了解!」
 無線で応援を呼ぶ兵士達。
 ジーナ達は、エレベーター正面の通路と交差する通路の曲がり角左右に、ちょうど兵士達と同じように隠れている。
「強装弾に切り替え!」
 叫ぶジーナ。
 彼らの銃に、10mm徹甲弾が装填される。
 エイトが言った。
「くそ!奴ら以外と対応が早い!」
 ガントが答える。
「誰だ、マフィアだなんて言ったのは!?」
 兵士達の放つ弾丸が、曲がり角の縁を削り取る。
 12.7mmマシンガン。
「相手が誰でもやる事は一緒!」
 銃のグリップを握り締めるジーナ。
 彼女の言葉に、エイトが答える。
「狙って撃つ!」
 続けてガントも。
「それだけだ!」
 顔を見合わせて頷く3人。
 ジムも、つられて頷く。
「倉庫は奴らと私達のちょうど真ん中! 奴らだって捜査官を殺すには私達を倒す必要がある! 数で押されたらひとたまりもないわ! それなら奴らが出る前に、私達が!」
 兵士達からの攻撃は依然続いている。
 ジーナは、大きく息を吸ってから心を決めた。
「ガント、エイト、ジム! 私が出るわ! 3人は援護して!」
 ジムが叫んだ。
「そんな一人で! 僕も一緒に!」
「ジム!」
 ジムを止めたのはエイトだった。
 彼は言った。
「安心しろ、ジム。ジーナは俺達のエンジェルだ。天使は死なない!」
 エイトはそう言って、20mmショットガンを構えた。
 小さく頷いてからアサルトカービンを構えるジム。
 ジーナは、反対側の通路にいるエイトとジムに、親指を立てた。
「3カウント! スタングレネード用意!」
 エイトが、スタングレネードを取り出しスイッチを押す。
「いいぜ、ジーナ」
「ありがとう、エイト」
 彼女はもう一度ゆっくり息を吐いた。
「3…」
 マシンガンを乱射する兵士達。
「2…」
 降り注ぐ弾丸。
「1…!」
 スタングレネードを投げるエイト。
 グレネードは、兵士達のいる通路の目の前に転がった。
「手榴弾だ!」