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VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人

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「惚れちゃいそうだぜ、ジーナ。全くお前にはよ…」
 彼女はロープを揺らし、部屋の中に飛び込んだ。
「惚れるなら玉付けてから来な」
 挑発的な目で睨むジーナに、エイトが言い返す。
「今夜なら付いてるぜ」
 彼女は物欲しげな目でエイトに微笑んだ。
「なら、今試してあげる…」
 エイトの首に腕を回すジーナ。
 その瞬間、エイトの顔が苦悶に転じた。
 彼の股間に、深々とめり込むジーナの右膝。
 エイトは前傾姿勢のまま地面へ倒れた。
「あら、ちゃんと付いてるのね」
 痙攣するエイト。
「そ、そりゃない…ぜ…」
 昇天。
 治安局の発足と共に組織されたASAFは、MAPSを装備した武装部隊であり、各方面から集められた精鋭達がひしめいている。
 ジーナは、その隊員。
 こう見えても彼等は治安局の最精鋭部隊隊員なのだった。




************





「なんか不思議です」
 新人のジムは、ロッカールームで先輩のガントにそう尋ねた。
 ガントは、その鍛え上げられた身体からアサルトベストとボディーアーマーを外しながらジムに聞き返す。
「何が?」
 答えるジム。
「先輩達3人ですよ。普段とか訓練の時とかは仲悪いのに、任務の時はそれを感じさせない」
「気が合うのは任務中だけでね」
「エイト先輩とジーナ先輩は…?」
 ガントが嫌味な笑みを見せる。
「ジム…、ジーナだけはやめとけ。あいつはパンドラの箱と同じだ。開けるまでは綺麗な箱だが、開けてからは…」
「私がどうしたって?」
 ガントの肩にあごを乗せるジーナ。
「ジ、ジーナ! エイトはどうした?」
「ここだよ!」
 エイトが、相変わらず前傾姿勢のままロッカールームに入って来る。
「エイト…、お前またか! いい加減にしないとセクハラで訴えられるぞ!? なあ、ジーナ?」
 怒鳴るガントに、ジーナは不敵な微笑みを見せてから答えて言った。
「そんな回りくどい事しない。いつか後ろから撃ってやるわ、エイト」
「おー、怖い怖い!」
「本気よ?」
「うっわー…」
 ガントは二人を指差しながら、ジムに諭す。
「な、あの通りだ。うちらの繋がりは所詮“これ”だけなんだよ」
 彼はそう言って、愛用の拳銃をジムに見せた。
「特にジーナは特別だ。彼女は元中央軍人で、零番教導…、つまり特殊先攻部隊の訓練を受けた鉄人だ。そこら辺の男が敵う女じゃない」
「ガント先輩…」
「なんだよ?」
「もしかしてフラれたんですか?」
 ガントが、ジムの頭に銃を突き付ける。
「お前この場で殉職させてやろうか?」
「すんません! すんません!」
「止めなよ、ガント」
 ジーナがガントを止める。
「私の話なんか聞いたって面白くもないだろ、チェリーボーイ。それより今夜飲みに行かない? ガントのおごりでさ!」
「お、俺の!?」
 着替え途中なのか、シャワーに向かう途中なのか、彼女は下着姿のまま肩にタオルを掛け、ガントの肩に腕を乗せて寄り掛かる。
 困った様子のガントを尻目に、ジーナの提案に喜んで賛成するジムとエイト。
 その時、ロッカールームにアナウンスが響いた。
『召集命令。ASAF前衛隊員は、ミーティングルームへ集合せよ。繰り返す、前衛隊員はミーティングルームへ集合せよ』
 ジーナがYシャツを羽織る。
「行くよ!」
 四人は揃って、ロッカールームを後にした。




************




 一機のVTOL機が、甲高い騒音を撒き散らしながら治安局本部の屋上に設けられた着陸ポートに舞い降りる。
 機のランディングギアは一瞬大きく沈み込み、機体左右の安定翼先端に取り付けられたプラズマジェットエンジンが、身を揺さぶるような低周波を発しながらゆっくり停止した。
 開放されるカーゴ室の扉。
 そこから下りる一人の人間がいる。
 “人間”?
 はたして彼を“人”と呼ぶのは相応しい事だろうか?
 身の丈は裕に2m半ばを超え、人のような目鼻口を一切持たない顔。
 血の通う肉と臓物では無く、鋼鉄で形作られた身体。
 脳を除く全ての器官を機械化した完全サイボーグ…。
 そんな彼の左には、取っ手の付いた、3m近い長さの巨大なカプセルのようなケースが…、その右には限定核を運ぶかのような大型のアタッシェケースが置かれており、彼はその二つを軽々と持ち上げてから、機体のカーゴ室からゆっくりと歩み出た。
 風に靡く彼のロングコート。
 彼のセンサーアイが、外の光を浴びて鈍く光った。




************



「おかしくないか?」
 ガントは顔をしかめたまま、ジーナとエイトとジムの三人に問い尋ねていた。
 エイトがガントの言葉に賛同する。
「そうだな、ガント。召集されたのが俺達“前衛隊員”だけだなんて、今まで無かったぞ?」
 彼の言う通り、過去にこのようなケースはただの一度も無かった。
 それだと言うのに、今回召集された隊員は、ジーナ達を含めるとたったの8人。ツーマンセルで行動すれば、たったの4組に満たない。
 いつもの半分以下だ。
「…なあ、そう思わないか?ジーナ」
 エイトはジーナの目を見つめながら同意を求めて来る。
 そんなエイトに、ジーナは言い返す。
「みんな忘れたのか?ASAFに入る時私達が誓った事…。何があっても指令には忠実遂行。たとえ中身がからっぽの指令でも、ヤることは一つ。狙って撃つ。それだけ。私達は考えなくていい。私達はただの人斬り包丁でいればいい。そうだろ?」
 彼女の言葉に、皆沈黙で答えた。
 そこへ、局長補佐官のヨハンが入ってくる。
 ヨハンは、壁に埋め込まれた大きなスクリーンの前に立ち、机の上にファイルを置いた。
「ご苦労諸君。今回も諸君らに任務を与える」
「質問!」
 エイトが勢いよく右手を上げる。
「何だ」
「何で俺達だけ召集なんすか?」
「今説明する」
 ヨハンはスクリーンに向かってリモコンのボタンを押した。
 スクリーンに、目付きの鋭い不精髭の男が映し出される。
「ジョンソン・E・カラド、43才。諸君らも知っての通り、数ある要監視集団の中でも特に注意が必要な集団…、便宜上我々が“アストレイ”と呼称している軍閥の司令官だ。我々はカラドの監視と、数々のテロ行為に対して捜査の根を張っていた。だが55時間前、軍閥内部へ潜入していた捜査官からの連絡が途絶えた。諸君らには、それを救出してもらいたい。諸君らは総員、装備102を着装。作戦領域までは航空大隊の輸送機を使用し、空挺降下。建物南側から侵入。諸君ら小数精鋭部隊は、速やかに状況を開始。目標を救出する。無線はモードCを使用。目標の救出が最優先だが、有事においては徹底的に叩け。ここまでで質問は?」
 ガントがヨハンに問い質した。
「いくら救出だけが任務でも、我々だけでできるのか?」
 ヨハンはガントに答えた。
「確かに、構内を常時制圧する事は不可能だ。だが、敵の動きに混乱を与え、また有事においては諸君らに対しての敵兵站線を寸断する事の出来るスペシャリストをゲストとして招いた。中央軍教導隊教官、ティック=スキンド大尉だ」
 突然、話に聴き入っていたジーナの表情が凍り付いた。