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VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人

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Captur 1



 彼のボディーが、闇に包まれた空へ飲み込まれていく。
 明かりは一つも見えず、上も下も解らないような落下の中で、彼のボディーだけが黒に冴え渡っている。
 重力に捕われ、更に加速を続けるボディーは、減速もしないまま、闇の中へ降っていった。


 ――48時間前

「珍しい事もあるものだな。お前から顔を出すとは…」
 ガルスはアングリフの顔を睨み付けていた。
 そんなガルスに、アングリフは言い返す。
「お前の補佐官が美人だと聞いてな。コーヒーを飲みに来た」
「ふざけた事を…」
 ため息一つ。
「袂を別けてからもう20年か…早い物だな」
「…どうぞ」
 レイラが、アングリフの前にコーヒーカップを置く。
「ありがとう」
 ガルスが、アングリフに言った。
「お前が治安局の局長になったと聞いて、正直肝を潰したよ。まさか本気だったとは…」
「お互い出世したものだな。お前は陸軍兵士…私は情報部の諜報員…適職と言えば適職だがね。旨いな…このコーヒー…」
「やってる事は昔も今も変わらん…。そうだろ?アングリフ」
 アングリフは大きく息を吐いてからガルスに言った。
「力を貸せ。ガルス」
「聞くだけなら」
 ガルスの目の前に、ファイルが置かれる。
「アストレイは知っているな?」
「反統合体勢力の……」
「それが近いうちに、行動を起こす」
「なぜサンヘドリンに?」
「この写真を見ろ」
 数枚の衛星写真。
「これが奴らの基地を撮影した一週間前の写真だ」
「物資の搬入だな」
「そしてこれが4日前の写真…」
 その写真に写る、大型のコンテナ。
「HMA…」
「そう…。しかも昨日、内偵に入っていた捜査官との連絡が途絶えた。捕縛されたと見て間違いない」
「捜査官の保身は?」
「奴らもすぐには殺さんだろう。捜査官を殺せば、我々に強制執行権が生じる。それに、HMAがあるとなると話が違ってくる」
「企業…」
「ジェネシック社だ」
「会社包みか?」
「いや…」
 アングリフは懐から一枚の写真を取り出した。
「見覚えは?」
 ガルスは答える。
「ロイ=マッケンジー…」
「奴はロックウェル事件にも関与していた可能性がある。臭いなんてもんじゃない」
「どこまで掴んでいる?」
「ノウマン=ロックウェルを覚えているか?」
「ロックウェル事件の首謀者だ」
「解体措置をとられた軍閥に、2週間もの間、中央軍と戦うだけの戦力が有ったのは、企業からの兵器提供があったからだ。その時、影にいたのはその、ロイ=マッケンジーだ」
「どうやって調べた?」
「奴の側に捜査官を張り付かせた」
「なんて事を…」
「ああ。捜査官はロックウェル事件が終わった2日後に、自宅の目の前で“事故死”した。加害者も逮捕した。今は新しい捜査官が付いている。今は捕われた捜査官を救出するのか先決だ」
「その後はどうするつもりだ?ジェネシック社ともなれば背後には…」
 アングリフは答える。
「我々は警察官だ。法に則って行動する」
「法のために軍?」
「虎穴に入らずば、虎児を獲ず…テロリストの巣穴に行くのにテロリストになる必要は無いが“武器”は要る。一人でいい。兵士を貸してくれ」
「どんな兵士を?」
「そうだな…人間をぼろ布のように引きちぎり、銃弾も効かず、装甲車を素手で破壊し、HMAをも倒す…そんな兵士を…」
 ガルスはため息をついた。
「過去に治安局が、軍閥を含む武装集団へ強制執行に入ったのは15回…そのうちの7回を“ASAF”が執行…。お前が直接指揮する治安局最強の強襲制圧部隊…アーマード・スペシャル・アサルトフォース…それを以ってしても…か?」
 アングリフは、もう一枚の衛星写真を手渡した。
 今度は赤外線写真。
「この端に写っている人間を見てみろ。人にしては熱量が大きすぎるし、機動装甲にしては小さすぎる」
「サイボーグか。それがどうかしたか?」
「これが通常に撮影した拡大写真」
「…こっちを…見ているな…」
「この後から衛星が基地へ近付けなくなった。このボディが写った写真を見た時、正直震えが止まらなかったよ…。まさか、もう一人生き残っていたとはな…」
「ファントム…」
「一人でいい。いや、一人しかいない。ティック=スキンド大尉を、我々ASAFに貸して頂きたい」
「…彼は今…」
「統合体中央軍教導部で教鞭を振るう教官…でしたかな?帰ってくるのでしょう? 明日…」
 ガルスがアングリフを睨み付けた。
「彼に…同胞殺しをさせる気か?」
 アングリフは答えた。
「…それしかないんだよ。ガルス…」
 そう言ったアングリフを、ガルスは髭を撫でながら睨む。
「兵は準備しよう。武器も弾薬も付けよう。だが、そこまでして私に何の得が有る?」
 アングリフは答えた。
「死んだ捜査官の体内からな、チップが見つかったんだ。さて、そのチップから出たデータは何だと思う?」
「見当もつかん」
「データは二つ。一つは人物のファイルだ」
「誰の」
「ソゾロキ=レ=ブランシェ。特Sランクの国際指名手配犯だ」
「ソゾロキ……」
「そうだ、ツァーリボストーク隊のソゾロキだ」
「もう一つは?」
「数字だ」
「暗号データか…。解読は?」
「未だに進んでいない。肝心な部分が抜けていてファイルとしては不完全なんだ」
「お前はどう思う?」
「660億桁にも及ぶ数字の羅列だぞ?臭いなんてもんじゃない」
「今はその“鍵”を探している訳か…」
「ジェネシック社にアストレイ、ソゾロキ、ロイ=マッケンジー……。どうだ、ガルス…。一つ噛んでみないか?」
 ガルスは、正に鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔でアングリフを見据えていた。




***************



 照り付ける太陽の下、幾つもの銃声が響いた。
 銃声はその残響も消えぬ間に更に重ねられ、繰り返される。
「こちらガント…こっちの隊は全滅した。エイト、後は頼む」
「こちらエイト、了解した」
 隊員達に合図を送るエイト。
 サブマシンガンで武装し、ガスマスクを付けた漆黒の戦闘員達は、その隊長らしき男に導かれて一つの建物に接近した。
 出されるGOサインと共に、隊員の一人がドアを破り、中に突入。
 その瞬間、仕掛けられていたトラップが作動し、スモークが焚かれる。
 突然の発砲音。
 二人がやられる。
「奥の部屋だ!」
 残った4人は左右に別れて壁に隠れ、スモークか晴れるのを待った。
 徐々に広がる視界。
 奥の部屋は暗く、隊員達は赤外線スコープを装着した。
 指で合図を送るエイト。
 彼等は3つを数えて部屋へ踏み込んだ。
 無人の室内。
 あるのは黒く塗り潰された一枚の窓。
 突然、その窓が割れ、太陽の光が部屋一杯に差し込んだ。
 日の光に、機能を失う赤外線スコープ。
 目を覆う隊員達に、窓の外から容赦の無い銃撃が降り注いだ。
 倒れる隊員達。
 一応の射撃が終わり、床には4つの人間が転がった。
「エイト、お前の隊も全滅だ。何てこったい、お嬢さん方…」
 地面に倒れた隊員達が、次々に立ち上がる。
「うるせえ、ガント!お前も同じだろうが!」
 無線に怒鳴るエイトの後ろには、窓の外でロープにぶら下がる一人の女がいた。