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VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人

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 ティックの左腕が、ブラスを突き飛ばした。
「小賢しい!」
 指を組み、両腕を振り上げるブラス。
「ならばお前はそうするがいい! だが私は私の道を行く! 死こそ、私の答えた!」
 彼はそう言って、両腕を振り下ろした。
 ブラスの一撃を両腕で受け止めるティック。
 その瞬間、彼の足元が陥没し、厚さ30センチのコンクリートで作られたフロアが砕けた。
 地面へめり込むティックの脚。
 ブラスは近くの壁から鉄骨を引き抜き、それを身動きの取れない彼へ振り下ろした。
 重さ数百kgは有ろうかというH鋼材。
 ティックはそれを左腕で受け止め、右手で叩き折った。
 次の瞬間ティックは、地面ごと右足を蹴り上げ、コンクリートの破片を巻き上げた。
 蹴り飛ばされる、巨大なコンクリートの塊。
 それを易々と砕き、そのままティックへ殴り掛かかるブラス。
 スラスターで加速された自身の全質量を乗せた、見事な程真っすぐな正拳突き。
 ティックは、重ねた両手に渾身の力を込めて、その拳を受け止めた。
 宙を舞う彼のボディー。
 まるで、砲で撃たれたかのような大きな衝撃は、高性能緩衝ゲルに包まれた脳を揺さぶり、彼の意識を一瞬遠退かせた。
 それでも彼には見えていた。
 ブラスが構える、マハトと同じほどの大きさの銃が。
 対機動装甲用電磁加速飛翔体射出拳銃…、“アーマグ”。
 次の瞬間、その銃から放たれた弾丸は、ティックの頭部を掠め、背後に置かれた高圧ガスのタンクを貫いた。
 轟音と共に爆ぜるタンク。
 ティックのボディーは爆風に飲まれ、そのまま炎の中に落ちた。
「どうした、ティック。お前はその程度だったのか?」
 呟くブラス。
 だがティックは、彼の期待を裏切らなかった。
 炎の中からほとばしる、一発の弾丸。
 その弾丸は、15mm徹甲弾をも弾くアーマーコートを貫き、ブラスの肩を砕いた。
「それでこそお前だ! ティック!」
 歓喜するブラスの腰を、更にもう一発の弾丸が貫く。
 崩れ落ちブラス。
 炎の中から歩み出るティックはアーマグをブラスへ向かって構えた。
 ブラスの視界に映る、アーマグの銃口。
 この銃は、正面から見るとまるで、柩のような形をしている。
「そうだ、それがお前だ。だがな、ティック。我々のボディーはこれくらいでは止まらん!」
 力を振り絞り、アーマグをティックへ向けるブラス。
 その瞬間、ティックのアーマグから放たれた10mm徹甲弾が、彼の左胸を貫いた。
 仰向けに倒れる彼。
 弾丸は、彼の脳生命維持用人工心臓を砕いていた。
 ブラスの傍へ急いで駆け寄るティック。
 彼は、ブラスのボディーを抱き起こした。
「ティック…」
「喋るな、ブラス。今私のバイオポンプと繋ぐ」
「やめろ、ティック。邪魔を…しないでくれ。それに、もう時間が無い」
 彼の言う通り倉庫の外では、アストレイの機甲混成部隊が今まさに到着した所だった。


 倉庫の目の前に並み居る四両の主力戦車。
 その戦車の一つに乗る士官に、無線手の兵士が言った。
「中尉。機装兵の展開、いつでも行けます」
「よし、各員降車!配置に就け!」
「了解」
 倉庫の中を、キューポラに取り付けられた望遠カメラで覗き込む士官。
 その瞬間彼は、思わず呟いた。
「なんだ、あれは…」
 そこには二つのボディーが映っており、一人はもう一人を抱き抱えている。
「中尉…! あれは一体どういう事なのでしょうか?」
「解らん! 先ずは投降を促せ。味方ならば応じるだろう。抵抗するなら射殺しろ!」
「了解」
 倉庫を取り囲む戦車の一つから発せられる、投降を促す呼び掛け。
 それを聞きながらティックは、バイオポンプから流れ出る人工血液を留めるようにブラスの胸を押さえている。
「行け、ティック…」
「お前を置いては行けない」
「駄目だ、お前は生きろ。お前は…ファントムらしくない。決心しろ、ティック…。お前は…、誰かの笑顔の為に死ぬべきだ…」
「ブラス…」
「詩を…、詩ってくれ…ティック…。我々の詩を…」
「待て、ブラス…!私を置いて逝くな…!」
「ああ…、ティック…。この瞬間が…、あの時で…最後なら…ば…、どんなに…楽だった…だ…ろう…」
 ブラスが死んだ。
 ティックの腕の中で。
 静かに、眠るように。
 彼は、ブラスの亡きがらを抱いたまま、詩を詩いだした。
「Dieser Körper wird in drei geschnitzt
(その身を三つに切り分けよ…)
 Was ein anbetrifft in der Schatulle
(一つは柩に)
 Man schlachtet, im Platz
(一つは屠り場に)
 Ein mit selbst essen und erschöpfen
(一つは己で喰い尽くせ)」

 遠い過去、仲間達と紡いだ自分達の行軍歌。
 その詩は、外にいる敵兵士達にも届いていた。
「なんだ…?」
「詩…?」
 彼等にはたしかに聞こえていた。
 自分達の、滅びの詩が…。
 その瞬間、士官が無線に向かって叫んだ。
「全車! 砲塔で目標を狙え!」
 旋回する砲塔。
 ティックを睨み付ける、120mm砲と同軸30mm機関砲。
 それでも彼は、詩を続ける。

 Die Katakombe, die nicht die Zeiten hat, als es auf reflektiert wird
(顧みられる事の無いカタコンベ)
 Es tut erfaßt zu werden, Seele, vom Seitenrand gibt es Nr. und whirls und tanzt
(集められし魂は、憑代無く舞い踊る)
 Tanzen, tanzen, um zu tanzen, abweichen
(踊れ、踊れ、踊り狂え)
 Was uns anbetrifft Kind des abgereisten Geistes und des Fallens in Ruine
(我等は亡霊、滅びの子)
 Der Tanz, tanzt es, tanzt und weicht ab
(踊り、踊り、踊り狂う)
 Was sie anbetrifft Kind des abgereisten Geistes und des Fallens in Ruine
(彼等は亡霊、滅びの子)
 Es wird vom See, in dem das Feuer und der Schwefel brennen und herauskommen, das heaven-sent Kind des Fallens in Ruine getragen
(火と硫黄の燃える湖から、生まれ出、滅びの申し子)
 Aber Bezahlung Aufmerksamkeit
(しかし心せよ)
 Herauf abgereisten Geist ankleiden, wenn du spielst…
(亡霊を装いて戯れなれば…)

「全員…」

 Sie…
(汝…)

「…撃てぇ!」
 次の瞬間、120㎜砲が火を噴き、機装兵からの一斉射撃が倉庫に降りかかった。
 砕ける外壁。