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VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人

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Captur 4



[B棟南800m、部隊回収地点]

 ジーナ達の目の前に降りて来る、大型の輸送機。
 航空灯も部隊章も無いその漆黒の機体は、夜の闇に溶け込み、カーゴ室の赤い室内灯だけが蝋燭の火のように浮かんでいる。
 大きく開かれたカーゴ室の扉。

 何だろう?
 カーゴの入口で機関銃を構えたガンナーが、私達に向かって何か叫んでいる。
 捜査官の救出は成功。
 負傷者はガントとその捜査官。
 待機班は全員殉職した。
 遺体の回収も、恐らくは出来ない。
 今すぐ大声で叫びたい。
 それなのに声が出ない。
 カーゴの中で、エイトが私の肩を掴んで揺さぶっている。
 やっぱり、何も聞こえない。
 機体が高度を上げ始めた。
 ただ一人、彼を置いて…
 違う…
 置いてけぼりなのは私だ…。
 彼と共に…
 自分の心も一緒に。
 教官…
 出来る事なら、あの時のようにもう一度だけ私の前に戻って来て下さい…
 私はまだ、あなたに言いたい事がたくさん有ります。
 もう…、何も言わないまま別れるのは嫌です。
 教官…
 いいえ…
 傷だらけの貴方へ。




************




 営舎内をまるで碁盤の目のように走る通路を、高速で機動する二つのボディーが在る。
 かつての戦争が生み出した、在ってはならない闇の産物。
 数多の殺戮。
 そして、終戦。
 歴史から取り残され、今や互いに銃を向け合うようになった二人を隔てる硝煙と弾丸の嵐。
 その、マハトから発射される15mm徹甲弾は、互いを掠めあい、通路の壁に幾つもの弾痕を刻み付けている。
 刹那、同時に弾切れする双方のマハト。
 その瞬間、ティックは相手のタックルを受け、二人は一丸となったまま通路の隔壁数十枚を突き抜けてゆく。
 スラスターを吹かすティック。
 それでも相手の勢いは凄まじく、彼らのボディーは営舎の西側外壁を突き抜け、更に営舎の外に建てられた古い物資集積倉庫の外壁をも破り、ようやく止まった。
 立ち込める砂埃。
 倉庫の外壁を構成していた発泡コンクリートの瓦礫が辺り一面に散らばっている中、ティックは自分にのしかかるコンクリートの塊を片腕で薙ぎ、身を構えるように拳を握りしめる。
「投降してくれ、ブラス…。いまさら我々が戦う意味は無い筈だ」
 見合う二人。
 “冒涜者”の名を冠するファントム、ブラス=フェーマー。
 “無感覚”の名を冠するファントム、ティック=スキンド。
 同じ姿、同じ武器。
 普通の人間ならば、“戦友”と言うであろう二人の間には、いつしか沈黙が訪れていた。
 重くて不気味な沈黙が。
 その沈黙を、ブラスが破った。
「知っているか、ティック。この世界で…、この巨大な掃き溜めのような世界の中で唯一公平な物を…。全ての人間に平等に与えられる物を…。それは“死”だ、ティック。どんな人間でも必ず訪れる瞬間…。あらゆる責任とくびきから開放される、人類共通の共同墓地。あの戦争から生き延びても、時が来れば必ず死ぬ。どれほど強健な戦士でも、自分の寿命に1インチを加えるも出来ない…。それが“死”だ。だがな、ティック…。我々はそれさえも奪われた!肉体を奪われ、記憶を奪われ…!最後の権利である“死”さえ奪われたのだ!解るだろう、ティック!我々は永遠に彷い続ける運命なのだ!そう、我々に与えられたこのボディーは、我々を永遠に縛り続ける!誰かがこの牢獄を破壊しない限り、我々は永遠に彷い続ける!私は求め続けた!この牢獄を破壊できる救い主を!だがこの忌ま忌ましい牢獄の防衛迎撃機能と私の戦闘本能は、私を縛り続ける!だが救い主は現れた…。お前だ、ティック。この牢獄を破壊できるのは、お前しかいない。同じ牢獄にいるお前しか…!」
 ブラスは、空になったマハトのマガジンを抜き、予備のマガジンと静かに入れ換えた。
「さあ…、終わりを始めようじゃないか、…ティック!」
 そう言って、ティックへ向かって行くブラス。
 彼はその銃口を、ティックの顔面へ向けた。
 引かれるトリガー。
 その寸前、ティックの左腕がブラスの右腕を逸らし、弾丸はティックの右足足元にめりこんだ。
 次の瞬間ティックは、ブラスの背面へ回り込み、その隙に自分のマハトをリロード。ブラスの背中へ銃口を向ける。
 火を噴くマハト。
 それと同時に、高速で機動するブラスのボディーが、至近距離で放たれる弾丸を回避する。
「いいぞ、ティック。お前の死を、私によこせ!」
 振り返ったブラスが、マハトの銃口をティックへ向けた。
 交差する二つの銃口。
 二人の右腕は左右に押し合い、互いの銃口を逸らし合う。
 腕を解くティック。
 彼はブラスが向けてくる銃口を左腕で逸らし、高く構えたマハトをブラスの鼻先へ突き出した。
 絞られるトリガー。
 ブラスはそれを掴んで逸らし、左腕と右腕を交差させるようにマハトの銃口をティックの喉元へ向けた。
 ブラスの右腕を掴むティック。
 お互いのマハトは、お互いの頭の横で同時に火を噴いた。
 二人の間を舞う、二つの薬莢。
 その薬莢を弾き飛ばし、凄まじい早さで交差する二人の腕。
 常人にはとても捉える事の出来ない攻防は、目に見えなくとも、その互いの腕がぶつかり合う音と、マハトの咆哮が物語っていた。
 次の瞬間、流れるようにしなる二人の腕が互いの正面を捉え、マハトが火を噴いた。
 弾き飛ばされる二人。
 二人は互いの弾丸を左腕で防御し、着地する。 
「銃の勝負では決着が着かん…」
「ああ…」
 二人はマハトから手を離し、拳を締めた。
 スラスターで加速する、ティックとブラス。
 その瞬間、互いの右手に内蔵された超振動破砕装置が唸りを上げ、ぶつかり合った。
 凄まじい衝突音と共に弾き合う二つの拳。
 間髪を入れずに、今度は左手同士がぶつかり合う。
 まるで雷撃のような巨大な放電。
 超高電圧放電兵器。
 その二つの電源から発せられる凄まじい電撃は、絶縁体である空気を突き抜け、照明を破裂させ、施設の骨格である鉄筋構造へ伝播した。
 睨み合う二人。
 ティックがブラスに問う。
「一つ聞かせろ、ブラス。死が、人を開放してくれるものならば、生とはなんだ? 人は縛られる為に生まれて来たのか?」
 彼は答えた。
「人は生まれた時から死へ向かっている。生命は死ぬからこそ美しい。死こそ、生命の基本プロセスなのだ!」
 そう言いながら、ティックの左手を押し戻すブラス。
 ティックは、左腕に右手を添えて力を加え、ブラスの腕を止める。
「違う、ブラス!戦って死ぬ事、寿命で死ぬ事…。人は死ぬ為に生まれるのではなく、戦う為に生まれて来る!生命は、自分が生きている間に、少しでも運命に抗おうと戦うから美しいのだ!」
 次の瞬間、ブラスはティックの右腕を更に押し込めた。
「きれいごとを吐かすな、ティック!もはや我々は人ではなく、ただの亡霊に過ぎん!塵は塵に帰り、灰は灰に帰る…。我らは塵から取られ、塵へ帰る!それの何が悪い!」
「馬鹿者が!我等が生きるは意味在っての事!かつて私と戦い、私を生かした戦士が言った!『生きて戦い抜いた先にこそ答えがある』と!たとえ亡霊になろうと、私はもう一度生きる為に戦ってから死ぬ事を選ぶ!」