VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人
爆ぜる対装甲榴弾。
凄まじい弾丸と砲弾の嵐が、倉庫を爆発させる。
「撃ち方止め!」
撃ち止む攻撃。
燃え上がり、崩落する倉庫を見て、士官の男が兵士に叫ぶ。
「早く! 早く奴の破壊を確認しろ!」
怪訝な表情の兵士。
「え?」
「油断するな! 奴は我々の常識を超えている!」
「しかし、あれほどの爆発での生存は…」
そう言うのもつかの間、兵士は突然、凍り付いた表情で呟いた。
「そんな馬鹿な…」
怒鳴る士官。
「どうした! 正確に報告しろ!」
兵士は、震えた声で士官に答えた。
「センサーに反応有り! 目標健在!生きています!」
「何!」
嵐のように燃え上がる、真っ赤な炎の中に立つティック。
今、彼の両手には、アーマグが握られている。
「くそ! 砲塔のコントロールをよこせ!」
砲塔のコントロールをオーバーライド。
コントロールレバーを握りしめる彼の掌に、汗が滲み出る。
“亡霊を装いて戯れなれば汝、真に亡霊とならん”
彼が両手に持つ、二つのアーマグには、そう刻まれていた。
炎の中から歩み出る彼。
彼を取り巻く炎が、一瞬仲間達の姿を作り、消える。
「全車、APFSDS装填! 合図と共に一斉射!」
装填される徹甲弾。
戦車の120mm砲が、部隊へ歩み寄るティックを睨み付ける。
「砲射用意! …テェッ!」
引かれるトリガー。
各120mm砲から発射された4発のAPFSDSは、ティックの周囲へ次々に着弾し、衝撃によって巻き上がった炎が彼の姿を掻き消した。
「やったか!?」
奥歯を噛み締める兵士。
「いえ…! 目標健在!」
「馬鹿な! 直撃の筈…!」
「目標から高エネルギー反応!」
次の瞬間、士官の乗る車両より前に出ていた2両の戦車が、貫かれ爆ぜた。
「何事だ!」
「目標からの銃撃です!」
叫ぶ士官。
「主力戦車が一撃だと!? 奴は…、HMA並のレールガンを持っているのかッ!」
彼は奥歯を噛み締めた。
「全車後退! 機装兵を援護しながら目測で制圧射!」
急速後退する戦車の中で、兵士が叫んだ。
「中尉! あれは一体…、あれは一体なんなのです!?」
彼は答える。
「亡霊を装いて戯れなれば汝、真に亡霊とならん…! 大戦中、当時最大勢力を誇った軍閥の計画の中で、死亡した兵士の脳だけを蘇生し、兵器として使えないかと言う物があった…。痛みを感じず、何も思わず、命じられるがままに殺戮を行う人間兵器…! 戦争倫理に反した、存在しないはずの幽霊部隊…! 部隊ナンバー・00-i(ダブルオーアイ)…、対機甲機械化猟兵・ファントム!!」
士官の言葉に、思わず息を呑む兵士。
その瞬間、ティックは猛烈な勢いで部隊に向かって走り出した。
「応戦しろ!」
重機銃を連射する機装兵達。
ティックは、雨のように降り注ぐ12.7mm徹甲弾をものともせずに全身で受け止める。
地面を蹴る彼。
その瞬間、彼のボディーは軽く十数mを飛び越し、逃げ遅れた一人の機装兵を蹴り飛ばした。
彼の足の形にへこむ、機装兵の胸部装甲。
その兵は、身体をくの字に曲げたまま、宙を舞った。
「30mm!」
士官の声に応え、同軸30mm機関砲が、ティックに向かって徹甲弾を叩き込む。
それを回避する彼。
まるで滝のようにたたき付ける徹甲弾を、正確に避け続ける。
「駄目です! 早すぎま…」
途切れる無線。
また一つ、戦車がアーマグに撃ち抜かれた。
「小回りの利かん戦車では…! 機装兵は何を…!」
無線の向こうから聞こえてくる部下の叫び声。
それは、外にいる機装兵達の物だった。
その声を、カラドは発令所で聞いていた。
「3号車・4号車、大破!5号車も!」
「6号車擱座! 機装兵部隊、消耗率60%突破!」
カラドが呟く。
「私の360を用意しろ…」
一人のオペレーターが振り向いた。
「そんな! 司令が行かれるまでもありません! それに、敵ももうじき弾が切れます! そうすれば我々で……!」
「ふ、無理だな。いくら歴戦の猛者でも、奴には勝てん。だが、時間を稼ぐことは出来る。諸君、ご苦労、脱出を開始しろ」
彼はそう言って、発令所を出た。
「クソッ!相手は一人だぞ!」
機装兵の一人が、重機銃を連射しながら吐き捨てる。
視界に映る、仲間の死体。
彼は重機銃の銃身下部に装着されたロケットランチャーを放った。
「喰らえ!」
迫る対装甲ロケット弾。
ティックはそれを回避し、アーマグを二丁同時に撃つ。
二人の機装兵が、風船のように爆ぜた。
弾切れを起こす二丁のアーマグ。
彼は、右手のアーマグを地面へ捨てた。
「奴は弾切れだ!」
「撃て! 撃て!」
叫びながら重機銃を連射する機装兵達へ向かって行くティックは、右手の超振動ナックルで一人の機装兵の脳を刔り重機銃を奪うと、それを彼等に向かって撃った。
アーマグのマガジンを捨てるティック。
彼は左手の手首を曲げ、アーマグの銃口を下へ向けた。
その瞬間、アーマーコートの袖の中から、アーマグの予備マガジンが飛び出し、グリップの中へ収められる。
アーマグの銃口を起こす彼。
だが彼は突然、空を見上げた。
突然降り注ぐグレネード弾。
地面を焦がす爆炎が、ティックと機装部隊を遮断。
その中に、チョバムアーマーを全身に取り付けた、カラドの360h1が着地する。
「やっと叶った…! 貴様等をこの手で殺す瞬間が! 対機甲機械化猟兵・ファントム! 貴様等が地獄へ帰る時が来た!!」
TO BE CONTINUED...
作品名:VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人 作家名:機動電介