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VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき

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「ムカつく! ムカつく! ムカつく! お前の上から物を言うその態度が大ッ嫌いだ!」
「なら同志になれ」
「な…に…?」
「お前は強くなる。我々と共に来い」
「本気で言っているのか?」
「ああ」
「ば…! 馬鹿な! 我々は人類と協力もしなければ共存もしない!」
 拳を握り締めるユリア。
 グラムは持っていたプレッシャーカノンを亜空間コンテナの中に格納した。
「いいんだな?」
「当たり前だ!」
「そうか」
 次の瞬間、ネクロフィリアの脇腹を、ディカイオスの右拳が貫いた。
「な…」
 崩れ落ちていくネクロフィリアを、ディカイオスの目が見下ろす。
「(何が起きた!? 今のが“絶対貫通打”…!? 速い! 見えない…! いや…知覚出来ない! コアは!? “素体”は無事か!? 起きて反撃…! 機体が…動かない!)」
 グラムはフレズベルグの銃口をネクロフィリアの胸に向けた。
「(歪曲空間を…ダメだ…出ない! …今度こそ終わりか…)」
 フレズベルグを連射するグラム。
 弾丸はネクロフィリアのコアとリベカを避けて、それ以外の部位を破壊。
 本部との通信を切断した彼は、全弾を撃ち終えたフレズベルグをコンテナへ戻した。
「エネルギー反応を消せ。私が背を向けるまでは動くな。向けてからは好きなように帰ればいい」
 リベカが問う。
「なぜ…撃たない? お前の行動は理解出来ない。何故敵を生かしておく?」
 グラムは答えた。
「お前は誰かに似ている気がする」
 彼はそう言って、機体を反転させた。
「エステル…音声記録の消去を」
「録っていません…最初から」
「そうか…」
 回線を本部へ再接続。
「こちらミラーズ…。状況終了…」
 その背中を見つめながら、リベカは静かにゲートの中へ消えていく。
「大型ヴァリアント、空間跳躍ゲート展開! 逃げます!」
「あいつめ…」
 グラムが無線を通してガルスに言う。
「すみません、逃げられました」
 ため息をつくガルス。
「早く帰ってこい…」
 グラムは一つ頷いてから機体を空へ飛翔させ、帰路へついた。




************




 彼等を収容したスペクターは、その巨体を本部の滑走路へゆっくりと降着させた。
 静止する機体。
 それと同時にカーゴのハッチが開かれ、HMAが降ろされる。
 彼等は各々、自分の機体から降り、ヘルメットを脱いだ。
 夜の風が頬を撫でる。
 左腕全てを失ったユリアのロンギマヌスと、右腕全てを失ったビンセントのロンギマヌス二世。
 脚部を破損したレイズのラッシュハードロング。
 駆動系の故障した一刃の水蘭。
 みな、満身創痍で帰って来た。
「疲れた…帰って寝たい…」
 ユリアは独り言のように呟いていた。
 その横に立つビンセントは、彼女に言った。
「こっち向け」
「ん?」
 乾いた音が響く。
「あ…れ…?」
 レイズや一刃の目の前で、ビンセントはユリアの頬を叩いた。
「俺はお前を自殺志願者に育てた覚えはねぇぞ、ユリア。無茶しやがって、この馬鹿が。若旦那が居なきゃ、お前ぇ蒸発してたんだぞ? 分かってんのか?おい」
 ユリアを叱り付けるビンセントの声は、荒々しい声ではなく、落ち着いた静かな声だった。
 それでも、その声はユリアの心に深く突き刺さる。
「痛い…」
「当たり前ぇだ、叩いたんだからな…」
「なんで叩くの…?」
「あ?」
「なんであたしの事叩くの…?」
「言っても分からないからだろうが!」
「嘘だ!!」
 ユリアは涙をたっぷりと蓄えた目で、ビンセントの顔を睨み付けた。
「本当はあたしの事なんかどうでもいいんだ! 欝陶しくて、早く帰って欲しいだけなんだ! だからあたしの事叩くんだ!」
「違うぞ…! ユリア! それは違うぞ!?」
「何が違うの!? 家族なんだから一緒に居たって良いじゃない! それなのに兄貴はあたしを帰そうとして…」
「それはお前が…!」
「あたしだって戦えるんだ!」
 ビンセントは思わず声を張り上げた。
「一人じゃ何も出来ねぇだろうが!」
 二人の間を沈黙が支配する。
 重く長い沈黙が。
「そうだよ…」
 ユリアが沈黙を破る。
「…あたしは一人じゃ何も出来ない…出来ないんだから! 兄貴が…お兄ちゃんがいなきゃ…何も出来ないんだから!」
 崩れるように地面へ座り込むユリアの頬を、大粒の涙が流れる。
「…それでもあたしはお兄ちゃんの役に立ちたくて…助けたくて…傍に居たくて…。それなのに…それなのにお兄ちゃんは…!」
 突然、ビンセントがユリアの頭に手を起き、膝を突いて撫でた。
「お兄ちゃん…?」
「ごめんな…ユリア…兄ちゃんのせいで余計な心配掛けさせちまって。でもなユリア…、人間は蒔いた種を刈り取らなきゃならん時が必ず来る。明日か明後日か…何年も先か、それは誰にも分からねぇ。でもその時が来れば、人は必ず刈り取らなきゃならねぇ。たとえそれが小麦でも、雑草でもだ。俺はいろんな種を蒔いてきた。だから良い収穫もあるだろうし、悪い収穫もあるだろうよ…。俺はなぁ…ユリア…、お前を“悪い収穫”に巻き込みたくねぇんだ…分かってくれ、ユリ…」
「分かんない」
「は?」
「全っ然分かんない!」
「ユリア!」
「ごめんなんて言うな! 謝る位なら、信じなくていいなんて寂しい事、最初から言うな! 悪い収穫? 知らないよ、そんな物! 悪い種を蒔いてきたビンセント=キングストンなんて、とうの昔に死んだんだ! 敵と戦って…勇敢に死んだんだ…! だからあたしは諦めない! あたしが…あたしが大好きなビンセント=キングストンは…傭兵でも…軍人でもなく…“人間・ビンセント=キングストン”! …だからもう…格好付けた我慢競べは終わりにしようよ…」
 そう言って、ビンセントに抱き着くユリア。
 ユリアの涙は、彼のパイロットスーツを伝い、やがて乾いた。
 空を見上げるビンセント。
 彼は息を大きく吸ってから、ユリアの肩に手を起き、彼女の身体を優しく引き離して言った。
「ユリア…泣くんじゃねぇユリア…誰も死んじゃいない…死んじゃいねぇよ、ユリア…。俺はここに居る…お前と一緒に、俺は居る…。だから泣くな、ユリア。幸運の女神様はな、泣き虫が嫌いなんだ…」
 一瞬、ユリアの胸が高鳴った。
 そうだ…そうなんだ…
 兄貴は…
 何も変わってなんかいなかったんだ…
 昔のままの…
 大好きな兄貴のまま…
「兄貴…」
 再びビンセントに抱き着くユリア。
 その瞬間、無数のスポットライトが二人を照らし出した。
「なななな、なんだぁ!?」
 歓声が沸き上がる。
 建物の屋上から、滑走路の隅から、歓声が聞こえてくる。
「な、何だこりゃ!」
 うろたえて周囲を見回すビンセントの前に、グラムが立った。
「一見落着…だな…」
「グラムてめぇ! おい! 離れろユリア!」
 すやすやと寝息を立てるユリア。
「寝るなー!」
「戦闘と泣き疲れだな…」
「グラムお前ぇ…始めから分ってて若旦那を待機させたな?」
「ああ。でも、仲直り出来ただろ?」
「なっ…!」
 ビンセントは怒る気も失って、苦笑いするしかなかった。
「お前ぇにはかなわねぇよ…」
「今頃気付いたか…」
 グラムはそう言って、ビンセントの肩を叩いた。