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VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき

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 それは誰の物でも無く、一刃の声だった。
「若旦那…?」
「遅くなってごめんなさい」
「馬鹿…!出撃命令は出てねぇだろ!?」
「ええ…。でも我慢出来なくて来ちゃいました。超音速で。どうにかぎりぎり間に合いました」
「間に合った…!? それじゃあユリアは…!」
 ユリアの乗るロンギマヌスの目の前に、立ち塞がる水蘭。
 一刃は水蘭のグラビティリフレクターを前面に展開して、寸での所でスナイパーのビームを防御していた。
「起きてください、ユリアさん!2撃目が来ますよ!」
「一刃…?」
 ユリアはぼやける視界の中に浮かぶ水蘭の姿をその目に焼き付けていた。
「なんで…?」
「え?」
「なんで、待機命令を無視してまで私なんかを?」
「変わりたくなかったからです」
「変わるって何に…?」
「このまま何もしないで見ているだけでは、僕は変わってしまう…。肉と血の詰まったただの生きた屍に! 僕はそんな物になりたくない! ユリアさんだって、同じ事を思った筈です! それに…」
「それに…?」
 一刃は少し照れた様子で頬を掻いた。
「女の子に腰抜けだなんて、思われたくありませんから…」
「お前…」
「はい?」
「なかなかいい男だな…」
「え?」
 ユリアはロンギマヌスを、再び立ち上がらせる。
 彼女はパラディンを脇に抱え、マガジンを抜いて弾数を確認した。
「あと二発…か」
「ユリア! おい! 無事か!?」
「兄貴っ!」
「よかったぁ〜!本当によかった〜!」
 鼻を啜る音が聞こえる。
「情けない声出すなよ、兄貴! 泣いてんのかよ?」
「馬鹿野郎! 俺様がそれくらいで泣くかよ!」
 ウインドウ通信のカメラを押さえるビンセント。 
 絶対泣いてる。
「くそ兄貴」
「馬鹿娘」
 お互い、くすりと微笑む。
「まだ、終わりじゃねぇぞ!ユリア!」
「分かってるよ! 兄貴っ!」
 彼女は麻痺した機体の左肩をパージし、水蘭の後ろで膝を突いた。
「片腕で狙えるか?」
「心配しないで、兄貴。あたしを…あたし達を信じて! あたしも、兄貴の事信じてるから…!」
 水蘭の肩にパラディンの銃身を置く。
「肩、借りるよ」
「防御は任せて下さい」
 スナイパーを光学で再捕捉。
「弾は二発! チャンスは一回! 一刃がスナイパーの砲撃を防御した瞬間に、一発目を発射! 初弾を迎撃している間に、直撃弾を叩き込む! 少しでもタイミングがズレればその時は…」
「そうはなりませんよね? ユリアさん!」
「ああ! させはしない!」
 機体の脇を締め、パラディンをしっかりと構えるユリアを、スナイパーの砲口がじっと睨み付けてくる。
「(チャンスは一瞬!次は無い!)」
 トリガーに掛けられた指が小刻みに震え、脂汗が頬を伝う。
「来る!」
 スナイパーの構えるライフルからビームが放たれた。
「リフレクター出力全開!」
 唸りを上げる水蘭のリフレクター。
 迫るビームはビンセント達の頭上を過ぎ去り、着弾。
 ビームは水蘭のリフレクター表面で、そのエネルギーを開放した。
 それと同時にトリガーを引くユリア。
 パラディンから撃ち出された徹甲弾は、浅い放物線を描きながらスナイパーへ迫った。
「(力を貸して! 兄貴…!)」
 高速で飛来する徹甲弾を捕捉するスナイパー。
 スナイパーの砲口が、空に向いた。
「今!」
 放たれるビーム。
 それと同時に、ユリアは最後の一発を放った。
 空を切り裂くビームは、初弾を貫き蒸発させる。
 次弾の迎撃に入るスナイパーは初弾の爆ぜた金属プラズマ越しに次弾をロックした。
 チャージされるライフル。
 次弾は、初弾の残した爆炎を突き抜け、プラズマを纏いながらスナイパーへ迫った。
 放たれるビーム。
 それと同時に、徹甲弾はライフルの左脇を通過した。
「吹っ飛べ、クソ野郎!」
 スナイパーのコアを撃ち抜く徹甲弾。
 スナイパーはまるで、糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、轟音と共に爆ぜた。
「やったぁ!」
「凄いですユリアさん!」
「よくやったぜ、ユリア!」
「ユリアさん!」
 歓声を上げる一同。
 その声を、ガルスは安堵の面持ちで聞いていた。
「敵新型機、反応消失!」
「シェーファーが撃破した模様!」
 ため息をつくガルス。
「いい部下を持ったな…ミラーズ…」
 ガルスはそう言って、核の発射コードを解除し、立ち上がる。
「全空軍機に発令! シェーファーを援護し、敵残存部隊を殲滅せよ!!」



************




「狙撃兵が…!」
 ディカイオスと戦うリベカの感覚からスナイパーの反応が消え狼狽するリベカのネクロフィリアに、ディカイオスからの攻撃が猛然と襲い掛かる。
 ホーミングレーザーが空を裂き、全領域制圧砲の荷電粒子が火球を咲かせ、プレッシャーカノンの重力衝撃波がネクロフィリアの巨体を地面へたたき付けた。
 思わず声を上げるリベカ。
 ネクロフィリアは土を抉りながら地面を滑り、やがて止まる。
「どうした、リベカ…。修行の成果はこんな物か?」
 グラムが、ネクロフィリアの目の前にその機体をゆっくりと降ろす。
「くっ…!」
「自慢の狙撃兵も、お前自身も、お粗末な物だな」
「だ、黙れぇ!お父様の創ったこのネクロフィリアを馬鹿にするなぁ! それに…! 狙撃兵がいなくても、弾薬の尽きかけたお前の部下など残ったソルジャーで十分…」
 その時、リベカの表情が凍りついた。
「空軍機! 爆撃か!」


************



「やるじゃねぇか!ユリア!」
 ビンセントがユリアを褒め讃える。
 それに対してユリアも、素直な返事を返してくる。
 そんな中、イオとサラだけは、事態の展開にいち早く気付いていた。
「ビンセント!」
「レイズ!」
 二人は揃って声を上げる。
「敵が来ます!」
 ビンセントの目付きが変わる。
「ソルジャーの残存兵か…!数は!?」
「30!」
「やれねぇ数じゃねぇが…」
「マシンカノンの弾薬はもう…」
「レイズ! 持ってる武器は!?」
「さっき投げたマシンガンが最後です! あとはビームランチャーしか…」
「くそ…!ユリア!」
「徹甲弾も榴弾も0!」
「若旦那!」
「最後の直撃でリフレクターと駆動系にダメージが…」
「くそッ! 万事休すかコノヤロウ!」
 その時突然、上空から降り注いだ無数のミサイルが地に刺さり、ソルジャーの中に火球が咲いた。
「な、なんだぁ!?」
 無線に通信が入る。
『こちらサンヘドリン空軍! これよりシェーファーの援護に当る!』
 言葉の通り、彼らの上空を、重装甲近接攻撃機であるHMA−h2DA/C・ラッシュハードロングと、空軍主力のh2C/FA1・フェニックス。そして空軍最強戦力であるHMA−h2E/F・ディープフォレストが飛来した。
 ラッシュハードロングがミサイルとガトリングを撃ち込み、敵を撹乱。
 フェニックスが精密に敵を爆撃し、地上を離れたソルジャーを、ディープフォレストが叩き落していく。 


「キッサッマァッッ!」
 ディカイオスを睨み付けるリベカに、グラムが言い聞かす。
「言っただろう、人類を嘗めるなとな」
 ネクロフィリアが砂埃を上げながら立ち上がった。