VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき
「これから全員に訓示を与える! まずはレイズ!」
「は、はい!」
「自らの危険を省みず、戦友を救った勇気と行動力は敬意に値する!」
「大佐…」
「しかし!」
「へ?」
「戦線維持の命令に反し、独断で戦線を離脱したことは軍紀に反する! よって!部隊室の掃除一週間!」
「サー・イエス・サー…」
レイズは肩を落として敬礼した。
「一刃!」
「は、はい!」
「全員の危機に対しての迅速な行動と決断は敬意に値する! しかし!」
「はうっ!」
「待機命令を無視した事は許し難い! よって、3週間の訓練送りとする!」
「りょ、了解しました〜…」
一刃は涙目で敬礼。
「ビンセント!」
「あぁ!?」
グラムにメンチを切るビンセント。
「…何だ、その返事は…。まぁいい。お前は言わずと知れた暴走行為! 本来なら部隊から放り出される物だが、特別に容赦してやる。しかし! 蒔いた物は刈り取れ!」
「て、手前ぇ…!」
「シェーファー全員に、ディナーをおごれ」
「は?」
「聞こえなかったのか?飯をおごれと言っているんだ。勿論シティーの極上レストランで」
グラムの言葉にビンセントは一瞬固まってから噴き出して笑った。
「はは、デザートも付けてやるよ」
「頼んだぞ」
お互い笑ってから、グラムは皆に言った。
「全員よくやった!解散!」
「サー・イエス・サー!」
レイズは肩を落とし、サラに慰められながら帰っていく。
一刃は不安な顔をしながら、春雪と共に帰っていく。
しかしビンセントは、ユリアを抱えながらも、帰るそぶりは見せなかった。
彼にはもう一人、声をかけるべき者がいた。
「帰るぞ、イオ…」
彼女はただ、スペクターの巨大なランディングギアに寄り掛かったまま、なにも言葉を返さなかった。
「なぁ、イオ…」
「やっぱり、敵わないです…」
「イオ?」
「本当の家族には…とても敵わないです。苦しんでいるあなたに、私は何も出来なくて…、自分の事ばかり考えて…。でも、私が入る余地なんて最初から無かったんですよね…。だってあなたは人間で…私はただの兵器だから…」
ビンセントの顔を見る事もせずに、ただ沈んだ声を発するイオ。
そんな彼女に、ビンセントは話し始めた。
「昔な…、こいつがまだ女の子らしかった頃に、料理を作ってくれた事があってな。それがすんっげぇまずいんだわ、これが…」
「…彼女にはなんと?」
「…うまいって」
「はあ…」
「でもそれ以来、ユリアは料理を作らなかった。自分でも分かってたんだな、『兄ちゃんのご飯が一番だ』って言って、笑うんだよ。それが可愛いくてな…、似合いもしねぇで料理の勉強した」
「それで…ですか…」
「だからよ…料理の腕には自信があるんだ。それでな、イオ…」
「はい?」
「また俺の作った飯…食べに来てくれねぇかな…」
ビンセントは照れ臭そうに頬を掻いた。
「うぇぇ…」
泣き出すイオ。
「な、どうした?イオ…! 俺の飯、まずかったか?」
「違うんです、ビンセント…嬉しくて…嬉しくてたまらないんです…」
「イオ…」
「私、あなたのイクサミコでよかったです!」
イオは満面の笑みでビンセントに答えた。
微笑み返すビンセント。
イオはビンセントの手をしっかりと握り、まるで家族のように歩いて行った。
その途中、ビンセントが何かを思い出す。
「ん? ユリアはどうやって前線まで来たんだ?」
[ロンギマヌス降下地点より600km、荒野]
輸送機、エンジントラブルにより不時着。
「なんか忘れられるの慣れたっすわ…」
************
「雨降って地固まる…か…」
ガルスがぽつりと呟いた。
今日もこれで、長い一日が終わる。
そう思った矢先、デスクのインターホンが鳴った。
「私だ」
「司令、お客様です」
「客?」
突然、部屋のドアが開き、一人の男が入ってくる。
男は言った。
「久しぶりだな、ガルス」
TO BE CONTINUED...
作品名:VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき 作家名:機動電介