VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき
レイズはビームランチャーを強く握り締めた。
「3…」
高鳴る心臓。
「2…」
全身から噴き出す脂汗。
「1…行くぞ!」
レイズは奥歯を噛み締め、スラスターを一杯に吹かした。
機体がクレーターの中から飛び出す。
「撃ちまくれ!」
二機は高速でバックしながら僅かに残ったソルジャーの残存勢力に攻撃を叩き込んだ。
ソルジャー達が、真ん中の道を空けるかのように両翼から追撃してくる。
「高エネルギー反応検知! 砲撃来ます!」
一条のビームが、水平な弾道でレイズ機のすぐ横を通過した。
「始まった!」
「動き続けろ!捕捉されたら終わりだ!」
左右に大きく蛇行しながら機動する二機。
スナイパーからの何発ものビームが、彼らの機体を擦過する。
「すまねぇ…レイズ。俺のせいだ…。お前まで巻き込んじまって…」
レイズの声が帰ってくる。
優しい、落ち着いた声で。
「仲間でしょう? 僕たち。同じ地獄に居るんです。死ぬ時も、一緒です」
「レイズ…」
あぁ…畜生…かっこいいな、こいつ。
「そうだな…そうだったな…!」
二機の後方に、最初の塹壕が見えてくる。
「見えた!後方5km!」
「帰って来たぁ!」
レイズは、腰に下げていたショートバレルの100mmサブマシンガンを抜き、時限トリガーをセット。
前方に放り投げる。
放物線を描きながら飛んでいくサブマシンガンは、その頂点に達したとき、彼のセットした通りに火を噴いた。
偽情報を撒き散らしながら落ちていくサブマシンガンを、スナイパーのビームが貫く。
瞬時に蒸発するサブマシンガン。
その隙にビンセントは、後ろ向きのまま塹壕に飛び込んだ。
「早く来い!」
「今行きます!」
「レイズ!」
声を上げるサラ。
その時、偶然にも致命傷を免れたたった一機のソルジャーが、躯体の質量を使って損傷部を再生させ、レイズ機の足元に向かってビームカノンを発砲。
ビームは、レイズ機のちょうど踝に命中した。
「脚部破損!」
「そんなインチキ!」
膝を突く機体。
「こんガキャあぁぁぁ!」
ロンギマヌスのマシンカノンがソルジャーにとどめを刺すなか、スナイパーの砲身がレイズ機を捉える。
「止まるな、レイズ!」
「あ、脚が…!」
発射されるビーム。
次の瞬間、ロンギマヌスの頭上を一発の榴弾が過ぎ、レイズ機の目の前に着弾。爆風は機体を吹き飛ばし、塹壕の中へ転がり落とさせる。
ビームは塹壕の縁に着弾した。
「大丈夫か! レイズ!」
「ええ…でも今のは…?」
「着弾の仕方からして曲射弾道…! 方向からして遥か後方! イオ! センサー範囲を最大で探査! 周囲の機体を探せ!」
「了解!」
レーダー範囲最大。
金属センサー、温度センサーの感度を最大に。
「見つけました! でも…」
「どうした? イオ」
「HMA…です」
「部隊の支援射撃か?」
「いえ…私達を残して他の部隊は全て退避しました!」
「それじゃあ…」
「ここから後方15km…ロンギマヌスです!」
「なにぃぃ!?」
「ロンギマヌスが! パラディンを構えています!」
「あの馬鹿野郎…大馬鹿野郎ッ!!」
彼らの居る塹壕の遥か後方15km地点。
彼女の乗る旧ロンギマヌスは、片膝を突きながらパラディンを構えている。
「待たせたね、兄貴っ! 着地点の奴らみんな死んでるもんだからさ、弾集めるのに手間掛かっちまった」
ユリアはパラディンのマガジンを外しながら、無線でビンセントに話し掛けた。
「ユ、ユリアさん!?」
「馬鹿野郎…馬鹿野郎…大馬鹿野郎!何しに来やがった!この馬鹿娘!狙撃兵がいるんだ、撃たれて死んじまうぞ!」
ユリアを怒鳴り付けるビンセント。
怒号を撒き散らすビンセントに、ユリアは静かな声で答えた。
「分かってるよ、兄貴」
「だったらとっとと…!」
「ねえ、兄貴…覚えてる?あたしがまだ小さかった頃の事…。兄貴の機体勝手に乗り回して、ライフル持ち出してはうちの近くの岩撃って、その度にゲンコツ食らってた…」
彼女は徹甲弾を装填したマガジンをパラディンに取り付けた。
その間、スナイパーはセンサー範囲を徐々に拡大していく。
「あたしは追い付きたかったんだ…。いつもあたしを置いて行っちゃう兄貴に…。一緒に居ても足手まといにならないように…でもあたしは勘違いしてた。兄貴はあたし達を守るために戦ってたんだよ…昔も今もずっと…。だから今度は…あたしが守る番!あたしは一歩も退かない!」
そう言ってユリアは、パラディンの砲口を遠い荒野の地平線へ向けた。
深く目をつぶるビンセント。
イオが、優しい表情でビンセントに微笑みかる。
「ビンセント…」
「全くよ…どいつもこいつも…」
一瞬、彼は強く奥歯を噛み締めてから大きく息を吸った。
「いいか、ユリア! 一発だ! 一発で仕留めろ! 奴はHMAのセンサー範囲外! 光学照準だ!」
「了解ッ!」
ロンギマヌスの高感度光学カメラが、遥か荒野のスナイパーを見据えた。
「見えた!前方53km地点! 目標シグネチャでロック! 風速8!」
スナイパーの砲身がゆっくりこちらを向く。
「……ッ!」
「撃てぇ!」
「行っけぇ!」
火を噴くパラディン。
撃ち出された155mmメタニウム徹甲弾は、スナイパーへ真っ直ぐ向かって行く。
「当たれ! 当たれ! 当たれぇ!」
ユリアは呪文のように何度も繰り返す。
刹那、スナイパーの放ったビームが空を切り裂き、煌めいた。
「…!?」
言葉を失うユリア。
ビームは、彼女の放った徹甲弾を正確に貫き、一瞬で蒸発させる。
「砲弾が…!!」
「逃げろ、ユリア!」
続けて発射されるもう一発のビームはユリアの乗るロンギマヌスへ迫っていた。
「くッ!」
彼女は射線を下ろし、パラディンを発砲。
次の瞬間、連射されたメタニウム徹甲弾が、スナイパーのビームを接触。
瞬間、ビームのエネルギーによって瞬時に熔解したメタニウムは一気にプラズマ化し、体積を急激に膨脹させ爆発。強力な電荷を帯びたメタニウムプラズマは、スナイパーの放つビームの弾道を捩向けた。
たった数%の誤差。しかし、運命の誤差。
初期の弾道からずらされたビームが、ユリアの乗るロンギマヌスの左肩上を擦過。大出力のビームパルスは、装甲の一部を抉り、右肩の駆動システムを焼いた。
仰向けに倒れ込むロンギマヌス。
スナイパーの砲口が、彼女を睨み付ける。
「早く起きろぉ!」
叫ぶビンセント。
「兄貴…」
着弾するビーム。
巨大なエネルギーが開放され、青白い光球が弾ける。
「おい…ユリア…」
無線で呼び掛けるビンセント。
しかし返ってくるのはノイズのみ。
無線のスピーカーは、無情にも雑音のみを発している。
「ロンギマヌス…応答ありません…」
ビンセントの顔が崩れた。
「…畜生…畜生! 畜生! 畜生! こんなの有りかよ…チクショウ! 男も知らねぇままおっ死にやがって…! 間際の言葉が兄貴だ? …もっと色っぽい台詞は出ねぇのかよ馬鹿娘!」
「ビンセント…」
そのときだった。
「ビン…セ…トさん…!」
突然無線に響いた声。
「ビンセントさん!」
「へ?」
作品名:VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき 作家名:機動電介