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VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき

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 ブリーフィングモード。
「緊急出撃だ。4分前、フィラデルフィア管轄地域内でヴァリアントのゲートを観測。直後から支部部隊との交戦が始まっている。支部部隊と本部増援による必死の抗戦で今は膠着状態が続いている様だが、いつ均衡が崩れてもおかしくない。その前に我々が交戦部隊の直前へ出て、一気に攻勢へ転じる。レイズとビンセントは迎撃装備で出撃。降下地点で即座に布陣、隊を立て直せ。一刃!」
「はい!」
「お前は本部で待機しろ」
 一刃が怪訝そうな声で聞き返す。
「待機…ですか?」
「そうだ。お前は残って、別命があるまで現状を維持。非常時に備えろ」
「大佐! 僕は…!」
「一刃! 前回とは訳が違う。それにお前が不要な訳じゃない。非常事態に備えろと言っているだけだ。幸い、お前の水蘭は脚が速い。直ぐに出れるように、第三滑走路で待機していろ」
「…わかりました」
 一刃の了承を確認したグラムは、ディカイオスのコクピットの中で大きく深呼吸した。
「行くぞ、エステル」
「はい」
 グラムが号令を出す。
「シェーファーフント、出動!!」




************




「シェーファー、水蘭を除き全機、スペクターへの搭載完了しました」
「スペクター第二陣、一号機から三号機までの離陸を確認…」
 本部司令室で、オペレーターが部隊の出撃情報を報告する。
「もう少し近くなら海軍が使えたのだがな…」
 ガルスはため息混じりの声を出していた。
「“ブロークンアロー”は?」
「まだ受けていません」
 ガルスは髭を摩りながら考え込んだ。
「ディカイオス到着前に膠着状態か…」




************




 取り留めの無い会話が断続的に続いている。
 高度40000ft、時速1000kmで作戦領域へ向かう、大型全翼式輸送機[スペクター]の中、スタンバイ状態の機体コクピット内は暗く、明かりといえばコンソールの発する微かな光のみ。
 息が詰まるような閉塞感も、いつもは、イクサミコの発する温かい生気と言葉が掻き消してくれるが、今の彼にとっては欝陶しいだけだった。
「本当にそれで良いんですか?」
 イオが、既に幾度も繰り返した質問を再びしてくる。
 何度も同じ答えを返したというのに。
「あのままでは…」
「うるせぇ…しつこいぞ、イオ」
 ビンセントがイオの言葉を掻き消す。
 いらついた口調。
「ユリアは家に帰す。俺は既に死んでる身だ、その事を貫き通しゃ面倒はねぇ」
「あなたはそれで良いんですか?」
「それしか無いだろ…」
「意地っ張り…」
 ビンセントの言葉にイオが呟いた。
「何?」
「意地っ張りって言ったんです!」
「何で俺が意地っ張りなんだ!? 言ってみろ、おい!」
 大人げなく、イオを怒鳴り付けている自分に気付く。
「すまねぇ…イオ…」
「…怒鳴らないでください…ビンセント…怒鳴らないでください…!」
 イオはその大きな瞳から大粒の涙を零していた。
「…すまねぇ…イオ…。でも、頼む…!聞いてくれ!これは俺とユリアが決めた事だ。悪いがな、イオ…お前は口を挟まないで欲しいんだ…」
 操縦桿を強くにぎりしめるビンセントに、イオは小さな声で呟いた。
「だったら何故あの時…私に夕食をご馳走してくれたんですか…?」
「イオ…?」
「…私馬鹿だから…たったそれだけの事で、みんなと…あなたと家族になれたって勘違いしちゃったじゃないですか!」
「待てよ、イオ!俺は…」
「本当に嬉しかった…。優しくしてくれて…ユリアさんも笑顔で…嬉しくて楽しくて…。おかしいですよね…人間でもないのに…」
 スペクターが、作戦空域に到達する。
「…ビンセント、…私は人間に生まれたかったです」
「イオ…!」
「作戦領域到達。降下領域到達120秒前。全機降下後、スペクター編隊離脱。カウントダウンへ入ります」
 涙を拭い、ビンセントの言葉を遮るイオ。
 彼に、イオへ返す言葉は一つも無く、ただ彼女の声に従うしかなかった。
 スタンバイモード解除。機体が一気に息を吹き返す。
 システム、アクティブ。
 外には、他の部隊が乗るスペクターが、あと四機。
 そしてそれに追従するエスコートファイターが6機。
 全ての機の先頭を、ディカイオスが飛行している。
「ディカイオスから全機へ。降下後は各機スリーマンセルで行動。分隊支援火器を装備した隊は後方で布陣。レイズとビンセントは、部隊中央で敵の反攻に備えろ。我々は先に編隊から離脱する」
 ディカイオスは編隊を離脱。
 単独での行動を開始したディカイオスの後方で、スペクター編隊はHMA射出体勢に入った。
「降下30秒前」
「聞いてくれ、イオ…」
 ビンセントは縋るような口調で訴える。
「俺は…お前を“物”と思った事は一度も無ぇ…!それだけは信じてくれ…」
 スペクターのハッチが開き、ビンセントの乗るロンギマヌスは、カーゴから空中へ放り出された。
 機体は巨大な空気抵抗を伴いながら地面へ降下していく。
 戦場へと向かって。




************





「盗み聞きはいけませんよ?」
 開かれた通信回線。
 ロンギマヌスに接続されたそれは、受信のみの“盗聴回線”だった。
「なぜか昔の私たちを思い出してな…」
 グラムの言葉にエステルが微笑む。
「なら、心配はいらないわね…」
 モニター一杯に、ヴァリアントの群れが映った。
「目標捕捉、ソルジャータイプ数150、距離50000」
「降下部隊は?」
「全て規定のLZに着地しました」
 ディカイオスは敵射程内へ侵入。
 ソルジャーが、上空のディカイオスに向かってビームカノンを撃ってくる。
「絨毯爆撃をかけながら行く。ミサイル全弾発射、ホーミングレーザーはミサイルのリロード中2秒の間に斉射しろ。全領域制圧砲を起動。自動照準で対空防御!行くぞ!」
「了解」
 ディカイオスの周囲を囲むように、五つのエネルギー塊が現れる。
 次の瞬間、それらの兵装が開放された。
 射出された無数のミサイルが、ソルジャーの群れの中で炸裂し、大輪の炎華を咲かせていく。
 降り注ぐホーミングレーザーの雨。
 エネルギー塊から放射される極太のアクティブビームが、空中の敵を焼き払ってゆく。
 群れの奥へ進んでいくディカイオス。
 その時エステルが、前方に巨大なエネルギーを感知する。
「高エネルギー反応検知」
 グラムはディカイオスを徐々に減速させ、やがて空中で静止。
 ディカイオスの目の前で空間が歪み、巨大な質量物…リベカのネクロフィリアが現れる。
「また会ったな…ディカイオス!」
「いつもいつも勤勉だな。これもお父様とやらの指図か?」
「うるさい!私は自分の意思で戦っている!幼稚な指揮系統のきさまら有機生命と一緒にするな!」
「ならそれに負けるお前は粗大ごみだな」
「ほざくな!お前に負けてから私の毎日は地獄のようだった…。辛い修行…お父様のお仕置き…それを乗り越えた今日の私は一味違うぞ!」
 圧縮空間の中から4本の剣を抜くリベカ。
 対するグラムは、亜空間コンテナからプレッシャーカノンを取り出しリベカに向けた。
「そこまで言うならしょうがない。相手をしてやろう」