君といた時間
僕は必死でこの空気をどうにかしたくてパソコン前に移動して、怜二郎に席を促した。ちらりと怜二郎の様子を窺うと彼はいつも通りの落ち着き払った顔立ちをしていて、どうやら慌てていたのは僕だけだったようだ。何故だか僕はほっとしたと同時に、ほんの少しだけ胸が疼くのを感じながらパソコンを起動させていると、彼がぽつりと呟いた。
「可愛がられてるんだ。」
「ええ?!」
思わず不満の混じった声を上げたが、怜二郎はくすくす笑いながら続けた。
「良さそうな人達だった。サークルって思ったより楽しそうなんだ。」
確かに毎日バイトなんてしてたらサークルなんてやる時間ないよな、なんて思いながらも僕は怜二郎の初めて笑う様子に思わず見入ってしまった。こんな風にも、笑うんだ。
「うん、はやくこんないいトコで造った圭の作品観てみたい。」
微笑いながら話す僕を呼ぶ声が頭で響くと、全身が心臓になったみたいに早鐘を打って、頭がぼうっとした。僕はなんでこんなに怜二郎に振り回されてしまうんだろう。
圭?ともう一度呼ばれて我に返り慌ててディスクをパソコンに入れて小さな上映会を始めると、さっきとは違う意味でまた心臓が速くなってくる。たった2分と少しが倍以上の長さに思えて、頭の中はぐるぐるしてもうめいいっぱいだった。エンドロールが終わると、僕は必死になって言い訳を取り繕おうとした。
「いや、これでも一番はじめに造った作品よりは全然マシな方なんだ!べ、別にアニメが特別好きって訳じゃないんだけど、でも一度やってみたかったというか、徹夜したり、友達にもたくさん手伝ってもらったりして僕なりに頑張ったんだけど」
一気にまくしたててみると、怜二郎はまた可笑しそうに笑って言った。
「俺、まだ何も言ってないじゃん。」
うっ、と僕は言葉に詰まるといよいよ耳まで赤くなったような気がした。
「圭がここで可愛がられるのよくわかる。ほんと面白いし可愛いもん。」
その言葉に僕はもう顔から火が出るような恥ずかしさで、頭はパンク寸前だった。
「俺アニメーションは詳しく無いけど、この作品すごい好きだよ。圭もほんとはアニメーション好きなんでしょ。」