君といた時間
僕は急に彼の顔を見るのが恥ずかしくなった。僕だって最初は彼と同じように絵を描くのが好きで浪人してまでこの美大に来た。けど周りはみんな上手い奴らばかりで、一人置いて行かれているような気がして、がむしゃらにサークルやグループ展に参加してみたりしたけど、だんだん何の為に造っているのか解らなくなってきていた。そんな僕に今の彼は眩しすぎる。さっきまで彼も同じように不安なんだ、だなんて勝手なシンパシーを感じてたのが妙な罪悪感になっていく。
「でもやっぱり、造るのが好きだけじゃどうにもなんないよな。いっぱい描いたけど、それが自信になんてならかった。でもさやっぱり描き続けて良かったって思えたよ。アンタのお陰。」
「僕が?」
「そ、ありがと。こんな風に普通に褒めてもらえてちょっと嬉しかったから、また頑張りたくなった。」
そう言って、怜二郎は微笑んだ。
「次は、アンタの造ったもの見てみたいんだけど。」
そう言われて途端に心臓がドキンと音を立て、僕は彼の目を見れないまま言い訳を探した。どうしても見せる気にはなれなかった。すると途端に怜二郎がもとの無表情に戻って、ごめんと言った。
「俺また勝手なこと言った。ごめん、忘れて。」
じゃあと身を預けていたソファーから立ち上がる怜二郎に向かって、思わず僕は引き止めた。
「待ってよ!」
立ち止まってくれた事にホッとしながらも、振り返った彼の顔が直視できないまま僕は言葉を探した。ただ、このままさよならは厭だった。
「僕もその、全然、上手くなくて自信なんか無いし…。だから、その…1年の時の、アニメ…でもいい?」
我ながら酷い台詞だと思った。何をやっているんだろう、僕は。自己嫌悪と恥ずかしさで顔が上げられない。今は沈黙の中に響く雨の音が今度はやけにうるさく思えた。
「じゃあ、また――木曜ね。」
そう言った怜二郎の声は優しかった。
翌週、僕は約束通り1年の時に造ったアニメーションのデータを持って怜二郎を待った。