君といた時間
前にグループ展示で何度か利用したことがあったけどこんなに広かったけな、そんなことを思っていると突き当たりの壁に一枚の絵が現れた。
デカい。この大きさは卒制レベルだ。しかしそんな大きさへの驚きよりも、”キレイ”だとか”上手い”だとかよりも、もっと原始的な「この作品が好き」という想いでいきなり僕の裡は一杯になった。高揚感のような、安心感のような、不思議で心地よい感情。何故だろう、決してとびきり上手い訳でもないと思う。それでも、僕はこの絵が好きなんだということだけは解った。
しばらくして絵から目線を離すと、床で猫や犬のように身体をまるめて寝入ってる男がいて、その傍らにはスケッチブックがあった。驚いてつい出しそうになった声を文字通り飲みこんでからその青年の様子を窺うと、油絵科でも版画科でも見かけたこと無い顔だった。ましてや院生でもなさそうだ。けれど僕は直感的に、目の前の作品がこの青年のものだと思った。サラサラで少し長めの黒髪から覗く顔立ちは、一言で言えば美人だ。
「男に美人って――」
失礼だろ、思わず声に出して呟き青年から少し視線を反らす。なんだか心持ち顔が火照るような気がした。反らした視界にちらりとスケッチブックが入ってきたが、再び青年に視線をもどす。
こんなひんやりした床の上に薄いシャツ一枚でこの人はいったいいつから寝ているんだ。青年は少しヨレている白いシャツ一枚にジーパンを合わせていたが、お世辞にもお洒落に気を遣っているとは言えない格好で横たわっていた。そんな僕も別に大それた服を着ているわけではないんだけど。とにかくこのままじゃ風邪をひくし、それに20時になればこのサークル棟は施錠されてしまう。まるで母親のおせっかいのような心配をよそに、彼は気持ち良さそうに寝入ってはいるけれど心無しか顔が蒼白い気もする。
とにかく起こさなきゃと、今一度時間を確認しようとしたその時。
ケータイが手から滑ったと思うと、さらにその身を青く光らせながら鈍く振動し始めた。刹那、僕も彼も驚いて身体が跳ね上がったけど、慌ててケータイを拾いあげ、誰からの着信か確認もせずにすぐさま電源を切ると、まだ少し寝ぼけ気味の青年と目が合った。
「あー…う、その…」
バツが悪くなって、でも謝りたくて発した声はあいにく単語にすらならない。いくらなんでもこんな起こし方は僕だってしたくなかった。