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君といた時間

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君といた時間―Our Happy Thurs.―



「お疲れさまでしたー。」
そう言いながら”上野美術大学映像研究部”と書かれている微妙に立て付けの悪いドアを後にして、サークル棟の古い階段を鈴木圭は一人降りて行った。5月も半ばになり、だいぶ陽も長くなってきたとはいえども、さすがにこの時間にはもう顔を差す西日もない。踊り場の大きな窓からそのちょうど陽が沈みきるかきらないか曖昧な空に少し目をやった後、ケータイを手にすると待ち受け画面は19時過ぎを示している。いつもならこんな時間でも端から端まで騒がしい筈のこのサークル棟だけど今日に限って人もまばらで、その妙な寂しさがなんだか胸の内をざわつかせた。

一階まで降りてきて、足下ばかり見ていた視線をふと前方へやると、サークル棟に併設されているギャラリーからうっすら灯りがもれていた。このギャラリーは学生の個人活動展示の為に生活課から借りられるもので、そこそこの広さがあり、勿論僕も入学してから2年になるが何度か利用している。
もう一度ケータイで時刻を確認してみるが時刻はやはり19時をとうにまわっている――このギャラリーは18時までの筈なのに。
ふとさっきまで一緒にいた先輩が、施設使用のマナーが悪いからって最近生活課が色々と煩いんだ、と愚痴をこぼしていたのを思い出す。もっともそれに対して僕は先輩を慰めるでもなく、共に憤慨する訳でもなく、ただなんとなく愛想笑いを浮かべるしかできなかったんだけど。
良く言えば慎重で控えめな性格、最近流行の草食系というタイプに分類されるんだと思う。入学当初こそ積極的にグループ展示などに参加してみたりもしたけど、学生生活2年目の今じゃこの映像サークルの企画以外はめったに参加していない。そんな僕には最近は縁遠くなってしまった、普段なら通り過ぎるギャラリーがその日はなんだか妙に気になり、まるで室内からぼうっと漏れる光に誘われたように足を踏み入れてみた。
ずっと使われ続けてもはや真っ白ではなくなった天井と壁と床。今日で展示が終わったのか、室内には作品が見当たらない。その空っぽさにまた言い知れない寂しさに襲われそうになった僕は、ポケットのケータイを弄びながら奥の一角に点いた灯りの方へ進む。静かで薄暗い室内に響く靴音がやけに耳障りだ。
作品名:君といた時間 作家名:ソウスケ